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醒メて世カイに終ワリを告ゲルは  作者: 立津テト
序.再開の門と、半裸の女神。
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0#4 輪廻

 気が付いたらここにいた。


「どういうことか、説明してくれますね」


 正面に座った不機嫌そうなしかめっ面の少女が、吐き捨てるように言った。

 いや、少女と呼ぶにはちっと歳を喰いすぎているか……二十代半ば過ぎといった、すこぶるつきの美女だ。


 よく鍛え上げられた無駄のない身体を白く脱色した麻の法衣に包み、その上から銀の胸当て、同じ意匠の篭手と腰鎧で固める様は、天上に住まうと云われる戦乙女さながらだ。

 丁寧に(くしけず)られた金の長髪は真っ直ぐに腰まで流れ、滑らかなそれは戦場に身を置く人物のものとは思えないほど輝いていた。

 ポニーテールに纏めた頭には王冠のような飾りをつけた鉢金を巻いており、彼女が一介の戦士でないことを宣言している。たしかあれは王族にしか許されない日輪の立物だったか。

 戦支度にしては軽装だが、この場においてはなんとも厳めしい出で立ちだった。表情と相まって穏やかな雰囲気は欠片もない。


 対して俺。アマル村で生を受け、シューと名付けられた三十路過ぎの男は、死ぬ直前まで着ていた一張羅のシャツにズボン。何度も水を潜ったせいで元の色もわからないほどくすんでしまった服の形の雑巾だ。


 なんともちぐはぐな取り合わせの二人が、コーヒーショップのオープンテラスに設えられた白いテーブルに差し向かいで座っている。

 傍から見ればなんとも珍妙な光景だろうが、それに気付く人はいない。ここは、そういう世界だ。


 ほとんど忘れかけていた記憶が次々と蘇ってくる。

 そうだ、俺は天堂宗として死んだ後、このわけのわからん空間で転生してアマルのシューになった。

 皮肉なことに資質も容姿も変わらなかった上に名前もシューとか元の名前と変わらない適当なものを付けられた。


 俺はそれでも新しい人生を謳歌しようと躍起になった。

 だけどどこでどう道を間違えたのか転落に転落を重ねる一途。最期は結局、盗賊団の下っ端に収まっていた。

 十五歳で村を出て、ニ十歳くらいまではなんとかまともに働こうとその当時人気だった傭兵になるべく頑張っていろんな傭兵団を転々としていた。

 でも結局居場所を見つけられなくて、盗賊団の商品管理をしながら三十二歳までだらだらと生きていたのだ。


 転機は唐突にやってきた。商品を買い付けに来た商人の選んだ品が、俺の故郷に置いてきた幼馴染の女の子にそっくりで……それが実は俺の娘だとわかって……そうか、それで俺はその子を不幸にしたくなくて……。

 その先は俺もよく覚えていない。俺はどうして死んだんだ?


「説明って……具体的に何を説明すりゃいいんだよ」


 荒んだ環境の中でやさぐれた俺の声が、清廉な美女を詰るように響く。


 そもそもこいつは誰なんだ? なんとなく記憶に引っかかってるんだが、うまく思い出せん。

 俺が軽い目眩を振り払うために(かぶり)を振っていると、美女は仕方ないといった風に大きく嘆息して背筋を伸ばした。

 そうすると、凛と咲く百合のように涼やかな雰囲気が醸し出される。百合の芳香すら感じ取れそうなほどだ。


「丙級以上の作戦内容は終了後も一年は他言無用なのですが……いいでしょう、どうせ死人に口なしです。わたしは西方セイラ皇国の第三王女、エリイサ・キ・ロウ、あなたに止めを刺したものです……いえ、刺したはずでした」


「止めを刺したって……俺はあんたに殺されたってのか?」


「はい。まあ、あのまま放っておいてもあの傷では助からなかったと思いますが……盗賊団の巣窟で盗賊らしき男が武器を片手に突然襲い掛かってくれば、委細構わず反撃するのは当然の成り行きだと思います。その点は納得いただけますね」


 エリイサと名乗った美女の物言いは尊大にして不遜。王女と言うのが納得の偉そうな態度だ。

 態度だけじゃない。話の内容も手前の正義を押し被せる具合の、なんとも聞き心地が悪い言い分だ。

 納得出来ないわけじゃねぇがしたくねぇってのが正直な気分か。


 だが、おかげで思い出してきた。

 そうだよ、俺がこいつの顔に見覚えがあるのは、ついさっき殺される直前に見た顔だからだ。そして俺は確かにその時点で這う這うの体、虫の息だった。

 なにせ身体中穴だらけ、左腕は肘から先が吹っ飛んで止血もしてねえ、左目は槍が掠って耳ごと削り落とされてたし、心臓が動いているのが不思議なくらいむごい有様だった。

 むしろ、そこに介錯を加えてくれたと思えば感謝してもいいんだろうが……やっぱ気に食わねえ。


 それにしても一体何がどうなってやがる?

