40 『光!』
――死ぬ為に戻って来ただと? 死ぬなら惨めに死ね!
――お前が戦えぬのなら私が全部殺してやる。全部だ。嫌なら止めてみせよ。
怒れる赤い瞳の少女から往復ビンタを3度喰らった後、
水取は穏やかな気分で椅子に座っていた。
なんと言われようと己はやり遂げたという気分なのだ。
屑みたいな自分が死ねば大切な人々が助かるのだ。
予言通りに殺されたので良い気分。
――そんな理由で死ぬ事は許さない。
なじられる。だが何を言ってるのかもう判らない。
大穴が空いたはずの胴も治っていい気持ちだ。
ゆりかごに乗っているかのよう。
操縦席のスクリーンに周囲が映しだされている。
恍惚として観客のようにそれを見ていた。
操作はもはやコントローラーを握っていなかった。
自分の体のように存分に動くのだ。
気持ちがいい。
自分が千の秋の王の姿、今しがたビンタを喰らわせてくれた、
あの瞳に怒りを持った美しい娘になって舞を踊ってる気がする。
もっと踊りたいと思う。
再び立ち上がり次曲へ入る。まだ生きている者がいるからだ。
体は阿修羅に任せて舞を踊るに任す。
ただやりたいように力を出し伸びやかに踊る。
もっと早く、もっと強く。踊るために踊る。
「Astraea!」
たーん
「Astraea!」
たーん
「Astraea!」
たーん
三度杖の石づきが床を撃った。意識が一瞬そちらへ向かう。
完璧な呪文が邪魔されそうになっている。
白い少女が杖を高く掲げる。舞に併せて剣で襲いかかる。切り刻もう。
――あれすらもお前の心に触れぬのか! お前は私が喰う所がない程までに虚ろなのか!
――何もないなら滅ぼしても構わなぬよな!
――滅ぼす? 何が役割だ!
襲いかかりながらも理不尽な怒りの感情が渦巻く。……だがどうでも良い事だ。
――水取さん。
ディスプレイに一瞬寂しそうな瞳をした少女が映った。
ツインテールの黒髪のメイド。
仮面を外した、美しい儚げな少女。
桜色に光る。
エイプリルに襲いかかる剣の勢いが鈍る。止まらない。
小人が水晶の壁を作り剣を防ぐ。水晶にヒビが入る。
少女が祈りの言葉をあげる。
『主は憐れみ給う(Deigratia)』
そして大きく叫んだ。
「光!」
水晶が砕ける。
杖の光が銀河を貫く。星乙女の光。砕けた水晶がそれを増幅する。
崩れる。足元が崩れ落ちる。すべてが崩壊する。
まっくろなまっくろな冥府の門へと落ちていく。
いつまでも真っ暗な闇へ捕まるものもなく落ちていく。
落ちていく。
落ちていく。
そうして冥府の門の手前で掬い上げられた。
次回で一章終わりです。
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