2話 とりあえずの旅立ち
「……」
いや無言にもなろう。
だってもしそうだとしたらよ? 俺はここに抱えてる日本刀でMTBなスペシャルな器具とお喋りをしていることになるんですが?
『事実だな。私は日本刀でありMTBである存在だが、この度は主人である貴殿と対話が可能になった』
「対話が可能になった、じゃねぇよッッ!」
なにが可能になっただ! 俺には理解が不可能だよ!?
あと声が無駄にダンディーだな!
「その理屈で行くと何? 俺は死んだ結果、物の声が聞こえるようになったわけ?」
『そうなるな。死んだかは定かでないが』
「そうなるな、じゃねぇよッ! ショックで頭がおかしくなってんじゃん俺ッ!」
少なくとも物とお喋りの時点で俺の理解の範疇を超えてる。
『というか貴殿』
「貴殿やめい……、どう考えてもお前の方が年上の予感」
『では、主人』
「それまた大仰な」
『まぁ、私の持ち主だからな』
「そりゃあそうだけど」
『では問題あるまい』
いいとこの生まれみたいな扱いだな俺。執事みたいだ。
「で、オッサンはどう思ってんの?」
『あぁ、と言うのもな。これはもしかして、異世界転……』
「はぁぁぁぁぁあああ!? オッサン、それは無理だろ! てかアカン! 俺は許さないヨ!」
『いや許す許さぬ関係なくもうそう言うしかないだろうと思うが』
理屈の観点とか色々とさ!
「ふざけんなッ! まぁ確かにそう言うことかもしんないけどね!? 大体物が喋るのも状態変化もおかしいでしょォ! だからこうやって情報なく異世界に行くのはアカンのや。でももしここが異世界じゃないならファンタジーなのは俺の頭ということになっちゃうぜ!?」
『主人落ち着け。異世界だと認めてるのか否定してるのかよくわからん』
「俺も分からんよッ! つーか異世界に行くのに神からのチュートリアルとかもなしとか外からの奴に厳しいぞ! オッサン、他の発想はないか、出来れば俺の妄想以外の方向で」
『しかし主人、持ち主にオッサンとか言われてる生後6年のバイクとしてはこの案しかないだが』
「そっかぁクソッ! どいつもこいつも死を覚悟してから目が覚めたら転生転生ってよォ……。元の世界帰りてぇな……」
『ああ、ここが異世界なのは認めるんだな?』
「だからそう言うしかないからだろ! 地球上にドラゴンなんて生命体の存在は未だ発見されてねぇよ!」
『それはそうだな』
ふぅ……色々言いたいこと言ったら落ち着いてきたぞ。
とりあえず俺の公式見解。
俺はとりあえず異世界に来たっぽい。そして所持物のMTBは日本刀に変形し、しゃべることが出来る。
頭を疑いたくなるが、とりあえずこれを結論とする。そうじゃないと話が進まないからな。
で、俺はどうやってこの世界に?
「……転生じゃないのかもしれない」
『? 理由は?』
「だって俺はフライした時と同じコンディションで怪我一つないし、なにより異世界にMTBが持って来れてる。俺はよく知らんがこの手の転生って何も持たず幼児から始まるってのが普通なんじゃねぇの? その理屈で行くと俺は『転移』であると言った方がしっくり来るだろ」
『……まぁそうだな』
「なんにしろ、まぁこうして生きてんだからとりま生命活動は不可避だな」
『つまり、ここに生活基盤を立てると』
「そうだな。けど、ここで一生は過ごさない」
『……と言うと。』
「要は、転移したんなら、肉体が移動したってことだろ?」
『……そうだな』
「なら、体を行き来する方法がある。つまりそれを見つければ、俺は元の世界に帰れるかもしれない」
『なる程…そうかもしれんな』
「でも、それが見つかるまで俺は生きてなきゃいけない。それが例え異世界でもな」
そう、俺は帰らなくちゃいけない。
元の世界に。
「……とりあえず移動しよう」
カッコよく決めてもここは砂利と草原広がるサバンナのようなところだ。生き抜く? 無理無理。ドラゴンがいたところとかどうせ周りもそういう危険生命体ばっかりだろう。そんなの命が幾つあっても足りない。それに、野宿も出来ないし。
とりあえず日本刀からMTBでになってもらい、移動する。
『あ、ちょっと待て主人』
「おう、なんだ?」
『角を持って行かないか?』
「角? あのドラゴンのか?」
『そうだ』
「何故に?」
『よくあるだろう。街についてお金が必要なとき、一文無しでは辛い。ならばたまたまでも倒せたドラゴンの角を持っていれば換金で安心ってことだ』
「なる程」
日本刀になってもらって俺はオッサンを振り下ろし、角を綺麗に切断する。
角は中々に大きいが、リュックに入らないというサイズでもなかった。
さて、オッサンをMTBにして再出発。
『車輪は大丈夫だ。いつでも行ける』
「オッケー、行こう」
とりあえず動かないとどこにも辿り着かない。これは自分の持論であり信念。
俺はペダルに足を掛けて、あてもなく動かし始めた。
これから長くなりそうな、未来に向かって。
異世界に移動したときって最初が肝心ですよね。初期値でどれくらい強くなれるかが結構な問題だったり、転移になく転生あるのは父母という「立場あるもの」の象徴で主人公が守られていることでしょうかね。両親がお金持ちなら大成できたりしますしね。
私は転移が好きですけどねぇ。