第四話「毀損と冤罪」
マコトとセンが和解してから一ヶ月が経った頃。ユネは相変わらず、朝早くの図書委員の当番に赴いていた。そんな彼女の目の前に、ひとつの葉が落ちてくる。銀杏の葉だ。色からして紅葉が始まったところなのだろう。もうそんな季節なのかと思いながら、鮮やかな暖色の絨毯の上を通り、白い校舎の中へと歩みを進めていく。
ユネが図書室へ着いた時、嫌な予感がした。
「な、何これ…」
ドアを開けたユネは驚愕した。隙間だらけの本棚、乱雑に放り投げられた本、折り目だらけのページに破かれたプレゼント用の栞。図書室の中は、酷く荒らされていた。
「酷い…」
彼女は荒れた図書室を直そうと室内へ踏み入り、本を一冊拾ったその時。
「何してるんだ!」
先生の怒鳴る声が聞こえた。
「せ、先生。」
驚きすぎて言葉が出ないまま、立ち尽くしてしまった。そのせいか、先生の声はさらに荒っぽくなっていく。
「その本を置いてこっちに来なさい!」
「あ、違うんです先生!」
「いいから来なさい!」
弁明をしようと口を開いたが、そこから先の言葉は放たれる事はなかった。
放課後、生徒指導の先生に説教を受けたユネは、うつむきなが廊下を歩いていた。一体誰があんな事をしたのだろうかと考えながら。
「加治木さん。」
不意に呼び止められる。彼女が振り向くと、そこには高識センが立っていた。
「…なんですか。」
「ああ、そんなに身構えないでよ。今日は悪い事をしにきたわけじゃないからさあ。」
ユネはどういうことなのだろうと思っただろう。きっと彼女は、センが他者の考えを受け入れた事を知らないのだから。
「なら、何の用ですか。」
「今日は謝りに来たんだよ。」
そう言うと、センはユネの後ろのほうを見て手招きする。そしてそこから現れたのは、彼女の親友のマコトだった。
「マコト…」
ユネは後ろめたい気持ちでいっぱいだったが、そんな彼女を気にも留めず、マコトは話し出す。
「ユネ、聞いて欲しい事があるの。」
「な、何かしら。」
「センが私の原稿用紙を燃やしたり、私に物語を書かせまいとしてたのは、センにとって、物語の原作が大切だっただけなの。でも、今のセンは他の解釈を知った。受け入れた。だから、どうかセンの言葉に耳を傾けて欲しいの。」
ユネはしばらく考えていた。
「…わかったわ。」
「ありがとう。」
マコトは、センに話してもらうように目配せをした。
「僕の身勝手な考えで心を傷つけてしまい、申し訳ありませんでした。」
想定外の誠実さに、ユネは心底驚いた。
「そういう訳だから、そんなに気に病まなくていいよ、ユネ。」
「…ええ。」
そうは返事したものの、ユネが気に病んでいることはその事ではない。今朝、図書室が何者かに荒らされてしまっていたという事だ。本が大好きな彼女にとって、気を病ませるには十分な出来事だったのだ。一体誰が何の目的で図書室を、大切な本たちを滅茶苦茶にしてしまったのだろうか。それに、先生が来るにはタイミングが良すぎるのではないか。いつあれだけの本を荒らす事ができたのか。考えれば考えるほど泥沼にはまっていくようだった。
「ちょっと、ユネったら。」
「あっ、な、何かしら。」
ユネはここでようやく呼ばれていることに気付いた。
「何か悩み事でもあるの?」
「もし良かったら僕達に話してくれないかなあ。」
「…ええ。実は、今朝図書室が荒らされてしまっていたの。」
彼女は、今朝学校に来てからの経緯を話した。
「そんな事があったんだね。」
「酷い話だなあ。」
「二人は、犯人に心当たりはあるかしら?」
考えてみたが、マコトにはさっぱり分からないようだった。しかし、センは違った。
「もしかしたら、彼かもしれないなあ。」
「彼って?」
「本郷谷アキラさ。」
「本郷谷?」
ユネには聞き覚えはないが、似た名前を聞いた事があるような気がした。
「そうだ。僕の情報網によると、彼は本を憎み、嫌っているみたいなんだ。」
「ふうん、確かに怪しいわね。」
「なんとかして聞きに行ってみる?」
「ああ、そうしよう。」
三人の考えがまとまったところで、解散していった。




