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MTBで旅する異世界  作者: 只の鯨
1章 MTBと転移する異世界
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1話 目を開ければ異世界

 浜と坂の街。

 キャッチコピーどおり、このとある半島の先端の街。地獄みたいに辛い坂と無駄にカップルに人気な浜しかない坂部ヶ浜は田舎のしょうもない街だ。

 上りたがりの自転車乗りと豆腐屋の車が好んで下りそうな崖みたいな急坂と本物の「崖」が跋扈するこの街で唯一中学校は坂を上がる以外に登校する方法はない。ママチャリ共では登れない、急坂の頂点にある学校である。

 しかし俺の所持するMTBはその急坂共をものともせずに登れる愛車である。その利便性以前に、このMTBを俺がこよなく愛する所以。それは――

「いやっほぉぉぉぉお!」

 急坂をすごい勢いで下れるから。

 風を斬るこの速さ、景色は流れ、スピードメーターが40キロ以上のスピードを表示する。髪は靡き、車輪の艶やかの音と共に申し訳程度の急停止用ブレーキがキュリキュリと叫びを上げる。

 まさに風になった気分だ。

 しかし、自転車に乗る者なら忘れてはならないことが2つ。

 一つは幾ら気分が風になってても俺のMTBは質量を持った車であるということ。そして2つ目は、

 車は急に止まれない。


 気づけば、猫がいた。

 そこに時速40キロの自転車に乗って突っ込んでくる俺がいた。

 避けようとした。猫が避ける前に轢いてしまいそうだから。

 よけた。が、その後の舵が取れず、丁度曲がり角だったのでガードレールにぶつかった。

 さて立地を思い出そう。ここは浜と坂の街、坂部ヶ浜だ。

 ガードレールの先は道がない、坂ではなく海の見渡せる絶景の……崖だ。

 浜がある、ということは海が近い、海には海流もあって、当然波もある。さすればあれもあるはずだ。波を止める人工物、テトラポッドもある。

 ……立地確認は終了。俺の眼前にはテトラポッド。俺、自由落下中。

 ……死んだな。

 終業式のために何も詰めていない軽いリュックサックを背負い、マウンテンバイクに乗ったまま俺、蔵脇颯人(くらわきはやと)は落下しながら悟った。

 これは死ぬわ。


 ……死んだ。否、死んでしまった。

 意識はある、死んだってこういうことらしい。

 俺の意識はハッキリしている。周りは砂利道で霧がかっており、俺は学ランを着ていて、マウンテンバイクがあって、軽いリュックサックも変わらず背負ってて、全身無傷で、目の前にドラゴンがいる。

 中日が率いてるプロ球団でもなく、7つ集めたら願いが叶いそうな球体から出るホログラムでもない。

 巨大な体で、角があり翼があって、鱗で覆われて、唾液垂らしながら俺を喰おうとしてるドラゴンだ。

 ……やばくね。

 こいつに食われたら死ぬよね。いや死んでるけど。

 逃げるしか、ないよね。

 ……てかなんでドラゴンがいるの?

 まぁ、この状況でドラゴンに会ったら方法は一つ。

 MTBに乗って、逃げる。

「うぅぅぅうおぉぉぉぉぉお!」

 これは死ぬ! 逃げろ! 死ぬ!

 道は悪いがマウンテンバイク、悪路での速さは自転車界で世界一ィィイ!

 逃げろ! 殺される!

 これはヤバい。死んでしまう! ……だから死んでるんだけど。

 まぁ考えればすぐ分かることだった。

 あんな化け物にとって、この程度の距離、足一歩だ。

 つまり、どんなに逃げようと毛ほども意味がない。

「どぉぉぉうぇぇぇぇぇい!」

 足払いに後輪を無理やり浮かせて対応する。

 逃走する、ひたすら逃げる。じゃないと、死ぬ。

「やべぇよ!」

 距離を取れ、今は逃げろ!

『今だ、反転しろ』

 そうだ反転するんだ。

 急回転、ドラゴンの方に、え?

『突っ込め』

 足が回る、ドラゴンの方に向かっていく、え? ちょ?

 ドラゴンは目の前だ。首自体を振りかぶって俺をホームランしようとしているにしか見えない。

 ……誰の声だ? 俺じゃない。他の人の声が頭の中に?

『今だ車体を浮かせ』

 前輪を浮かせ、後輪が石にぶつかり、浮く。

 車体が空中に浮かぶ、

『それで良い…。振り上げて、降ろせ』

 そしてよくわからんが俺は振りかぶっていた。指示に従うように丁度バットで物を壊すような感じで。

 MTBが輝いた。

『一閃』

 その時のMTBは自転車ではなかった。

 一本の着飾らぬ日本刀だった。

 その瞬間ハンドルを持っていた筈の俺の手は刀を振り下ろしていて、ドラゴンの首は切断されていた。

 ……意味が分からない。


 状況整理。

 どうやら死んだっぽいのだが死後の世界にはドラゴンがいて俺を喰おうとしてたのでMTBで逃げたらMTBが日本刀になったのでドラゴンの首を切断した。何か質問は?

 ……頭は大丈夫だ。俺も自分が何をしたのか分かってないしあり得ないと思ってるから正気、オーライ?

「これは何? 何で死んだあとにドラゴンをキルして血をドバドバ浴びなきゃならんわけ? 極楽浄土スプラッタとか誰得ですか? てか俺は生きてるの死んでるの……?」

『そうだな。とりあえず脈を見よう。心臓の血流が動いていれば鼓動が分かるのでは? 動いていれば生きてるのだろう』

「それもそうか」

 鼓動を計る……うん。ちゃんと動いてるな。生きてるらしい。……いやまて理屈では動いてちゃだめっしょ!?由緒正しく崖から落ちてアイキャンフライの身なんだぞ。

 ……ってか。

「お前誰だよッッ!」

 俺はいない誰かに向かって叫んでいた。

 それにしてもさっき聞こえた声に似ている。

『さっきは身勝手ながら行動に口を出させてもらった』

「それで俺は自滅しに行ってたのかこの主犯!」

 声の犯人俺を殺す気か!

 え、でもこの声誰が……? 幻聴? それは聞こえてたらゴー病院まっしぐら不可避だよね確実に。

 え、え、何これどこから聞こえてるん?

『私だ。貴殿が今後生大事そうに抱えてる奴だ』

 俺の手には、日本刀。

 刀身は腰より少し長い、短刀と長刀の間のちょうど扱いやすい長さの刀。刀身は鋼で切れ味が洒落にならない本当の意味での刃物。その刀身を何の文様もない良さそうな木で作られた鞘が包み込んでいる。

 そして、さっきまで俺の愛車だと。

 もう一度さっきから言いまくってるが今一度思う。

 ……意味が分からない。

皆様、自転車はお好きですか?

新作のファンタジー小説をお届けします。

今後の展開に悩んだり躓いたりするかもしれませんがなんとか続けていけたらうれしいです。

皆様よろしくお願いします。

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