37 『タイミング』
時がゆっくりと感じられた。
ミムさんに空間を引き裂く赤い線が迫る。
吸血鬼の王を見た瞬間に切り札、影縛を用意して
タイミングを見計らっていた。
ミムさんが吸血鬼の王へ弾丸のように突っ込んでいった事で次の一手が遅れる。
切り札『水晶の壁』を使用する。
すべての攻撃を絶対防御する守りの要。
ゆっくりと時が動く。
ミムさんに赤い線が入った。
続いて水晶がミムさんを囲む。ミムさんが倒れる。
残りの赤い線がすべて弾かれる。
ゴーレムが吠えた。
吸血鬼の王がその声に驚き抱えたエイプリルを落とす。
脳内ヨアヒムさんが体を動かし一気に跳んで踏み込み、吸血鬼をふっとばす。
エイプリルを保護。
吸血鬼はバラバラの肉片に変わるが空宙ですぐに集合して復活。
水取は動揺しつつも反射的に影縛を吸血鬼の王へロックオン。
吸血鬼の王が空宙を蹴って後ろへ跳ぶ。
ヘドロの騎士が瞬間、宙から現れる。
影縛のロックオンターゲットが変更される。誤射。
ヘドロの騎士が空宙で動けなくなる。
吸血鬼の王が勝ち誇る。空間に再び赤い線が五本走る。
ヨアヒムさんが咄嗟にゴーレムを動かし回避。
地面に亀裂が走る。
ミムさんの方を確かめようとしてヨアヒムさんに止められた。
「今は目の前に集中を」
――押し殺した声だった。
「ミ、ム……?」
エイプリルの悲痛な声が視界の外から聞こえた。聞きたくない痛ましさだった。
「勇者殿。目の前を」
脳内ヨアヒムさんが冷静さを促す。
心を強く持って敵に集中。
炎の呼び鈴を吸血鬼の王へ放つ。
ロックオンしているので今度は命中。消し炭になるが、灰から復活。ずるい。
「ほほほほ。今回は良い勝負が見れます事かしら」
沼の魔女の声が響く。
配下のヘドロの騎士を大勢引き連れてのご登場だ。
「しかし、見たことのないゴーレムです事。
霧の魔女も良い手駒を持ってましたのね。どれお手並みを拝見」
「勇者殿、蝿の群れが来ますぞ」
敵味方が集まってきた。エイプリルを味方の骨兵士に任せる。
ヘドロの騎士をヨアヒムさんが仕留める。
跳び退く。
ショットガンのような蝿が突っ込んだ跡で地面に穴が開く。
目標を殺すまで延々と弾丸のような威力で突っ込んでくる魔女の技だ。
蝿はカブトムシサイズから普通のコバエサイズまで色々だ。
蚊柱みたいに固まってる。
さらにコウモリの群れが来る。
こちらは吸血鬼の王の手駒だと思う。
炎の呼び鈴で焼き払う。
蝿がまた新たに魔女の体から湧き、コウモリも空から追加で来る。
とても辛い。
巨人のヘドロの騎士が休ませる間もなく槍で突いてきた。
雷を帯びた槍。早い。
なんとか回避。強いのが来た、という気分。
もともとが異世界から呼ばれた英雄の成れの果てだという。
侮れるわけがない。
回避と同時にヨアヒムさんの担当した剣がヘドロの騎士を斬り落とす。
ほんとうに、剣聖の技わからねえな、味方で良かったと思う。
「きりがありませんな。魔女を狙いましょう」
不死の吸血鬼は現状倒せる見通しが立たないけども、
沼の魔女ならば不死ではないはず、という希望的観測に基づいた決断だ。
「私の可愛い坊や達をこれ以上減らすのもねえ。そろそろ消えてくれるかしら」
ブラムシリカが本気を出してきた。
中庭が沼に変わっていく。
ミムさんを囲む水晶も埋まっていく。中には1ミリも入らないはずだ。
ゴーレムの足が埋まる。足場を探す。中庭の木々や庭石が沼へと沈んでいく。
「一度城壁へ行きましょう」
高いところへ跳ぶ。跳びながら炎の呼び鈴で敵を焼却。
ヘドロの騎士が消し炭に変わる。
跳んだ所を狙った蝿の群れが剣で叩き潰される。
城壁を蹴る。
一気にブラムシリカの前へ。
無風剣。
沼の魔女が真っ二つになる。
「ほほほ。お見事」
ヘドロが笑う。
「しかし沼の魔女はこの程度では倒れませんわよ。
過去にもこの程度の反撃をするプレイヤーは居ましたもの。
対策はありますわよ」
ヘドロの体が一斉に蝿に変わった。
周囲を囲む。
沼が鉄に変わっている。足が抜けない。
「――申し訳ありません、勇者殿。ダメージを受けたら、すぐに退避を」
切り札スキルのヨアヒムさんがダメージを受けた事で離脱。
無敵時間の2秒間を使って逃げる。
ゴーレムの手から剣が落ちる。魔女の体に絡め奪われたのだ。
離脱を優先する。コマンド魔法で蝿をまとめて消去する。
「ほう。先程までの動きが鈍ったようである」
吸血鬼の王の赤い爪が飛んでくる。ダメージを追加される。
蝿が弾丸のように飛んでくる。ダメージを受ける。
ダメージを受ける。
ダメージを受ける。
ダメージを受ける。
四方八方から攻撃を受けてなすすべもなくダメージが蓄積されていく。
豆知識先生がヨアヒムさんの代わりに補助してくれてるけども多勢に無勢である。
「うおおおおお!」泣きながら頑張ってる。
豆知識先生、すまぬ……。不甲斐ない勇者ですまぬ……。
「――水取くん!」
エイプリルの悲痛な呼び声が中庭に響いた。
――ああ、そうだ。自分が先に死んでしまえばゲームは終了だ。エイプリルは助かるかもしれない。監視者のちゃっきーさんを信じてみよう。
そんな事を思った。
「――それがお前の望みか!」
耳元で怒鳴られる。しかしもう遅い。戻ってきた時点で選択は終わっていたのだから。
機体が揺れる。鈍い衝撃。続いてディスプレイが消えた。
お腹が熱い。
手を動かそうとすると喉から血が溢れてきた。
血の海が広がる。
こうして正しく予言はなされたのだ。
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