第二話「原作と破壊」
次の日、ユネは図書委員の当番のため朝早くに学校へ向かった。すると、見覚えのあるだらしない制服姿を見つけてしまった。いや、見つけられたのはユネのほうだった。
「やあやあ、おはよう。お早い登校ご苦労様だねえ。」
気持ち悪いほど爽やかに声をかけてくるセンに目もくれず、ユネは校舎へ向かおうとした。しかし、それは叶わず、腕を掴まれてしまった。
「…何の用ですか。」
かなり不機嫌そうな声で言うユネに、顔色一つ変えず、それでいて怒りさえ感じるくらい低い声でセンは問う。
「ちょっと、何無視してるの?」
「急いでいるのですが。」
「そんなことは聞いてないんだよ。僕はね、君に用事がある。」
ユネは少し考えた後に答えた。
「…手短に済ませて頂けませんか。」
「おや、今日は素直なんだねえ。それじゃあこっちへ。」
そう言ってセンは、ユネの腕を掴んだまま、人気のない校舎と倉庫の間まで連れて行った。
朝七時半の学校はとても閑静だった。その静寂の中に、男子生徒と女子生徒が立っていた。
「…それで、話ってなんなのでしょうか。」
腰まである金髪を揺らし、ユネは問う。
「それはねえ、この原稿用紙についてなんだよねえ。」
センは、水色の無造作な髪をくしゃくしゃとかき回しながら、反対の手で書き込まれた原稿用紙をひらひらと見せてくる。その原稿用紙は、ユネにとって見覚えのあるものだった。
マコトの書いた〈続き〉だ。
「それは…!どこでてにいれたのですか!」
思わず声を荒げるユネに、センは煽るように続ける。
「これってさ、二次創作ってやつだよねえ。嫌なんだよね、こういう原作の良さも何も分からないような駄文が書き連ねてあるものはさあ。」
「何が言いたいのですか。」
ユネが今にも飛び掛りそうな姿勢でセンを睨みつけている。それを見て、センは口角をさらに上げ、もはや悪人のそれに近い表情を見せて、こう告げる。
「このゴミを、燃やすのさ。」
どこからか取り出したライターを素早くつけ、マコトの原稿用紙に火をつける。ユネはショックのあまり、動く事が出来なかった。しかし、無常にも原稿用紙は見る見るうちに燃えていき、ついには全て黒い砂となって地面へ落ちていった。
「あ、あなたって人は…」
ユネは絶望に打ちひしがれ、地面にへたり込む。
「あ…あぁ…」
声にならない声でユネは嘆く。それを嘲笑うようにセンは彼女を見下ろし、こう言い放った。
「ねえ、わかっただろう?原作に敬意も示さないようなくだらない文章など書いているから、こんな事になるんだと。」
センはユネのほうへ歩み寄り、地獄に生きるもののように低い声で続ける。
「これに懲りたなら、もう二度と書くなよ。」
そして、その去り際にいつもの調子で話しかける。
「それじゃ、また今度デートしようねえ。伏谷くんにもよろしくねえ。」
手をひらひらと振りながら、去っていく。しかし、ユネにはそれを見送るような余裕はなかった。
放課後、失意の中授業を乗り切ったユネは、未だ放心状態のまま夕暮れの廊下を一人で歩いていた。すると、目の前に人が現れた。彼女はゆっくりと顔を上げる。
「どうしたの?ユネらしくないよ?」
心配そうにユネを見つめるマコトの姿があった。
「あ、マコト…」
思いつめた顔を無理やり笑顔にするが、うまくいかず、逆にさらに心配させてしまった。
「ねえ、なにかあったんだよね。もしユネがいいなら、話してくれないかな…?もちろん嫌だったら断っても大丈夫だよ。」
マコトの優しさが沁みるが、それでも、彼女には話す事はできない。話してしまったら、マコトが悲しんでしまうのではないか、今朝の自分のように絶望してしまうのではないかと不安になってしまったのだ。彼女を悲しませてはならないと思ったユネは、口を開く。
「ごめん、マコト。これから用事だから…」
「そっか…それなら仕方ないね。」
「ごめんっ…」
申し訳ない気持ちになりながらも、ユネは足早に去っていく。マコトが悲しそうな顔をしているのも知らずに。
ユネが去った後、マコトは従兄に呼ばれて彼の家へと向かっていた。
「一体何の用なのかなあ…できれば会いたくなかったのに…」
マコトは昔、従兄と口喧嘩をして以来避けていたのだが、そんな従兄に会うとなると、彼女は億劫に思ってしまうのだった。




