24 『騎士ヨアヒム』
「水取さん、さっきの敵を動けなくする魔法使えますか?」
ミムさんがヒソヒソ声で聞いてきた。
「駄目なんだ。あれは一日一回が限度で」
「そうですか。……他になにか隠してる技がありますか?」
「絶対に壊れない水晶の壁が作れる、……と思う」
ちゃっきーさんから貰った切り札は三枚。
影縛、
水晶の壁、
そして死ぬ前に良い奴になる権利だ。
最後のはネタスキルなので考えない。
やはりもっと良い奴を貰っておくべきだった。
ミムさんは考えこんで、大丈夫です、任せてください、と言った。
虚勢と判るのが哀しい。
ズシンと大きな音がした。
甲冑の騎士ギュスターヴがヨアヒムさんの前で一度地を斧槍の石づきで撃ったのだ。
構える姿の禍々しい事。
3m級の大きな鎧にでかい斧槍で凄い圧迫感がある。
対してヨアヒムさんは枯れ木のように貧弱だ。
スケルトンのその手は余りにも頼りない。
「我、騎士ギュスターヴ。愛ノ為、オマエ滅ボス」
「我が名はヨアヒム。スリグリッドの子。
87代目の零式騎兵隊の五番隊隊長であり、霧の魔女に仕える騎士である」
「デハ。二度目ノ死ヲ」
遠い間合いから一気にギュスターヴが突進した。振りかぶって斧槍を払う。
鈍重そうな外観からは全く予想できない速さ。
大砲が撃ち出されるように巨大な質量で突っ込んで来た。
もし斧槍を避けてもトラックに吹き飛ばされるように吹っ飛ぶだろう。
そんな勢いだ。
ヨアヒムさんが軽く動いた。
ギュスターヴが横へバランスを崩して転がった。
達人の技、わからねえ!
ヨアヒムさんがギュスターヴに向かったまま解説してくれた。
「相手の振り落としを利用しました。振り落としを加速するように、また握りの力が入らない方向へと力を加えてやります」
立ち上がったギュスターヴが再び斧槍を片手で振り落とす。
ヨアヒムさんがすっと斜め前に体を避けて手で斧槍を引っ張る。
今度は前のめりにバランスを甲冑が崩した。
甲冑が踏ん張る。
「緩んだ紐よりも張った紐の方が斬りやすいですね」
ギュスターヴのピンと伸ばした足が飛んだ。甲冑の隙間、膝の裏からすっと刃が入ったのである。
「無風剣」
とヨアヒムさんが言った。かっこいいな!
……もうこのおっちゃんに全部任せておけば良いんじゃねえかな。
「さすがは元剣聖。霧の魔女から私の元へ来ないかえ? 良い体を用意しましょうぞ」
「申し出はありがたいですが二君に仕えるのはやめておきます」
「残念だねえ。――ギュスターヴ、お立ち。もっと根性を見せるんだよ」
「ギギギ」
沼の魔女からヘドロが倒れた甲冑へと流れた。甲冑の隙間にヘドロが流れこむ。
ヨアヒムさんが近づこうとして飛び退いた。ヘドロが一瞬前にいた所をなぎ払う。
座興は終わりと沼の魔女が本気で殺しに掛かっていた。
「一騎打ちでは無かったのですかな?」
「そなた相手には失礼でありましょう。一騎当千の強者には千人を当てるのが相応しいのでは?」
「それは買いかぶりというものでしょう。ギュスターヴくんも相当に強いお方です」
「ほほほ。私がやるのは口先だけの介入にしますえ。どうぞ、ごゆるりと」
魔女の口から大量の蝿が黒い煙のように湧き出てきた。
カブトムシ大の蝿から小さな普通の蝿サイズまで大小様々だ。
「数は数えておりませぬが、虫のする事。お許しを」
マシンガンのようにヨアヒムへ蝿が突っ込んでいった。
スケルトンの老剣士は捌ききれる量ではないと見るや体ごと避ける。
外れた蝿が鍾乳洞に穴を開け、そしてまた臨戦態勢へと戻る。
ずるい。
延々とターゲットを攻撃するショットガンみたいなものじゃないか。
コマンド魔法で支援しようとしたらターゲットサークルが併せずらい。
すっとびまくるので視界からすぐ外れてしまう。
あれこれしてるうちにギュスターヴが立ち上がった。
飛んだ片手と片足はヘドロが代わりに手足を作ってる。
「コロス……コロス……。愛ノタメ」
――詰んでね?
「霧の魔女の最大の手駒の老狼をここで潰せるとは。真珠よりも良い物が取れましたわ」
「余は不服である」
灰が不満を言った。
「次は良い所を見たいねえ。
……私を愛せぬ者は皆朽ち果てるが良い。おゆき。皆で確実に仕留めるんだよ。
老狼が消えれば次のゲームでも有利になる」
明らかにまずい事態。脱出口は敵の兵士。後ろは地下湖で背水の陣。
「ミム殿。勇者殿をお願いできますかな?
