冬の雨
口数の多い人間は詐欺師が多い
相手によって雰囲気を自在に変えれる奴は心がない
相手によって態度を変えるのは人間のクズ
多くの人の評価もあながち検討外れではない
その場は口で誤魔化せても
魂に汚物がこびりついている
早くあの場所に行かなければ
早く、早く早く
ガサガサと音がする方向に全神経を集中している
耳も目もこの空間と一致しようとしている
木枯らしが色を失った葉っぱを舞い上がらせる
その様を見ていたいと、じっと観察している
横に押し流されるだけで、
中々上には上がらない人工的に作られた嘘の緑の空間
隣の神社
なんで俺はここに来たんだろう
今更、神頼みか
自然と足がそっちに向っていた
なぜか早くこの場所に行かなければいけない気持ちになっていた
でも来たからといってなにもない
別に助けてくれなんてお願いする気もなかった
神に願って今の苦しみから助けてくれるのかよ、
そんなことはあり得ない
この後に及んでも悲しいまで理性的な性分
いっそ狂えばどれだけ楽だろうか
この世に神も仏もあるものか
今更、笑止な事だよな
それは痛いほど理解している
寒さの厳しい12月の昼下がり
街はクリスマス色に染まり空間全体が歓喜の様相に沸いていた
昼間の明るい空間にも映えるデコレーション
街全体が愛の日を祝っている
そんな幸せ色が
寒さが厳しく、風が鋭く、
唯一防寒していない顔に突き刺さる
夢遊病者の様にゆっくりとした動作で男が歩いている
恰も躰と心が分離しているが如くである
あの女さえ居なければこんな思いをしなくても済んだのに、
男は独り言を云い乍ら歩いている
俺はなんの為に生きている
もう終わりにしてもいいじゃねえのかよ
一人でこの世を去るのも癪に障る
いっそあいつも道連れにしてやろうか
あんな女は死んだ方がいいだろう
この世の為だ、
世の為、人の為だ
俺も最後はいいことして
この世を去って行こうか
クズを回収して俺と共にこの世から消える
全く笑えるね
あの世に帰ってからまたバトルのかよ
そうだ、なんで俺はこの神社に来たんだろ
理性じゃなくて本能かもな
神なんて信じてはいないが
この世を去る前に告白して
すっきりしたい気持ちで死にたかっただよな
こんな風に転落していったのは
運命としか言いようがねえよな
俺は子供の時から愛されなかった
愛のない家庭に育った
だから大人になってからは
なんとか暖かい家庭を作ろうとした
学歴の無い俺でも人よりも多く働いて金を稼ぎ
睡眠時間、休息を減らして、命を削ってまでも働き
そして漸く結婚して子供も生まれた
なのによ、これからという時だよ
運命は俺からなにもかも奪っていったじゃねえかよ
わずか一歳で子供を病死で失い、
俺達夫婦から幸せを奪い
その後は女房が浮気して俺の元から去っていった
あの女は多額の借金を俺名義にして行方不明
あの女は俺の前では良い女房を演じていた
従順でいつも俺を立ててくれた
俺は満足だったし
あの女が天使に見えた
だけど付き合ってる時にあの女の噂が俺の耳にも入ってきたよ
あの女は悪女だと
周りの人からあの女と付き合ってる時に
色々言ってくる人もいた
その度に俺は激怒して中傷してくる人を怒鳴り上げた
あの女を庇い、そして結婚したんだ
新しい家庭を作った時の俺達の将来を夢見てよ
それがこの様だ
周りの人は敵じゃなかったよ
親切な善人だった
あの女は金にも男にもだらしなく
結局、男と借金を作って俺を裏切り
俺の元から何も云わずに去っていった
今、どこにいるのかも分からない
そして俺は借金取りに追い詰められ
仕事も失い、帰る家も失い
逃亡生活をもう一か月も続けている
どう考えても俺は悪くないだろ
なのになんだよ、この笑ってしまう不幸は、
もうなにもかも八方塞がり
どうすることもできない
疲れたよ、もう終わりにするよ
「神様、奮発するぜ」
男は賽銭箱に千円札を入れた
男にとってのこの千円札は身を切る重みの金額
だけどももうこの世から去っていく餞別として喜捨をした
雨が降ってきた
冬の雨
凍えそうに寒い
先にはラーメン屋台が見えた
今どき珍しいと思いながら
途端に腹が減ってきた
体がラーメンを欲しがっている
男はふらふらと屋台の方に向かい歩きだした
風も出てきた
木枯らしの音が聞こえてくる
ピユーピューと泣いていた