 俺は確か娘を救おうとして本営屋敷に乗り込んで、そこで……そうか、俺は一人で空回りして、余計な手を打ったんだっけか……。

 それで勝手に満足して、次は幼馴染の敵を討とうと盗賊団の頭の部屋に行って、訳の分からない力が出てきてお頭を(くび)り殺して、そこにこの女が現れたんだ。


「あんた、なんであそこにいた?」


「わたしは作戦の為に居ました。さっき言いませんでしたか」


 言ってた気がする。


「それよりわたしの疑問にも答えて――ちょっと、聞いてますか?」


 じゃあそれはそれとして置いておこう。

 その後の事がわからないんだよな。記憶が俺のものであって俺のものでないような、曖昧じゃあないんだけど主観がずれててどうにも信用が置けない。

 まるで他人の見た夢を傍から見せられているような、そんな頼りなさがある。


「あんた、あの後どうなったのか知らねえか?」


「あなたばかり質問するのはそろそろ不公平だと思います。わたしの質問に答えてくれたら教えましょう。いいですね、天堂宗(てんどうしゅう)くん?」


 一つ前の人生で呼ばれていた名前を出されて、俺は不可解さに身を硬くした。緊張に強張った表情が、口の動きを邪魔して喋りにくい。声が自然と低くなる。


「なんで、その名を知ってる……?」


 確かに姿かたちは転生の時に変わらなかったが、あの当時とは一回りも二回りも歳を取った今の姿を見て、天堂宗の名前を口に出せる奴はいないはずだ。

 なにせ髪はぼうぼう、無精ひげは伸びっぱなし、食事も少なく偏っていたから頬がこけるほど痩せている。

 なにより十六歳と三十二歳の男は骨格からして別の生き物みたいに変わっちまう。面影なんて微塵も残っていないはずだ。


 それ以前に、天堂宗なんてもうこの世にもあの世にも存在していない名前を、こいつはどこから?

 俺の胡乱を見る眼差しに、エリイサは硬質な無表情を崩さず種を明かした。


「また質問ですか……もう……ニシナエリ、この名前に思い当たる節があるんじゃありませんか?」


「ニシナ、エリ……」


 彼女の端整な容姿と共に、その名前も俺の記憶のどこかに引っ掛かっている。

 ニシナ、エリ……ニシナ? 仁科……エリ。おいおいおい、仁科エリって、まさかあの時の?


「さあ、あなたの疑問には答えました。次こそはわたしの番ですよ」


 俺の理解を表情から察したのだろう、エリイサことエリは硬い表情を崩さずにそう催促してきた。

 しかし次は自分の番だと言われても、何を答えればいいのか見当もつかない。


「説明しろとか答えろとか言うがな、あんたに殺された俺が何を説明したり答えたりしなきゃならないってんだ」


 相手を詰るような物言いは、二十年近くも卑屈な人生を送ってきた癖だった。死んだからってすぐに治るもんじゃない。

 そのせいでエリの態度が硬化する一方なのはわかってるんだが……いや、そもそもエリの方が最初からどうにも喧嘩腰だ。

 まったく、何がそんなに気に食わないんだか。俺が盗賊に落ちぶれてたからか? 犯罪に手を染めてたからか? そんなもん、生きるためにはどうしようもなかったんだ。

 なんとしても自分自身の意志で、自分のやりたいことをする。そういう人生を目指せと俺に助言したのは他でもないあんただったハズなんだがな。


「単刀直入に言います。あなたはどうやってわたしを殺したんですか?」


「……あぁ?」


 意味が分からない。話が噛み合わない。こいつはさっき、自分が俺を殺したとのたまわった。だと思ったら今度は、俺に自分を殺した理由を聞くときたもんだ。

 そんな記憶はねえし、あんたみたいな商品価値の高い女をむざむざ殺したりはしないぞ。盗賊稼業でそういう損得勘定が習い性になっちまってんだ。


「知らねえな。言ってる意味が分からねえ」


「記憶にないと?」


「ねえな」


 椅子の背もたれにだらしなく寄りかかり、そっぽを向いて耳をほじる俺の態度に、エリは忌々しげな息を吐いた。

 こういう手合いは俺が嘘を吐いていようが真実を語っていようが、自分がこうだと思い込んだことを事実として認めさせようとしてくる。こっちが犯罪者面してると思えばすぐにそうやって本当の犯罪者にしたてあげて吊し上げようとするんだ。

