14 『剣のお勉強。チート版』
ひと通りフリスピーに魔法を当てて遊んだ。
小人が木の剣を取り出すと渡してきた。
「剣持ったままコマンドokやで。これで慣れとけ」
「おお。お、軽いな」
「まずはチャンバラで遊ぶべ」
ゲームな体になっているので木刀が軽い。実際は本物の剣並の重さである。
まあここで体を鍛えてもしょうがないので遊ぶことにする。
剣技のインストールも出来るといえば出来るそうだ。
でも自力で習得した方が潜在力の本を無駄に消費しないし良いべ?
というのでインストールしない事にした。必要になったら入れてもらおう。
小人とは体格が違いすぎるので衛兵のスケルトンを1人捕まえて稽古する事にした。
ここの衛兵達は目の所に布を巻いていて少しおしゃれである。
衛兵は頷いて快諾した。暇人が多すぎる。
小人とスケルトンがハイタッチした。
一瞬銀色にスケルトンが光った。-more-
何で光るの! と疑問に思いつつ稽古開始である。
小人は空に向かって何故か手を振っている。多分蝶々を見つけたからだろう。
スケルトンが木刀を手に取ったので軽く併せてからちゃんばら開始する。
結果はいうまでもなく小手先であしらわれていった。技術が全く無いから仕方ないよね!
「んー。どうするべ? 本気で強くなる? ガチでやるなら鬼教官呼ぶべ?」
「ここで強くなってもなあ」
鬼教官というと泣いたり笑ったり出来なくなりそうなので勘弁してもらいたい。
「まあ待ちなさい。たしかに外つ国に戻れば体力は元のもやしどすが。脳の経験はどうかな……!!」
「な……なん……だと! まさか!」
元の世界に戻っても無双できるって事か!
「あ、そうでもなかった。夢と同じように忘れるわ」
「聞きたくなかったな、その台詞!」
上げて落とす。
「でも少しは残るんじゃねえかなあ。他にする事もなかろうし軽く修行してみるべ?」
「うーん、延々と棒を振るのもなあ」
剣道とかの稽古を想像する。日々の努力で鍛えていく光景である。
地味な道場稽古をバカンスに来てまでやるかと言うとノーである。
そこでスケルトンの目隠し兵士が言った。
「私の意見を述べさせて頂いても?」
「しゃ、しゃべった!」
モブだと思っていたスケルトンが渋い声で喋ったので驚いた。
「お前さん、ミムどんと散々しゃべっとたやないか……。あの仮面の下も骨やで。えーと続けてどうぞ」
「ありがとう御座います。
剣の修行を一日の日課として昼食まで行うのはどうでしょう。
毎日決まった事を行う事は外つ国に戻った時でも役に立つでしょう」
午前中だけの訓練の提案である。
「あれやな。長期の休みでさぼり癖をつけると日常生活に支障がでる奴やな」
「う、うん?」
「それに剣が使えれば女性にもモテますよ。私も若い頃はそういう理由で志したものです」
「まさかのカミングアウト。モテか!」
「ええ。当時憧れた人が美しい女剣士でした。最後まで勝てませんでしたけどね」
しみじみスケルトンのおっちゃんが述懐する。渋茶でも持ったら似合いそうだ。
小人がうんうん、と頷いた。
「剣はモテるで。魔法でぱぱーんってやるより剣で女の前に立った方が絶対モテるで」
「勇者殿は体力は問題ないようですが技術が身についておられない。
型を体に落とし込んでみてはいかがでしょう。
体が勝手に動くようになれば全く違います」
「よ、よし! やるか」
さりげなく勇者認定になってた。溢れるオーラのせいかな!
地味な基礎体力作りをすっ飛ばすというのも魅力的である。
――後から思い直すと上手く勧誘されたものだと思う。やりてか。
スケルトンのおっちゃんと仲良く修行する事になった。
おっちゃんはヨアヒムという名らしい。
年齢的には64~5歳ぐらいの人間相当だとか。スケルトンは見かけじゃ判らんものよ。
小人のちゃっきーさんがテレパシーで体の動かし方をアドバイスしてくれる。
これがなんというか、チートというかそういう展開になった。
体の動かし方を口ではなくて直接感覚を通して指導してくれるのだ。
上達がえらい早い事になった。
体の細かい制御やバランスまで直接感覚を通して修正してくれた。
さらに幻影を見せてどういう時に使うのかもまで解説するおまけ付き。
アクロバテックな体操技も若い子は楽しかろうと教えて貰ったりした。
バク転が綺麗に出来るようになった。やったぜ! 補助付きでだけど。
「バク宙もやろー!」「ええで」
ちゃっきーが垂直ジャンプからのバク宙を見本でやった。ぴょんとジャンプからの膝を胸に叩きつけるようにぶつけて回転くるん。コンパクトに低いジャンプで回った。
胸で回るのがコツ、とかいう。鉄棒みたいなもんやでと。体格が違いすぎて見ても参考にならねえな!
