10 『陣取りゲーム』
アップルパイと紅茶はささくれた心を和ませてくれる。
アツアツでうまうま。甘さもあっさりしていて歯にくっつかず食べやすい。
都心のデパ地下で売ってても行列できそうな味だ。
小人と一緒に二切れ目に突入。エイプリルは手を付けてない。
仮面外して食べればええねん、おいしいどすよと小人がそそのかす。
だいぶ迷って仮面に手をかけた。
おお。またエイプリルの素顔が見れる。仮面ずっと外せばいいのに。
すっと背後から目を隠された。
黒ツインテールの骨メイドがくすくすと笑う。
「お嬢様の顔を見れるのはプレイヤーが決まってからですよ、お客様」
さようであったか。
「一回すでに見たんだけどな」
目隠しされたままぽつりと呟く。場が固まった。
メイドさん達が魔女の出方をごくりと待っているようだ。
「そう。あれは事故。無効」
「あ。先方はそれ思ってないどすわ。道理であの時追撃やめてたんか」
「う。水取くんは最悪」
ヘドロから出た時に沼の魔女がそれ以上の攻撃をやめて帰ったのは己をプレイヤーと認めたかららしい。へえ。
なんかよく判らんけど助かったのかな。
「ミム。ありがとう。もう良いわ。観念する」
ツインテールの骨娘はミムという名前らしい。メイドさんの名前ゲットだぜ。
順調にフラグを展開している気がするよ。
目隠しが外された。
やったぜ! エイプリルの素顔が見える。やはり可愛い。
するとフードをあげて目深に被った。再び顔が隠れる。
「これは、水取くんを本当に認めた訳じゃないから。被る」
言い訳入った。
ちゃっきーさんがぐいっとフードを後ろに引っ張って観念しとけと諭す。
エイプリルのえるふみみが赤く染まる。
「狭間の説明続けるけど良い?」
「おねがいしゃっす!」
何となく気恥ずかしい。居たたまれないので話を促した。
「狭間は色んな世界と繋がりやすい場所。世界の端っこ」
「白い霧の所かな」
「そう。そこの管理を今この城でやってる。他の狭間は沼だったり色々」
「ふむふむ」
「狭間は時折、他の狭間とぶつかる」
少女は本を2冊持ちだしてぶつけてみせた。
「それでぶつかる時に狭間の取り合いが起こる」
「ほうほう」
エイプリルはページとページを噛みあわせてみせた。
「相手の狭間にある城を占拠したら勝ち。
相手に狭間の一部を割譲して結果を受け入れる。
そういうゲーム。神々同士の戦争にしない為のルール」
「シンプル」
「城主は他の世界から招くのが慣例。それがプレイヤー」
「へえ。じゃあ俺が今城主か」
「仮城主。すぐ帰って貰う」
小人が説明を付け加えた。
「他の世界の住民なら事が済んだ時に帰って貰えば面倒が起こらないからどすよ」
「居座られても困るって事か」
「そういう事。
故郷に恋人残してるとか、病気の子供が待っているとかの英雄を選ぶのが慣例やな」
お、おう。
あれ? でもエイプリルさんは俺に帰れ言う時になんて言ってたっけ。
未練があるだろうから帰れみたいな事言われた気がする。
今ちゃっきーさんが言うには故郷に未練がある英雄を選ぶのが慣例と言ってるような。
考え込んでいる間にエイプリルが会話を続ける。
「こことぶつかる狭間は十二」
「ここ入れてどすな。ちなみに細かい狭間入れるともっと多いどすがキリが良いところで十二にしたのだべさ。細かい狭間はそれぞれの領地って事になってる」
「大人の理由……!」
「そして全部が全部敵という訳でもない」
「へえ?」
「狭間がぶつかる時、同時に4つとか重なる時がある。そういう時は手を組む」
「そうやって延々と昔から続けてるもんで仲の良い狭間とか出てくる訳だべ」
「なるほどなあ」
「ゲームはぶつかる双方がプレイヤーを受け入れてから始め。今は準備期間」
「紳士協定だ。……ああ、それで俺が助かったのか」
ここでようやっと判った。
プレイヤーじゃないとエイプリルが言ったので沼の魔女が殺そうとした。
ところがエイプリルの素顔を見た自分がプレイヤー認定になった。
そして相手はまだプレイヤーを決めておらず準備期間中で退散した、という事らしい。
運が良かった、としみじみする。
エイプリルが続けるけど良い? と聞いたので
お続けになって、とハイソに答えた。
「ルールは重要。とくに永劫を生きる神々には」
「へえ?」
「無分別に刹那で生きていれば自分を見失い、それは神々ではなくなるから」
「そういうもんかねえ」
「そう。刹那に生きるのは人の特権」
ミムが紅茶のおかわりを注いでくれた。
さりげない心遣い。仮面の下がスケルトンじゃなければな! と思う。
メイドさんの仕草、佇まいがやたら可愛らしいのが却って辛い。取れない葡萄が酸っぱいみたいな。
ついでエイプリルはホットミルクを頼んだ。砂糖は1つと。
ミムはあら、珍しいと下がっていった。
エイプリルがジト目で見据えながら会話を続ける。コワイ!
