17 『まさかの時の宗教裁判』
「うわ、す、すみません!」
教師に見つかったかのような調子で王の間から転がり逃げる。
亜麻色の髪の少女が小悪魔的に笑う。
豆知識:悪魔的笑いは『フハハハ!!』と笑え。腰に手だ!
相変わらず要らぬ知識を提供する豆知識先生だがどこか焦っている。ちょっと不安そうに怯えて泣いてる。
心が少し痛む。
「アハハハ。おにーさん心配しなくていいよ。あれはね。おにーさんの世界で言えばロボみたいなものだよ。鎧の中に入って操縦するんだ。ゴーレムさ」
「ゴーレム」
「胸に小部屋があってそこに入るんだよ」
「小部屋」
「……コクピット、で良いのかな。おにーさんの好きなゲームとか漫画の奴を想像してごらん。ああいうのだよ」
「――へえ」
もう一度王の間を覗き見る。中央の巨大な鎧は先ほどと変わらないまま光を浴びている。そうやって千年の秋を過ごしてきたのだ。
何て名前だろう。
「さあ、なんでしょう?」娘が耳元で囁いた。
閃く。
「阿修羅王」
阿修羅は六つの腕だが足りない腕は隠れている。足りないのなら足せば良い。
名前を呟いた途端、鎧の心臓が動き始めた気がした。
鎧は静かに静かに、だれにも悟られないように眠りから覚めようとしているようだった。
娘が小悪魔的笑いをする。
「アハハハ。正解。そうか、そういう名前だったんだ。僕らは『眠る秋の王』とか『千の秋の王』って呼んでたんだ。ようやく名前が知れたよ。――今日はこの辺で良いかな。鍵はないし」
「鍵?」
「起動する為の魔法の方程式が必要なんだよね。おにーさんが持っているかと思ったけど。まだ持ってないみたいだし」
「へえ。じゃあもう良いか」
ちょいと操縦したかった。
娘に手を引かれて王の間から退散した。
「良い物みたよ。ごほーびの時間だね」
「ご褒美」
「僕は狐のネリカ。僕は可愛い? どう? 可愛いって言ってくれたら、ね?」
しなを作る。あざとい可愛い。
「えっちな事してあげよーかな。おにーさんの周りでまともなの霧の子しか居ないし、あの堅物はそういう事をさせないでしょ。おにーさん童貞だしエッチしたいなあ」
童貞にいきなり美少女がこういう誘いをした場合、自制を求めるのは酷である。
豆知識先生の言葉:落ち着いて聞いて欲しい。性別を逆転すると処女だからエッチしようと言っているようなものだぞ。
豆知識先生がなんかウィンドウを出しているけど無視した。たまに豆知識の裁量を超えてくる。そっと脳内のウィンドウをドラッグで片隅へ押し込んだ。
「のー!!!」
「か、かわいいです、天使です」
「天使とは褒め言葉だね。おっけーだよ。
さあこっちに来て、えっちな事をシよっか。一度だけじゃなくて気の済むまでシて良いよ」
良いのか!?
童貞なので寸前で臆した。
童貞に美少女がこういう誘いをした場合、思いっきりを求めるのは酷である。
すると娘が困った顔をした。
「ん……。紅公子も意地悪だなあ。おにーさんのこれね。
童貞失うと死んじゃう呪いが掛かってるね。しかもちょっと解けなくなってるや」
「ちょ!? え、え、え――!!??」
紅公子はおそらく赤いマフラーのちゃっきーさんの事である。おのれ!
「――気の毒だねえ。おにーさん、一生童貞かもね」
娘はそう言いながら軽くデコピンの要領で弾く。
股間を押さえて呻く水取。
「お”お”お”お”!!!」
悶絶である。
しばらくお待ち下さい。(ぽっぽー)
脳内ウィンドウに突っ込む気もなれない。呻く。
ダメージゲージが機能して欲しかった切実な痛みである。
「――ごめん。そんなにショックだった?」
物理的にも……な!