 それは俺にとって、高貴な人間であればあるほど印象強くなる。こいつらは正義のお題目を掲げるため、手頃な叩き台をいつも欲しているのだ。

 だが俯いて沈思していたエリは、今度は諦めを感じさせる乾いた吐息を吐くと、


「まあ、そうでしょうね。あの時のあなたが人間だったとはとても思えないし……」


 妙に落ち着いたその声音と、そもそも物言いが気になった。


「どういう意味だ?」


「そのままの意味よ」


「だから意味がわかんねえっつってんだよ、そこを説明しろ」


 下っ端と言えどならず者に凄みは必須だ。その辺の女子供なら十分脅しつけられる自信のあった俺の眼光に、しかしエリは眉一つ動かさない。


「だってあなた、わたしにお腹を真っ二つにされて、間違いなく死んでたもの」


 成程、エリを殺す前に俺は死んでたはずだと。

 確かにそれじゃあ不思議に思うのも無理はねえな。

 ってか――


「ちょっと待て、余計話が見えなくなったぞ」


「でしょうね。わたしもさっぱり理解が追いつかないからあなたに事情を聴いたの。あの時のあなた――の身体、普通じゃなかった」


「そりゃ、死んでるのに動いてりゃ普通じゃねえわな」


「ちょっと黙って聞いて。わたしは王位継承権を持ち既に立太子も済んだ兄様と、隣国に輿入れが決まっていた姉様と違い、皇国内にあらかじめ決められた道を持たなかった。それはむしろわたしにとって幸運だったわ。皇族の権威の端くれを利用しながら、貴族程度には自由に動けたんだから。まあ、この歳になると降嫁も間近ではあったでしょうが、ここまで好き勝手に遊ばせてくれた父王に対する義理だと思えば、あのボンボンと一緒になるのも悪い気はしなかった。あいつ、頭は悪いけどすごく優しかったし」


「聞かせたいのはノロケ話かよ。それだったら俺にだって山ほどあるぜ。あんたにはちょっと刺激的すぎるのがさ」


「黙れって言った」


 一瞬、背筋が総毛立つほどの殺気を感じて、俺は押し黙った。こいつ、好き勝手に遊ばせてくれたって言ってたが、並の戦士じゃねえぞ。一体何して遊んでたんだ……。


「今回が最後の作戦だったの。これが終わったら、わたしは晴れて皇族の一員として国の礎に収まり、子を生し、それでわたしという人生の最終目的を達成し、自堕落な余生を送るはずだった」


 その言い様だとどうにも不服しか感じてなさそうだが、とは口にしない。さすがに懲りた。


「あなたが所属していた盗賊団に、何年もかけて細作を信用させ、あなた達の根城と行動予定と罪科まで完全に割り出し、もうあとは作業的な制圧作業で済むだけのはずだった。なのに、わたしはあなたに殺された」


 さっきよりも力の抜けた、というよりもどこか投げ遣りで無気力な眼差しが俺を貫く。


「どうしてなの? どうしてあなたは命を失っても、あんな力でわたしを殺せたの? しかも素手で……」


 聞かれたって答えられるわけがない。エリの言葉が確かなら俺は死んでたわけで、死んでたんじゃ覚えてられるはずもないしな。


「あんたの勘違いじゃないのか?」


「あなたは本当に人間なの?」


「おい、聞いてるのはこっち――」


「お願い答えて。あなたは一体、なんなの? あの瞳は、普通じゃなかった……」


 今までの居丈高な態度とは違い、懇願する青い瞳を薄らと透かして彼女が抱く恐怖が垣間見える。


「……わかんねえよ、少なくとも俺は自分を平平凡凡としたつまらない人間だと思ってる。化け物みたいに言われるのは心外だ……そうとしか、答えらんねえよ」


 そのいじらしい表情に、俺が心ならず彼女を脅かしていたことを悟った。

 あの牢獄で、こんな表情はうんざりするほど見てきた。それが嫌になって俺は頭目を殺しに行ったのだ。

 いや今思えば、頭目を殺しに行くと自分に理由を付けて、死ぬ場所を求めたのだろう。あれだけの人間を不幸にしてきた俺が、いまさらのうのうと生きる道なんて見つけられなかったから。