――バク宙は補助付きでも難しかったのでおいおい出来るように頑張る。
「実戦で下手なバク転とかバク宙したら、あっさり一撃入れちゃうけどな!」
特に実戦は集中しているから相手の隙にはがっつり入れるものらしい。
奇襲のつもりで仕掛けてもよほど上手くコンボを組み立てないと簡単に反応されて返り討ちが常だそうだ。
どちらかと言うとアクロバテックな技の練習は体の全体的なバランス感覚を鍛える事に意義があるそうだ。
戦場だと毎回足場が万全ではないし相手のバランスを崩す技も多い。
その時に役立つという。
そして女子供受けが良い。はい。判ります。
「しかし地味な技も修練を積むと趣きが深いものです。曲芸ならこういうものもあります」
ヨアヒムさんが木の下へ移動してすっと木刀を構える。
白い花びらが落ちる。
しゅん!
ピタ
しゅん!
ピタ!
とても美しい物を見た。
剣の速度もあるけども洗練された動作とバランスがある種の機械的な造形美を見せる。戦闘機のかっこよさに通じるものがある。
そして木刀で花びらが綺麗に4分割。おかしくない? 刃先が切れるような造りなの?
「曲芸です」
なるほど!
あとこのスケルトンのおっちゃん、絶対モブじゃないわ。ボス張れるわ。
ちゃっきーさんが感心して拍手してる。おっちゃんが片手を上げてそれに応えた。
無風剣、というらしい。音が聞こえないからそのままの意味で。
ただの棒振りから極めると名前が変化する出世魚みたいなもんやでと言われた。
おっちゃんと一緒に色々と稽古する。いずれ素振りだけでも先の曲芸ができるようにおいおい頑張るとして手っ取り早い軽業の練習である。
「バク転の型は相手の技を回避じゃなくて、実はここで相手の死角から顎をかするように蹴り上げやで。足はコンパクトに振りぬけ」
とか。
表の型とは別に口伝する部分があって型の動きの意味が違ったりする。
本来なら皆伝の人間に伝える技が大サービスで惜しみなく伝授されていった。
どうせ忘れるだろうし、とか。ひどい。
ヨアヒムのおっちゃんが見て小人がテレパスで中から補助して指導してくれた。
外と内側からで理解がわかりやすい。
稽古は漫画とかで見る古武術みたいだと思う。剣と体術が合体したようなの。
記憶から取ってるのかな、とちらっと思ったけども知りようがない知識と実践があったので違うのだろう。
組み打ちの技を教わる時に特にそう感じたのだった。
「親指は物を握る時の要です。拳を作ってみてください」
こちらの作った拳の親指と人差し指の間にヨアヒムさんが指を差し込む。
「この方向は力が入るので外れませんが、親指の隙間へ走らせると簡単に抜ける事ができます」
指が拳からあっさり取れる。
「なので組み打ちの際に相手から逃れようとする場合や、逆に相手の持つ武器を取り上げる場合はこれを意識します」
木刀を実際に取ってみせる。ひねりながら親指から抜けて取られた。
けっこう力を込めてたのにびっくりだ。理論と実践でごわす。くんずほぐれつである。
まずは根本に理屈というものがあるので技や型などはそれを達成する手段にすぎないのだ。
「ここから強く親指を差し込んで、そう下へ強く押し込むとちょうど血管が走っているので破裂して死に至ります」
「下から擦りこむようにXX柱を潰すとXXXに血栓が溜まって相手は数日して死に至ります」
ヨアヒムさんのガチトークである。ちょっと漫画でも町道場でも教えないようなのを教えてくれる。
自らのスケルトンボディを使って骨の隙間からの急所などを判りやすく教えてくれるので恐ろしい人だ。
その上で実戦で使う型を教えてくれた。
組み打ち技術は小人よりも詳しいようだ。
それはきっと師匠が容赦なく邪悪だからと小人は言った。
ヨアヒムさんは神妙に同意した。
最後に組み打ちを軽くしてあっという間に昼になった。
体が色々動くようになったので名残惜しいけども約束は約束だからと明日へ持ち越しになった。
「いやー。これ楽しいわ」
「上手くいく物事は楽しいもんやからな」
「それではまた明日に。私は見回りに戻ります」
ヨアヒムさんが一礼して去る。武人って感じ。
小人と汗を拭きながら木陰で涼む。
ミムさんとエイプリルが来た。一緒にランチと洒落こむ。
「見てましたよ。意外でした。剣が使えるんですね」
「ミム。あれはそこな御仁がテレパスで動かしてたから」
「それでも凄いことですよ。いずれ補助無しでも動ける素養があるということですから」
褒め称えらているので気分が良いでごわす。