涙目でうさぎ跳びする。女の子が腰のあたりをトントンしてくれた。
少し楽になる。
「ど、童貞喪失で死ってマジか?」
「僕もどうにかしてあげたいのだけど、こればっかりはねえ。――いっそちょん切って女の子にならない? 子供は産めないけど外見だけは完璧な女の子にしてあげるよ」
「のおおおおお!!」
「まあ、スッキリさせるだけならやり方はあるのだけどね」
「え”?」
「気を持たせたからね。ちょっとしたお詫びのつもりさ。ほら下着は脱いであげる」
ぱさっとスカートを履いたまま下着を脱いでよこす。よもやの水色の縞パンである。一部の殿方を殺しに掛かるあざとい下着だ。
「下から覗いても良いんだよ……?」
と言いつつしゃがみ込む。
このお嬢様は見たければ床に這いつくばれとおっしゃっておられます。
『プライド VS すけべえ魂』
ふぁい! 下馬評では序盤がプライド有利ですけべえ魂が最終的に勝利すると見込まれています。豆知識先生どうですか? そうですね、元々の童貞という不利に加えて相手が巨乳美少女というのも大きいですね。水取くんはおっぱいが大好きなスケベ人です。また見るだけに留まらないかも知れないという期待感が燻っている限りはすけべえ魂が勝つでしょう。
脳内でウィンドウが延々と勝手な実況をしている。
今真面目に悩んでるんだよ! ほっといてくれないか!
そこへ突然の一陣の風。
「ぱんつだぱんつだ、ひゃほー!」
小人が下着をゲットして走る回る。
「げえ! ちゃっきー!」
「……紅公子! ずっと見てたの?」
少女が慌てて立ち上がってお冠だ。顔が真っ赤である。宙から黒い魔女帽子を取り出すとそれで両手でそれを持って顔を隠す。狐耳がぺたん。あざと可愛い。
「す、すまねえ!
目の前に舞うおぱんちゅなる物、いとをかしって紫式部が言うから……」
「……言語が通ってないよ、それ。まあ良いか。えっちな事はお預けだね。じゃあね」
娘はそう言うと消えた。なお枕草子は清少納言なので覚えておいて欲しい。
「何者だったんだろう」
「6月のところの監視者どすな。厄介な奴が担当になってるのう」
「お互い様だよ。それ返して」
と空から一声したかと思うとふわりと少女が現れた。小人からパンツを引ったくる。そして舌を思いっきり突き出して「べー!」っ言って再び消えた。
「嫌われたもんどすなあ」「俺のせいじゃねえよ……」
だが現れた瞬間スカートがめくれ、それを押さえつけるまでの数瞬を鋭い目は見落とさなかった。
水取と小人は無言で拳を突き合わせた。
――称号『出歯亀』を手に入れました。 効果:視力を5倍します。
なんか不名誉な称号が増えた。
かくれんぼ中に消えて居なくなったので一杯怒られた。
8人という大所帯と一時間という制限時間だったのでその気まずさは察して欲しい。
途中で小人が鬼役に代わったそうだけど。
そして王の間に入った事はさらに怒られそうだったので黙った。
つま先、つま先だけだからセーフです!
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ツイートの方でも見ていますどす。
次回『そうだダンジョンへ行こう!』は本日10時の更新予定です。日曜だしね。
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ファンタジーで巨大人型兵器というのがやりたかったで御座る、という案から始まった話でようやく登場ですね。
アーティファクトアイテム『阿修羅ゴーレム』のエピソードです。
葉露のUCアーティファクトアイテムアイテムで出してたり。
なお案がノートで5年ぐらい眠っていた理由は
「これゲームにするにしてもロボ描き慣れてないし、あとACT向けすぎるわ」という技術と手間的なもので。そんな『自分で絵で描くのは嫌だけど文章にすると楽しいな!』という発掘企画でごわした。
後の登場をお待ちください。