「そう……」


 エリが人差し指を下唇に当てた。確か、彼女がものを考える時の癖だったか。

 そうしてしばらく、沈鬱な空気が流れる。


「ま、あなたと話しても何もわからないってのはよくわかったわ」


 次に発したエリの声は、思いの外カラリとしていた。


「どうせ死んじゃったんだし、ここにいるってことはまた転生するんでしょう。次はもう少し気楽な人生を生きたいものね」


 と(うそぶ)いて、彼女は大儀そうに肩を廻して首をほぐした。それはまるでエリイサとしての人生を肩から下ろしたかのようだ。

 あー……なんか……強ええなー、こいつ……俺もどうでもよくなってきたかも……。


「それより、懐かしいわね。ここ」


 さっきまでの険しい態度はどこへやら、エリは懐かしさすら感じる馴れ馴れしさで話を転じてきた。

 俺はまだ、あんたに殺されたこととか前の人生の後悔とか罪悪感を引きずってて、とてもじゃないが悠長にお喋りできる心持ちじゃないんだがね……切り替え早すぎだろ。


「君と出会ったのもここだった」


 エリは遥かな過去を探すように遠い目をした。

 その口調があまりにもあの時のエリそのままで、俺の目には一瞬彼女が高校の制服を着たあの少女の姿にぶれて見えた。

 だが、それは過去の幻影だ。何度確認してみても、目の前にいるのは確かに二十歳を過ぎた女盛りの美女だった。


「どしたの? わたしの顔になんかついてる?」


 いつの間にかまじまじとその端整な顔を見詰めていたらしい。そんな風に言われて、俺は慌てて顔を背けた。


「何でもない」


「あ、なんかそうしてると昔通りだね」


「昔昔っていうけど――」


 ん? 昔?


「いや待て、当たり前のように話してて気づかなかったが、なんであんた前世の記憶があるんだ?」


 記憶は全て転生する時に消えると、あの破廉恥女神は言っていたはずだ。俺が記憶を保持しているのはありがたみの薄いSSRスキル『記憶保持』の恩恵であって、それがない限りは前世の記憶を持ち越すことは不可能なはずなのだ。


「わたしも特殊能力で『記憶保持』を引いたから」


「……は?」


 思った以上に単純な理由で目が点になる。


「あんたも、記憶保持を当てた?」


「そうよ」


「記憶保持を引いて、俺と同じく容姿がほとんど変わらず、俺と同じ世界に転生した?」


「そうだけど、それが何よ? 運命の相手だとか言うの?」


 何故かエリは面白そうにニマニマと嫌らしい笑みを浮かべる。

 だが俺にはそんな冗談に付き合える余裕はなかった。


「なんか、出来すぎてねえか?」


「出来すぎ?」


「ああ、一体どんな奇跡が起きれば、そんな偶然が起こるんだ……?」


 戦慄する俺に、しかしエリは気楽なものだった。


「つまり、君とわたしは運命の相手だと……それってナンパ?」


「あんた、すっかり調子が仁科エリだな……」


 うんざりした気分でエリを見る。その顔が幾分か幼くふっくらしたものに見えた。また、過去の幻影かと思って軽く目を瞬かせる。エリの姿が元のエリイサの姿を取り戻した。


「三つ子の魂百までっていうしね。気掛かりを君に話したら、なんか急に肩の荷が下りたって言うか、やっぱこっちが地なんだろうね」


 コロコロと楽しそうに笑う。

 そりゃまた、羨ましい話だ。俺の方は記憶保持無しで生まれ変わっても、今回の人生を夢に見そうな気がするぜ。


「ほんとに、ここにいると色々思い出すなー。杏ちゃんとか、新多くんとか、昔の冴えない君とか」


「冴えないは余計だ」


「今は冴えなくてうらぶれてる」


「余計に余計だ」


「ほんとに……当時は目の前の事に手一杯で、それが世界の全てのような気がして、でもその必死が楽しかった。今回の人生だってそう。わたしはわたしなりに必死に生きた。心残りは山ほどあるけど、ちゃんと楽しかった」


 俺は……。


「でも、同時にこうも考える。何も知らない時が一番幸せだったなって。無知は罪、なんていうけどさ、それってすごく上から目線だよね。だって、無知であることが罪だ、なんて知っちゃったら、もう絶対今の自分に幸せを感じる事なんてできないもん。無知こそ幸福。わたしは二回死んでそう思いました!」


 エリは二度の人生で何かを掴んでいる。でも、俺は……?


「なんてね、ちょっとかっこつけすぎた?」


「いや……ちゃんとかっこいいと思うよ」


 なんとなく、口調があの時の――エリと初めて出会った時の俺に戻った気がした。エリに引っ張られたんだろうな。

 だがその柔らかい感情も、すぐにあの地下牢獄の()えた匂いに塗りつぶされる。


「ねえ、君の人生はどうだった? 君は、ちゃんと幸せだった?」


 俺の表情はそんなにひどいものだったろうか? エリが心配そうに俺の顔を窺ってきた。

 ちゃんと幸せだったか?

 その言葉に、頭の血が一気に落ちて、底なしのどこかへ消えて行ってしまったような錯覚を覚えた。

 それは錯覚だったとしても、急激な血圧の変化で目の前がくらくらした。


 そうだ、俺は、幸せになりたいから、自分のしたいことを求めたんだ。

 だけど結局俺がしたことは、自分の欲望を周囲に押し付けて我儘放題をしただけだった。

 幸せだったか?

