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第三話「喧嘩と改心」

 彼女は従兄の家へと着いた。チャイムを鳴らし、そのままずかずかと玄関のドアを開く。

「セーン!来たよー!」

彼女は玄関に入り、ドアを閉めながら大声で呼ぶ。そう、彼女の従兄とは、高識セン。生徒会長であり、今朝、ユネの目の前でマコトの原稿用紙を燃やした張本人であった。

「おお、よくきたねえ。」

「よくきたねえ。じゃないよ。脈絡もなしに呼んだりして、何の用事なの?」

「ああ、とても大事な話なんだよねえ。僕の部屋に来てよ。」

「わかったよ。早めに終わらせてね。」

「できたらねえ。」

へらへらと笑いながら、マコトを自分の部屋へと連れて行く。


 センは部屋に着くと彼女を適当な所へ座らせ、勉強机の椅子に腰掛ける。

「単刀直入に聞こう。伏谷くん、君は祖父の作品をなんだと思っているのかなあ?」

いつもの調子でへらへらと聞いてくる。

「お祖父ちゃんの作品は、素晴らしいと思っているけど、それがどうしたの?」

センの質問の意図を汲めないまま、マコトは返事をする。しかし、その返答を聞いた彼は、顔をしかめた。

「へえ。それなら何故、祖父の作品の二次創作なんかするのかなあ。」

「な、何故知ってるの?」

「そんなことはどうでもいいだろう。答えてくれないかなあ。何故、祖父の作品の二次創作なんかするんだ?」

センは明らかに苛立っている。マコトはまた喧嘩になると思っているだろう。

「私は、物語の登場人物の気持ちを汲むために書いているけど。それの何が悪いの?」

マコトは逆に聞き返す。

「原作に対する愛もない文章を書き連ねているというのに、何が悪いとか言うなよ。」

怒りのこもった返答が返ってくる。その怒りの強さに、マコトは物怖じしてしまう。

「祖父が、コウウン祖父さんがどういう気持ちでこの物語を書いたと思っているんだよ。なあ。」

昔喧嘩した時よりも激しい怒りをぶつけられ、困惑しているマコトをよそに、センは続ける。

「コウウン祖父さんが望んで終わらせた物語を勝手に曲げるなよ。コウウン祖父さんの気持ちを踏みにじるなよ。」

マコトは、センの言葉の中の感情が、怒りだけでは無い事に気付いた。どこか悲しみも混じっているような気がしたのだ。

「苦労して、登場人物の気持ちになって必死に書いていた祖父さんの想いを無碍にするなよ!」

「セン。」

感情的になるセンに、マコトは声をかける。

「なんだよ!」

「聞いて欲しいの。私はお祖父ちゃんの物語を無碍にしてる訳じゃない。物語に対する、私なりの愛情表現なの。」

「は?なに言ってんだよ。コウウン祖父さんの世界を壊してるだけだろうが。」

センはマコトを睨みつけながら言う。

「ううん、違う。」

「何が違うって言うんだよ。」

「私はね、お祖父ちゃんの世界を私なりの解釈で書いているの。」

マコトはまっすぐにセンの目の奥を見据える。

「お祖父ちゃんの世界はもちろん尊敬してる。でも、その解釈って、人それぞれ違うものじゃない?たとえば、六日の深夜十二時を過ぎたあたりで、明日の十時に集合ね、と言われて、六日の十時と受け取る人と、七日の十時と受け取る人がいるように、その世界をどう捉えるかは見た人次第なんだと思うの。」

センの心を溶かすように、マコトは語りかけていく。

「つまり何が言いたいんだ。」

「私とセンでは受け取り方の違いがあるだけで、お祖父ちゃんの世界への愛情に嘘はないということだよ。」

センは納得したのか、悟ったように笑う。

「…解釈違い、か。」

「そうだよな、人によって違うもんな。」

彼は彼女に向き直る。その表情は、どこかすっきりとしている。

「ようやくわかったよ。」

「セン…」

「すまなかったな、マコト。」

「…いいよ、わかってくれたんだもの。」

二人はお互いの顔を見つめる。

「それじゃ、ほら。握手。」

「そうだな。」

二人はお互いの手を強く握った。

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