4話 異世界で初エンカウント
「おんまらだんれもおらん場所におんだべたまげてもゥたよ! なして居たんべな?」
新発見。異世界のお爺さんは割と適当な方便の日本語を喋る。
「すいません。記憶がなくて」
「んだべかしょげねぇ」
「いいんだ!?」
この爺さん発想も適当だ!?
「わしゃて起きりゃ浜にいるけェな。ハッハッハッ!」
おいそれは病院に行くべきだぞ爺さん。
柵から村に入る。特別活気があるわけではないが外に厳しい訳ではなさそうだ。
そうか。店が少ないんだ。家と畑しか見えない。
爺さんが自慢げに言う。
「んだ。ここんはわの村でぇ家でゆっくりせぇ」
そう言って爺さんは息を吸い込んで、
「バァァアサァァァン!」
「うぉッ!?」
叫んだ。
突然大声上げなくても良いじゃんよ!? 何!? どうしたの!
「はいはいそんな村の中で叫ばなくても聞こえてますよ」
ある家から老齢の女性が現れる。なる程、婆さんを呼んだのね。村の人も馴れてるのか誰も気にしてないし、いつもの事なのだろう。
「外ン人じゃ。歓迎せェな」
そう言うと爺さんはすぐに元の川まで戻っていってしまった。婆さんがそれにフォローを入れる。
「はいはい。ごめんなさいね。うちの人訛りが酷くて」
「あぁいえ、大丈夫です」
「あら、その子がアナタの【御具】かしらね」
【御具】? なんじゃそりゃ。
「あら、そうじゃないの? 私の布袋がそう言ってるからてっきり」
『主人、【御具】というやつ、もしかして私の事ではないだろうか』
そうなんだろうか、とりあえず返答しておこう。
「ごめんなさい。記憶がなくて」
「あらそうなの? 【御具】も覚えてないなんてどうしちゃったのかしらねぇ。まぁいいから入って茶でもどうねぇ?」
「あ、ありがとうございます」
初エンカウントが良い人だった。とりあえず安心。
案内された家はいかにも小民家だった。中世ヨーロッパ、というより日本の納屋の作りに近い。藁が天井になってるからだろうか。
すぐに婆さんがお茶を持ってくる。
「……【原】から来たみたいだから凄腕の方かと思ったら、どうしちゃったのかしらねぇ。あらあら」
お茶に口をつける。なる程、紅茶のような味わいだ。
「それうち特製の乾燥葉のお茶なの。東の国製法なのよぅ」
なる程、漢方のような味わいだ。
『主人……』
うるせぇ! 漢方薬飲んだことねぇんだよ! 飲み心地とか味とか完全に紅茶だったし!
「で、えーとなにを覚えてるかしらねぇ。名前は?」
「颯人です。名字を蔵脇と言います」
「あらそう。姓があるなら良いところの人かしら」
「そうなんですか……?」
何それ初耳。
オッサンが『異世界の常識だぞ』とか言ってるけど、無視。
「あらまぁ。生まれは?」
「日本です」
「ニホン…あぁ、ニホルーンね、やっぱり良いところの……」
「違います。そこじゃないです」
どこだニホルーン。地方の名前だったりするのか?
「あんれま。あらあら」
婆さんは目をむいて驚いている……割には驚きの声が主婦のする世間話の相づちみたいだ。
「ここがどこだか分かる?」
「いえ、分かりません」
「あなた何歳?」
「16です」
「【skill】を教えてもらえるかしら」
「……分かりません。」
突然の英語……?
「じゃあ【skill】って知ってるかしら」
「知りません」
「【魔力】は?」
「一切、知りません」
魔力?この世界はやっぱり魔法があるのか。
「あんれま」
……本当に驚いてんのか分からないなこの婆さん。
「どうしちゃったもんかしらねぇ。何にも知らないのよねぇ」
「……はい」
「じゃあ順を追って教えるさねぇ。ちょっと時間がかかるかもしれないわねぇ」
「ありがとうございます」
異世界の定石から教えてくれるみたいだ。やっとチュートリアルなのか、右も左もわからなくて困ってたんだ。
期待しよう。
「……めんどくさいわねぇ」
俺はずっこけた。
めんどくさいって言ったよこの人!恐らくその手の話は入ってないと俺が生きるのにヤバいってのにこの婆さんめんどくさいって!
『いや主人、割とそうかもしれんぞ。もし異世界の人が日本に来て、自分が天動説地動説とか車の定義や文字の意味を逐一教えると考えたら面倒くさいだろう』
……そうかも知れない。
「どうしようかしらねぇ」
婆さんが簡単に教える方法を考えてるとそこへ突然扉が開く。
「お婆ちゃん! 何かやることあるー?」
元気よく入ってきたのは1人の少女だった。
俺とそんなに離れていなさそうな童顔。可愛いの部類に入るであろう顔とスタイルのいい身体つき。とりあえず睫毛長いとか肌が白いとか置いておいて、まず胸が大きい。
そして、お尻からはえている尻尾とボブカットヘアーの上に存在感を示す獣の耳。
……ケモミミって奴ですか?
『奴ですな』
耳がピコピコって動いている……。
か、可愛いですよこれ。
「あぁサニカちゃんちょうどよかった。この人記憶が無いみたいだからちょっと教えてあげて」
「はーい」
そう言って近づいてくる少女。
「じゃあ始めよう。あの机に座って……」
「あ、悪い。ちょっと待って」
「んー? 分かった」
そして俺はオッサンを持って扉を開け、
「ケモミミだーーーーッッッッ!!!!!!!!!!」
某ロックバンドのように全力で叫んだ。
その日、いつも爺さんの婆さんコールを聞いていて怒号になれていたであろう村の人達も久し振りに窓を開けて俺達を見た。
ヒロインは早め早めのオーエs(粛清)
恐らく疲れているのでこれ以降の次話投稿は明日にします。
異世界の話を書いたらケモミミをヒロインにするって決めてました。
……エルフ好きと対抗しちゃいそうで怖いです、長耳かわいいよ。
ネットスラングにやたら詳しいので作者的に動かしやすいのはMTB(人じゃない)