 んなわけない。大いに不幸せだった。幸せを追い求めることを忘れて、無知のまま不幸になった。


「俺は、無知は罪って言葉に、共感するよ……」


「……そっか」


 その一言で、エリは察してくれた。慰めるような優しい笑みを浮かべてくれる。俺には、そんな笑みを向けられる資格はないのに。

 俺はどこで間違えた? あの子を押し倒した時か? 村を出た時か? 傭兵になろうと思った時か? 仲間を裏切った時か?

 いや……全部か。最初から、求めるものを間違えていたんだ。なまじ記憶を持っていたから、中途半端に本懐を忘れて求めるものを間違えた。

 それに気づくのに三十年。しかも死んだ後ときたもんだ。馬鹿は死んでも治らねえっていうけど、間違えた事に気付けたってことは、意外と死んだら治るのかもしれねえな。今更の話だが。


「俺はアマル村のシューであった人生を、なかった事にしたいと思ってる」


「どうして?」


「あんなの……俺がしたかった生き方じゃない。ただ自分勝手に欲しいものを願って、上手くいかなきゃ不貞腐れて逃げて、結局最後は野垂れ死んじまった」


「わたしが部屋に入った時、既に頭目と思しき男は死んでた……殺されてた。やったのは、君でしょ?」


「ああ、そうだ。急にだった……どうして俺がこんな目に遭わなきゃいけねえんだって思ったら、急にお頭が憎くなって……わかってるさ、ただの八つ当たりだ。だけど、あいつを生かしてちゃならねえ、あいつが生きている限りもっともっと誰かが不幸になるって考えてたら……俺にもまだ、そんな風に誰かの為になんて考えられる余地があったんだな……」


 エリは黙して何も言わない。静かに目を瞑っている。

 端然と椅子に腰かけ少し俯かせたその顔は、静かに黙考に耽るようにも俺の言葉に真剣に耳を傾けているようにも見えて、俺はしっかりと自分に向き合ってくれている彼女の存在を心強く感じる。


「いや、違う、誰かじゃない。娘が不幸になるのが、嫌だったんだ。不幸な思いをするくらいならいっそと思って……手にかけてから、生きていれば何かいいことがあったかもしれないとも考えて……その後はもうまともに思考は働いてなかったな。今思えば、外であんたらが俺達の討伐してたんなら、あいつも助かったかもしれねえんだよな……俺、なにやってんだろうな……」


「それじゃ駄目なの?」


 急に、エリが訊いてきた。


「それ?」


「君は頭目を殺して、不幸になる誰かを救った。それじゃあ、君の人生の意味にはならないの?」


「そんなもんじゃ……大体、そのお先棒を担いでたのは俺だ。あんなどこにでもいそうな小悪党一匹潰したって、俺の罪の償いにはこれっぽっちも足りねえよ」


「んー、罪を償うとか償えないとか、そんなのに意味はないと思う」


 その言葉の意味を、目顔で問う。


「だって、やられた方からしたらどんな言葉を、金銭を積まれたって許せないときは許せないもん。それって、一生罪を償えないってことでしょ? わたしは罪を償わせるために誰かの人生をふいにするっていうのもまた罪だと思うよ。だからって許せるわけでもない。というわけでそんなの考えてたらキリがない。じゃあ、本人がこれで少しは償えたって思えるかどうかが、大事なんじゃないかなって思う」


「んな、自分勝手な……」


「わたしもそう思うけどさ、許せない許せないって言ってる方だって、相手の誠意を無下にしてるんだから十分自分勝手だよ。自分勝手に罪を犯した相手の贖罪を、自分勝手に拒絶する。もうそんなの、自分勝手に自分を許すしかないじゃん」


「あー……? なんかだんだん意味が分かんなくなってきたぞ」


「実はわたしも。えーと、要するにさ、難しく考えないでさ、君は間違いなく、不幸になるかもしれなかった誰かを救った。それだけでも、君の人生に、償いに、意味はあったんじゃないかなって、そういうこと」