「プレイヤーの選別は重要。弱いプレイヤーは役立たず」
「う、うん」
「だから帰って。プレイヤーの変更は可能」
「お、おう」
ストレートに役立たずって言われてる気がする。
「戦を経験している強い世界のプレイヤーが必要。
神々の秘宝に認められた人が要る。
魔法の技と剣の技も魔女と戦えるぐらいは当然」
光の勇者さまとかそういうキラキラしたのを呼ぶつもりらしい。
あ、なんか絶対イケメンというか主人公張れそうな人材っぽい。
にくいわ……!
「魔法ねえ。水取どんの所の世界の魔法は強いべ」
「嘘。水取くんの世界に魔法はないはず」
「それはお前様がいまだ知らないだけどすよ」
「え、魔法あるの?」
よく出来た科学は魔法と変わらないという、あれだろうか。
「そうだとしても水取くんにはきっと使えない」
「う、うん?」
「その辺で。水取どんはおいどんがパワーアップさせたべ。つよい子やで」
「それ。向こうのプレイヤーにも渡った。最悪」
「せやったな!」
ちゃっきーさんがお茶を飲んで一息入れる。
「そんで細かいのはともかく説明するとして。4つ以上勝利すれば願い事ゲットだべ」
4か! 全部の城統一じゃなくてよかった。
脳内に豆知識のウィンドウがでて箇条書きしてくれた。
もはや豆知識じゃねえな。大豆知識だろうか。大豆だとダイズだな。
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▼ウィンドウ
・12の狭間の城がある。
・相手の城を占拠したら勝ち。
・プレイヤーの変更と帰還はいつでも可能。
・狭間同士で重なってプレイヤーが双方に決まるとゲーム開始。
・プレイヤーの居ない魔女は相手プレイヤーを害する事が出来ない。
開始後にプレイヤーを変更する場合は注意する事。
・負けた狭間は相手に領地を一部割譲する。魔女が居ない場合は魔女も一新する。
・4回以上勝利したプレイヤーは帰還時に願い事を1つ叶えて貰える。
・12宝石を集めた魔女と狭間の一族は呪いを許され自由になる。
・監視者は各狭間に一人派遣される。訓練やアドバイスはしても良いが直接戦闘に加わってはならない。我慢しなさい。
・監視者同士でルールを新たに話し合う事も許される。
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うちの監視者はちゃっきーさんらしい。頼れるような、そうでもないような。
コボルトキングだしなあ。RPGだと雑魚だよねえ。
そんなことを考えているとちゃっきーさんがニコ! っと親指を立てた。
頼れそうな親指の立て方だ。これは強いぜ……!
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「ところで城の占拠ってどうやるの? 相手の城に乗り込んで旗立てるの?」
「プレイヤーの死亡か降伏」
「うわお」
「……それか城の守護宝石の獲得」
「おお、宝石。どんなの?」
「……」
無言。
「あ、言ってみただけだから。
きっと凄い綺麗な宝石で見せられない宝なんだろうけど」
「……」
またなんか変な事言ったかな!
「あー、うん。お前様の目の前にその宝石がおるで」
「へ?」
変な声がでた。