私は護衛を頼まれておりましたが、この方々が放してくれないようです。
別口から逃げてくれますか?」
「別口……。あ、はい!」
なにか判ったらしい。ミムさんが叫んだ。
「ヨアヒムさん、この場は任せました!」
「応。もとより」
手を引っ張られる。
入り口とは別の方向へ走る。
壁へ向かってミムさんがダガーを投げる。
「散!」
爆発する。壁に穴が開く。通路が向こう側に見える。ショートカットだ。
「小賢しい! 行け、子供達!」
入り口を固めていた沼の魔女の兵士たちが凄い勢いで走ってきた。
「水取さん、壁をお願いします」
通路へ逃げる。後ろから大勢の兵士が殺到する。
二の札を使った。
「クリスタルウォール」
氷のような壁が現れて兵士を遮断した。
ミムさんがやったように壁を壊そうと兵士たちが動くが水晶の壁は全てを弾いた。
その後ずんと迷宮が揺れた。魔女が強い魔法を使ったらしいがそれも防御したらしい。
切り札だけはあった。
壁の向こうでヨアヒムさんが戦っているのが見えた。
こちらに殺到していた兵士がヨアヒムさんの方へと向かう。
「行きますよ、水取さん」
「ヨアヒムさんが」
「彼はこの場を任され、それを誇りを持って応えています」
手を引っ張られる。
勢いで言われるままに水晶の壁を作った。わかりきった結果が見えて無かった。
己のした事に呆然とする。
ミムさんが強引に手を引っ張る。
「早く。敵が回りこんで来る前に」
ランタンの光から完全に外れ、闇の中を走った。
強く握られて外へ外へと走っていった。
隠し通路とトラップを利用して敵の兵士達を撒く。
ミムさんが光るおはじきを持って先導して駈けていく。
こちらの手のひらにあるおはじきと光が結ばれて闇をほんのりと照らして
それを目印に走った。
敵が持っている松明の灯りが至る所で見えてそれを避ける。
目のないスケルトンだろうがヘドロの体で出来た兵士であろうが
迷宮は己の番人以外にはルールを強いる。相手が灯りを持っているのは幸いだった。
要所要所で守りを固めていた沼の魔女の兵士たちはミムさんと二人で切り開いた。
敵は多く精鋭といえた。
自分の剣の腕は将来性があるとはいえまだ未熟。
コマンド魔法で焼き払っていく。
だが相手は一体が焼かれている間に潜り込んでくる。
それで教わったようにライフゲージというチートな体の特性を活かした。
ダメージを受けて二秒間無敵。相手の攻撃が体をすり抜ける。
相手は咄嗟の事態に対応できない。コマンド魔法を叩き込む。相手は燃えて消し炭に変わる。
敵が多い。
逃げた。
戦った。戦った。
逃げた。
戦った。
必死に逃げ切った。
途中で星乙女の御名を光るおはじきを使ってミムさんが書いた。
簡単な記号を出す要領でアルファベットを一文字ずつ出したのである。
Astraea
闇の中に心強く浮かび上がる。文字が踊り魔法陣を為す。魔法陣は静かに星の歌を歌う。
透明感のある綺麗な女性の声が複数重なった歌だ。
聞き惚れる。
魔法陣の星明かりにミムさんが照らされる。一瞬だけ見とれた。
通路を挟んで沼の魔女の兵士は怖れおののき迂回して別の道を探し始めた。
その間に逃げる。
最終的に残機を2減らしたがミムさんを守り切って地上へ出た。
地上に出ると白い霧が守って城へと導いてくれた。
「ヨアヒムさんなら大丈夫です。後からきっと来ます」
道中にミムさんがそう言った。
足手まといが居ない事で身軽になったのだ。
そう言われてみると確かにそうだと思う。
あの場に戻って一緒に戦うという事は三人で相手の全部と戦う事で、
さらに技量が拙いこちらの守りも考えなければならない。
ヨアヒムさん一人なら入り口の兵士を蹴散らして迷宮で追手を撒く事も可能なはずだ。
あの底が見えない強さなら心配が要らない気がした。
元剣聖とか魔女が言ってたし。
「きっと大丈夫」
しばらくしてミムさんがぽつりと呟いた。
城に着く前に迎えの軍勢が来た。そして安心した所で気を失った。
ウィンドウ
――騎士ヨアヒムが死亡しました。
――騎士ヨアヒムに切り札『死ぬ前に良い奴になる権利』を使いますか? (y/n)
ブックマーク、評価、感想ありがとうございますどす。
ちょいと一眠りしてから絵にかかりまする。