「俺の人生に、意味があった、か」


「それに、これからまた転生するんだもん。今回の経験は大きいと思うよ」


「確かに……そうだな」


「君ってさ、あの頃となんにも変わってないね。あの頃もなんか卑屈で、うじうじしてた。そのくせ、調子が良くって能天気」


「あんただって、変わってないぜ。お節介で口やかましい。無神経なのかと思いきや、こっちの弱みをぐさりとついてくる。んで、綺麗だ」


「なにそれ、お世辞?」


「三十にもなれば社交辞令くらい言えるんだよ」


「それはあの頃にはなかったね」


「あの頃か……」


 こうして顔馴染みがいるってのは悪くないなと、そう思ってエリの顔を見直した時だった。

 また、エリの姿が十六歳の高校生だった時の、仁科エリの姿に重なって見えて――。


「あ?」


「え?」


 俺とエリは鏡合わせにしたみたいに、唖然とした間抜け面を突き合わせて眼をひん剥いた。


「おい、お前……」


「どゆこと?」


 エリの姿が、若返った……? いや、違う、エリイサから仁科エリになったんだ。


「君、宗くんになってる」


「は?」


 言われてみれば確かに、身体が軽い。肩の重さがなくなって、腰にあった疼痛も消えている。軽く身体を動かしてみても、どこも傷まない。

 頬に触れると、ごわごわした不精髭もなくなっている。剃りたてのつるつるした若い肌だ。


「鏡、鏡とかない!?」


 声もあのやさぐれてがらがらの声じゃなくなっていた。若くて張りのある、変声期直後のそれだ。これが自分の声だなんて、俄かには信じがたい。


「鏡、鏡、ああっ、鞄の中だった! 鞄は……こっちに来る時持ってた記憶ないから、持ち込めなかったのかな!?」


「くそ、俺のスマホもねえ! ああもう、なんだこれ、なんか気になる!」


 目の前のエリが当時の姿に戻ってるんだ。十中八九、俺も十六歳の天堂宗に戻ってるんだろうが、しっかり自分の目で確認しないとなんか気持ち悪い。


「なあ、俺、ちゃんと宗なんだよな!?」


「わたしも、エリなの?」


 お互いに間抜けな質問をかわして、テーブルに身を乗り出したまま真剣に相手の顔を観察して、視線を合わせたまま大きく一度頷き、噴き出した。

 真面目にこんなことをしている自分達があまりにもおかしくて、ここがどこなのか、ついさっきまで何を話していたのか全部忘れて笑い転げた。


「あー、おかしい」


 ひとしきり笑い合って、エリが目尻の涙を拭う。


「こんなに笑ったの、何十年振りだろう」


 俺の神妙な言葉に、エリが再び発作をぶり返す。


「ちょ、やめてよ! その顔で『何十年振りだろう……』とか、あんた何歳だっての! ちょーウケる! ヤバい、そろそろおなかヤバい!」


 ひいひいと息も絶え絶えに笑うエリの姿に、ついさっきまでの高貴な女騎士の面影は微塵もない。

 戻ってきたんだなという実感が強まるにつれ、俺の中にわだかまっていた罪悪感と後悔が徐々に薄らいでいくのを感じる。俺はそれに不安を覚えた。


 心を(さいな)む暗い感情だったとしても、これは俺が自分自身の行動で得た確かな経験なのだ。姿形が変わったからって消えてなくなってしまっては、俺はまた同じ過ちを繰り返しかねない。消えて欲しくない、消えていいものでもない。切実にそう思う。


「はぁ、大丈夫、きっと大丈夫」


 そんな俺の不安を見透かしたように、エリが笑いを押さえて言った。


「わたし達はもうあの時のわたし達じゃない。戻れるわけがない。今のわたし達は、また新しいわたし達を始めるための基準のわたし達だよ」


「……エリ、エリイサの人生を経験したからか、言うことが深くなった気がする」


「そう? でも君が……宗がそう思うなら、きっとそうなのかもね」


 なんで俺達がこの姿に戻ったのかはわからないけど、あれやこれやとモノの姿が不安定なこの空間だ、俺達の姿が色々変わったって驚くほどの事じゃない。前の時だって、俺は手術着だったハズなのに、エリに言われて制服だと思った途端に本当に制服になったんだ、そういうものなのかもしれない。

