23 『沼においでよ! 温かいよく眠れる良い沼にご招待』
「は!」
入り口で居合の構えを取っていたヨアヒムさんが動く。
足元に1つ、2つ、3つとコウモリが落ちた。
一気に大量の黒いコウモリが入ってきて全て撃墜される。
すげえな。そのまま山積みになる。
「へ? コウモリ?」
入ってきた時は見なかったコウモリが何故こんな所に。
ヨアヒムさんが飛びのく。
二つの青い鬼火がヒューンと気の抜けたロケット花火のような音を出しながらその上を飛びすぎていった。
鬼火は蛇行しながら移動するんだな、と思った。
山積みされたコウモリの死体が動いた。
むっくりと人が起き上がる。コウモリが消える。
「手荒い歓迎である。大義であった」
オールバックの髪型の端正な男が立っていた。
黒いコートを着ている。優雅に一礼をした。
あ、これは多分あれだ。
「吸血鬼か」と思わず口につく。
「ふむん。そういう貴殿はさしずめ肉喰鬼であろうな」
「野菜も食べる」「それは重畳」
ミムさんが袖を引っ張る。
「ヨアヒムさんが時間を稼ぎます。逃げますよ」
「いや大丈夫だ」
先手必勝。
フフフ。これを試す時が来た。
心の中の魔法書から栞を抜き出す。クールタイム24時間の優れものだ。
口が良く回ったのもこれの存在が大きい。
一の切り札を使った。
「影縛」
自分の影がすっと手の形に変化した。
吸血鬼に影の手が伸びる。吸血鬼は眉をしかめて無数のコウモリに化ける。
あ、駄目かな。
いや影の手も分かれた。全てをキャッチ。コウモリが空宙で固まる。
「落ちないもんだなあ」
「動けぬ。中々の魔導の質よ。褒めてつかわす」
「ここから火炙りタイム」
コマンド魔法で炎を呼び出す。
指で下、前下、前に線を引いて輝く魔法のリボンを出す。炎になって飛ぶ。
大きな炎を5発撃ってコウモリの塊を灰にしていった。
「どうよ!?」
くくく。雑魚め。
「落ち着いて会話も出来ぬのである。いい加減に解いてくれぬか」
灰がしゃべった。
ターゲットサークルが灰にロックされたまま消えない。生存してるようだ。
「不死身系? ずるくない?」
灰のまま縛られているのは助かったと言わざるを得ない。
「余には貴殿の方が卑怯だと考えるのである」
的確な意見だ。
入り口向こうからぬったりした黒い声がした。
「ほほほ。坊やの勇ましい事」
タールのような泥が入り口から溢れてくる。
泥が立ち上がる。蝿が泥の周りをぶんぶんと回る。
泥が巨大な頭になった。
目鼻口がくり抜かれていて、そこから芋虫のような蛆が無数に蠢いて落ちる。
ヘドロの強い臭いがする。
除臭する白い霧がないのでダイレクトだ。
ヘドロがにまっと笑う。カブトムシ大の蝿が口から飛び出す。
沼の魔女ブラムシリカが来た。
軽く絶望を覚えた。ファーストコンタクト時の恐怖を思い出す。
逃げよう。
足が震える。するとミムさんが手を握ってくれた。
手袋の下はスケルトンのはずなのに魔力が通っていて柔らかく暖かい。
震えが止まる。
「逃げますよ」「うん」
切り札を取っておくべきだった。
鬼火で魔女が来ていると気付くべきだったのだ。
ヨアヒムさんが構えを取ってじりじりと魔女との間に立った。頼もしいスケルトンの老剣士だ。
「魔女殿。余を助けるのである」
灰の山が魔女に呼びかけた。
「ほほほ。真祖であると私に言ったのは嘘だったのかえ?
吸血鬼の王よ。私はそなたの栄光が見とうございます」
「魔女よ。余はお願いしているのではないのである」
「おお、不死の王よ。残念ながら私の力ではその影を追い払う事はできませぬ。
影を追い払うのは光の役目である故に」
喧嘩しているうちに入り口に少しずつ移動する。
入り口からまた別のが現れたので止まる。
3mはありそうなでっかい甲冑だ。大きな槍斧を持ってる。
ひょっとして詰んでない?
「愛しい坊や。霧の魔女から離れたのは失敗だったねえ。
覚えておくことだよ。霧の無い場所では誤魔化せないものさ。
さてプレイヤーも紹介しておこうかね。
そこの灰が私どもの競技者でございますよ」
「もっと丁重に扱って貰いたいのである」
「童貞ではないからねえ。せっかくの力を用意したのに」
「余には不要な力なのである」
魔女が嗤う。虫の蠢く音が笑い声に聞こえる。
甲冑の方へ巨大な頭がぎゅるんと回転する。
鬼火が両の目の窪みに入って蝿を焼いた。ヒヒヒ、と変な声を魔女は出した。
「ギュスターヴ。沼の恋人よ。しっかり勤めを果たしておいで。
そうしたら褒美に沼に沈めてあげよう。
暖かい、――よく眠れる、――良い沼さ」
「ホウビ。ホウビを」
甲冑の隙間から泥がぼとぼとと落ちる。甲冑の中身は想像したくなかった。
魔女のようにおぞましいなにかが入ってる予感がする。
そしてまた魔女がコマのようにぎゅるんと一回転半してから宣告した。
「そしてこの迷宮は今、私の全兵士で固めております。
逃げる必要はあって?
外つ国から来た見捨て児よ。水取ユニくん」
――名を呼ばれた。しかも隠していた嫌な呼び名だ。
ヨアヒムさんが動く。蝿が真っ二つになった。すぐに砂浜の上で消える。
呪いだったのかもしれない。さんきゅー。
しかし、もう。
「ギュスターヴ。名誉を示せ。零式の名高い五番隊の老狼がいるぞ」
甲冑がヨアヒムさんの前に移動する。
入り口は別の甲冑が出て固める。
――ああ、これは詰んだ。
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『ぶれいくたいむ』
四葉亭の平穏な日々
キャスト:ハヴェル、ちゃっきー
「ハヴェルどん、手を魔法で四本にしてみたぜ!」
「うわ、気持ち悪いな、それ!」
「なにを!! この便利さをみて驚くべ!
エロ本を両手で持ったままでプレイが可能なんやで!!
ほら、こんな感じで…… あ、あれ?(ぶんぶん)」
「手が全部同じ方向に動いてるがな」




