第七話「物語と疑問」
あれからまた数週間たったある日、ユネは授業に集中できないことが多くなっていった。何故なら、考え事をしてしまっているからだ。
「もしかして、私達も物語の中の登場人物なのではないか?」
そんな事をずっと考えているのだ。もしも自分が物語の中の登場人物だとして、自分の存在する意味はなんなのか。自分はどうして生まれたのか。自分の人生は決められていたものなのか。そう考えていくうちに段々と泥沼にはまっていき、何が何だかわからなくなっていく。こんな事を繰り返し考えては、授業の内容をノートにとれず、チャイムが鳴るという日々を送っていたのだった。
昼休み、いつものようにマコトと話をしていた。
「それで、次の話はどうしようか。」
「ごめんマコト、その話は後でもいいかしら。」
「ん、いいよ。もしかして何か悩んでる?」
「ええ、そうなの。」
ユネは考え事の全てを打ち明ける。
「難しい悩みだね…」
「そうよね、色々考えてたらわからなくなっちゃって。マコトはどう考えてるかしら?」
「ううん、どうだろう。私にはまだ返事ができないな。少し考える時間がほしい。」
「いいわよ。私ももう少し考えてみるから。」
そうして二人は雑談を終え、学校生活に戻っていくのだった。
家に帰ったユネは、母親の加治木エレナに相談する事にした。
「ねえ、母さん。」
「あら、お帰りなさい。どうしたのかしら?」
「今日の営業時間終わったら相談があるから、後で時間作ってほしいんだけど、いい?」
エレナは優しい笑顔で答えた。
「ええ、いいわよ。かわいいマイエンジェルのためならなんだって聞くわ!」
「ありがとう、母さん。でも、そろそろマイエンジェルはもう卒業したいな。」
「あら、じゃあマイスウィーティでどうかしら?」
「あはは、どっちも変わんないよ、母さん。」
「そうかしら?」
「うん、変わんない。それじゃ、また後でね。」
「ええ、パパにも話しておくわね。」
「ありがとう。待ってる。」
数時間後、家族三人そろって、夕飯を食べ終えたところで、ユネは相談を持ちかけた。
「ねえ、母さんから聞いたとは思うけど、父さんと母さんに相談があるの。聞いてくれるかしら?」
「いいわよ、マイスウィーティ!」
「もちろんいいよ。どうしたんだい?」
二人は真剣な目でユネの言葉を待っている。
「父さんと母さんは、自分が物語の中の登場人物かもしれないって考えた事、ある?」
「物語の中の登場人物か…」
「そうねえ…」
二人は全く同じ仕草で考えている。
「私はないかもしれないわ。今が幸せならそれでいいと思って生きてきたし…」
そうだろうなとは思っていた。大体、物語の中の登場人物だとして、自分が気付けるはずはないのだ。
「僕は、あるよ。」
「あるの?」
正直ユネは驚いたであろう。
自分以外にそう考えた人間は身近にはいないと思っていたからだ。
「ああ、もしかしたら、僕はただのキャラクターで、こんなに幸せな家庭を築いてきたのに、それが物語だったとしたら…とかね。」
「やっぱり、そう思うわよね。他には?」
「そうだね、この人生を考えた人はどんな人なんだろうとかくらいかな。」
「この人生を考えた人…?」
その言葉の意味が理解できず、説明を求める目をサクヤに向けた。
「そう。僕は、生まれてから一般的といわれる生活を送って、大学生の時にママと出会って、食堂を経営して、ユネが生まれて、今ここにいる。そして、今この話をユネにしている。これらが作られたものならば、設定や筋書きは誰が作ったのだろうって考えた事はあるよ。」
「ふうん、父さんって私よりも難しい事考えてたんだね。」
彼女は感心していた。
「おや、話し込んでいたらもうこんな時間だね。明日も学校だろう?この話はまた今度ゆっくりしようか。」
「ええ、ありがとう、父さん。」
ユネはサクヤに挨拶をし、自分の部屋へ戻る。
部屋に戻ったユネは、さっきのサクヤの言葉について考えていた。もしも、自分自身も<作られた物語>の一部だとしたら。自分の生きてきた過去が設定ならば。自分のこれから行う事が決められているのならば。
「私達の物語を書いているのは誰…?」
彼女はそう呟いた。