 それかエリの言う通り、俺達が生まれ変わるためのデフォルトの姿がこれなのだろう。


「だけど、理屈をぶっ飛ばしてるからぶっちゃけ意味わかんね」


「あー、わたしもそう思う、言いたいことを言ってるだけなのに、自分でも意味わかんないんだよね」


 そう言って屈託なく笑うエリは、相変わらず普通に可愛い。

 以前感じていた苦手意識が薄らいでいるのは、エリがエリイサを経験したからか俺がシューを経験したからか……まあ、どちらでもいいか。


「さ、また転生しよっか」


 ここでの用事は済んだとばかりに、エリが席を立つ。

 同感だった俺もエリに続いて席を立つと、相変わらず盛況に並んでいる巨大門の行列へと加わった。


「お久しぶりです、フィーネさん」


「あらー? 意外とお早いおつきでー」


 エリの挨拶をあっけらかんとそう出迎えたのは、相変わらずの恰好をした相変わらずの女神フィーネだった。


「あんた、変わんないな……」


 俺の呆れた物言いに、フィーネはおばさん臭く手の平を振って、


「やだもー、変わらず美しいだなんてー」


「誰が言った?」


「わたし言ってない」


「ぶー、ちょっとくらい肯定してくれてもいいでしょー」


 面倒臭いところも相変わらずだ。

 そんな彼女とのやり取りに、俺は戻ってきたんだという実感を更に強くした。急に嬉しいやら気恥しいやら、泣きそうになるのを無理矢理に浮かべたしかめっ面で誤魔化す。


 前回と違う点と言えば、今回はエリから転生するという点か。

 なんとなく列に並んだ時にエリが前にいたからこうなった次第だ。他人のガチャを見るのは今回が初めてだから、ちょっと楽しみだ。


「またお願いしますね、フィーネさん」


「はいはーい」


 二回目となれば慣れたもの、親しい口調で軽く頭を下げるエリに、フィーネもニコニコと応じる。

 と、不意に何かに気付いた様子で口を丸く開けた。


「あ、そういえばあなた達、前回も一緒だったわよねー? しかも前回は同じ世界に転生してたし……まさか、報われぬ恋に落ちて駆け落ちの挙句心中とか?」


「んー、当たらずとも遠からず?」


 仁科さんは貼り付けたような薄っぺらい笑顔を浮かべて、その口元に人差し指をおいた。

 何を期待しているのか、目を輝かせて話の続きをせがむ女神サマに向けて、俺は黙ってるわけにもいかず口を差し込んだ。


「いや、欠片も当たってないでしょーよ。ってか女神サマ、転生者の死因は知ってるんでしょ」


「うん、知ってるー」


「んじゃあ、なんで聞くんスか」


「からかえるから」


 さらりと、本当にさらりと抜かしやがった。


「わたしはわかってたから軽く受け流した」


 お前もか!?


「で、俺だけまともに請け合ったと」


 そうやって俺だけアホの子を演じさせられたってわけね、ああそう、そういうことするんだ、ふーんだ、いいもん、どうせ俺なんて、俺なんて……。


「私、シュウちゃんのそういうところが、好・き」


 上目遣いにちょっと声を低くしてフィーネが身を捩った。エリが堪えきれずに噴き出して、慌てて横を向く。

 俺は憮然とそんな二人に半眼を当てて、


「はいはいどーも……」


 やさぐれた調子でそう返した。

 馬鹿にされてんのがわかってて素直に受け止められるかっての。ちょっとときめいたけどさ。

 一人だけマジ不貞腐れすんのもまた馬鹿馬鹿しいので、溜息一つでその場は気持ちを収めた。大人になったもんだぜ、俺。


「さて、じゃれ合うのはこれくらいにして、早速行っとくー?」


「はい、お願いします」


 フィーネの仕切りに、エリも居住まいを正す。今更神聖でもないが、これから転生すると思うとなんとなく身が引き締まるのは確かだ。

 そんな俺達に、スマホの準備をしながらフィーネが小首を傾げた。


「別に急ぐことはないのよ?」


「いえ、あんまりここにいると、名残惜しくなっちゃいますから」


「ふーん、そう……まあ、私は私の仕事をするだけだけど……手はずはわかってるわよねー?」


 エリはスマホを手渡される。


「はい。我、定めの門を(たた)く者。約定に(のっと)り、新たな光明を我が前に示し給え。即ち、壱の門」


 エリの柔らかい声が、高らかに詠唱する。

 耳に心地良い声を聴きながら、俺が思った事は大よそ一つ。


(よく覚えてたなぁ……)


 だ。完全に忘れてたから、ぶっちゃけ助かった。

 忘れてるのを忘れてスマホを渡されたら、俺絶対に変な意地張って適当な文言を詠唱してた。そしたらきっとフィーネにさんざんコケにされただろう。いやぁ、マジで助かった、ありがとうエリ様。


 エリの背中越しからスマホが光るのを確認して、俺はその結果が気になって前に出た。しかしエリはそんな俺に気付かないでか、スマホをさっさとフィーネに渡してしまう。

 かたわらに並んだ俺の顔を見て、『あ、見たかった?』と少しすまなさそうな顔になる。

 

「あら、ちょっと低めねー」


 フィーネはそう呟いて、エリにスマホを戻した。俺が見たがってるのを察してくれたのだろう、画面はそのままだ。俺はスマホを覗きこむ。

 なるほど、半分くらいは標準線を越えているが、いくつか標準線を下回ってるのもあるな。越えてるやつもそんな大幅に超えたものは一つもなく、ともすれば標準以下とも取れる有様だ。

 前回のエリの資質がどんなもんだったかは知らないが、少なくとも俺より遥かに有能だった感じはする。となると、この落差にエリがどんな反応をするか不安になった。あんまり思い詰めなきゃいいけど。


「それならそれなりの楽しみ方をするだけです」


 あら、意外とドライ。やっぱ強ええな、エリは。


「それじゃあ次は転生先ね、どうぞー」


「我、定めの門を敲く者。約定に法り、新たな光明を我が前に示し給え。即ち、弐の門」


 エリの詠唱。細い指が画面をスワイプし、スマホが光る。

 躍り出た文字は……Eatht――。

 エリが登録処理の為、フィーネにスマホを渡す。俺の視界からその文字が姿を消した。


「アステラね……うん、良い所よー。古代文明の遺跡がたくさん残ってて、そこにある古代の遺物を掘り出して生活にいろいろと利用している世界ねー。あとは魔法もあるわー」


「魔法!」


 目を輝かせたのは俺だ。いやだって、魔法とか言われたら、なぁ?


「この世界の魔法は結構誰でも使えるものね。自身の力を消耗して世界法を書き換える形式じゃなくて、ありふれた源素を取り込んで、それを事象に変換するタイプだから、派手な反面細かい現象は起こせないっぽいけど……うん、シンプルな分使いやすい力みたいね」


 そんな俺の期待に応えるべくか、フィーネが魔法について説明してくれる。やべえ、ワクワクが止まらねえ。


「行くの、わたしだからね……?」


 そこに呆れたようなエリの声が水を注す。

 ああ、そうだった……忘れてた……。


「ま、シュウちゃんは後のお楽しみってことで」


「へーい」


 力なく返事をした俺を余所に、エリが三回目の詠唱を声にする。

 結果が表示される前にフィーネはスマホをエリから取り上げ、少しの間手元を動かしていたかと思うと、


「種族は獣人科猿人属人間、容姿はこうでー、性別は女性ね」


 フィーネが差し出した画面の中には、おっとりとした風貌のどうにも地味な感じが否めない赤髪の女の子が映っていた。

 獣人科とか聞き慣れない単語が耳に入ったから獣耳でもついてるのかと思ったけど、パッと見は俺達と全然変わらない容姿だ。尻尾もない。


 顔立ちは今のエリみたいなくっきりしたものでなく、どこか自信なさげでパッとしない。天然パーマが入っているのかちょっとごわついた長い髪がどこか毛の長いヤギの仲間を思わせる。

 簡素なシャツとスカートを身に着けた身体もどことなく貧相だ。特に胸のあたりが俺にはちょっくら物足りない。


「ちょっと、人の転生後の姿を見て鼻の下伸ばさないでよ」


「のばっ、伸ばしてねーし!?」


「別にいいけどさ。これって、何歳の時の姿?」


「今のあなたと同じ十六歳の時よー」


「ふうん……ま、悪くないかな」


 言葉通り、容姿にもあまりこだわりはないようで、サバサバと次に進むエリ。次は特殊能力か。


「特殊能力は『動物と会話可能』っと」


「動物とかぁ、なんだかファンタジーね。面白そう」


 いやいやお二人さん、あっさり流したけどそれってかなりすごい能力なんじゃ……。

 ってか、特殊能力が『動物と会話可能』ってことは、転生後のエリは何も覚えてないってことか……俺のことも、忘れちまうんだな。

 いや、俺も記憶保持がなくなれば忘れちまうのか……なんか、やだな。


「最後の運命は……乱す者……」


 フィーネの顔から表情が消えた。整ったフィーネの顔から愛嬌が消えると、妙に硬質な印象だけが残った。その鋼鉄を連想させる冷たい相貌に得も言われぬ寒気を覚えたのも束の間、何の脈絡もなくフィーネはいつものにこやかな顔を取り戻す。

 俺が白昼夢でも見たんじゃないかって思っちまうくらいほんの一瞬の変化だったが、何故か、やけに強くその冷たさが背筋にこびりついて消えてくれない。


「さてさて、何を乱すんでしょうねー、あんまりオイタはしちゃだめよー?」


「って、今のわたしに言われてもね。記憶もなくなっちゃうみたいだし」


 少し寂しそうにエリが俺を見た。

 視線を合わせられなかった。

 最後だというのに……いや、最後だからこそ、かな。

 どこか決意を込めたように見える眼差しを、受け止められなかった。


「あんな勇ましい女武将のまま生まれ変わったら、親御さんがびっくりするだろ」


 代わりに口を衝いて出たのは軽口だ。


「それもそだね」


 エリが苦笑する。その何気ない笑みが羨ましかった。

 エリは強い。

 もちろん、肉体的な話じゃない。心の問題だ。

 きっとどんな環境に生まれ変わっても、その強さでしぶとくやっていくだろう。


「じゃあ、全部決まったことだし、いってらっしゃい」


「気を付けて……がんばってな」


 半裸神が言い掛け、俺が続けて応援し、小さく手を振った。


「うん、がんばる。行ってきます」


 エリも俺と似たように手を振り返し、軽やかに身を翻す。

 気負った風もなくエリは軽やかに門の石段を登っていくと、振り返ることなく半開きになった門扉の中に姿を消した。


 寂しくない訳がない。彼女には色々なものを教えて貰った。これが今生の……というかもう永遠に会えないのかと思うと、胸が詰まる思いだった。


「さ、次はシュウちゃんの番よー」


「わかってる」


 溢れ出しそうになる涙を拭って、俺はスマホを受け取った。

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