怖がる人と怖がられる人
「お姉さん、ちょっと道聞いてもいい?」
「あ、はい…ヒャアアアアアアア‼」
「落ち着いてお姉さん。」
「ま、まま、まぞ、魔族!?」
「魔王だがな。」
「な、なんでもしますから‼どうか、い、命だけはお助けください‼」
「わかってる。」
「でももし命を奪うのでしたら私の処女を」
「知ったことではない」
どうも蓬田和都です。今何してるかって?通りすがりのお姉さんに道聞こうとして命乞いされてますよ。まあ、見た目が魔王じゃ仕方がない。でも道を聞いたのは西園寺君なんだけどな。それに殺される前提で性の話に引っ張ってかれたんだけど。
「そうか、なら近くの町まで案内してもらおう。」
〔すっかり魔王スタイルが板に付いてますね。〕
(誰のせいだ、誰の。)
〔さあ?〕
「わ、わかりましたっ‼どうか、処じ…いえ、命だけは…」
「道案内をしてくれた者の命をとるなど言語道断‼いくら魔王が極悪非道として語られていてもその程度の常識はある。」
「おーい、和都~。」
「春翔?どした?」
「こっちじゃウェスター・スプリングって名乗ってるの‼…それよりほら。」
「あ……しまったぁぁぁ‼」
ウエストミンスター・プディング?はともかく、そこには催してしまい顔を真っ赤に染めたお姉さんの姿が、
〔こういうのが好みなんですね。〕
(断じて違う。)
〔あ、じゃあ趣味ですか?〕
(そっちでもない。)
この女神様バカなの?アホなの?どっちなの?
そして案の定泣き出すお姉さん。
「泣かせた~、いけないんだ~、悪いんだ~。」
「黙れプディング。」
「プディング!?俺のこと!?ひどくねソレ!?」
初対面にも関わらず勘だけで人を殺そうとしたバカ野郎がよく言うぜ。
「やかましいぞプディング。」
「誰がプディングじゃボケェ‼いっぺん氏なすぞオラァ‼」
第二人格ヤーさん登場。戦いは第二ラウンドへ。
なんで周囲がこんなにめぐるましく変化する異世界に転生したんだろ?そういや転生前の女神の試練では良いことがあった記憶がない。即死毒、麻痺毒、睡眠薬、爆発物、刃物、銃弾、なんでもあり、挙げ句の果てにミサイル、戦闘機、パワードスーツ、トドメとばかりにNBC兵器まで盛り込んだダンジョンに置き去りにされたんだよな。ダンジョンのモンスターはフェンリル、バジリスク、ヨルムンガンドが序の口。ラスボスはアンラ・マンユやアスタロト、ネビロスにルキフゲ・ロフォカレの小隊。それに加え女神様は何を思ったか体力自動回復機能をモンスターにつけたのだ。生きて出てこれたら転生特典とか言ってたけど結局、万単位でいたはずが終わってみれば数十人。転生世界は同じでも姿形や、転生座標、時刻がまるっきり違うからまず仲間が見つからない……あれ?
「泣かないで下さいよ~。あの人が責任を取りますから。」
「うおぉい、ちょっと待て‼俺の責任なのかこれ!?」
「当たり前じゃないんですか~?女の子の恥ずかしいトコロ見ておいて責任とらずにサヨナラとかクズでドSで変態で鬼畜なDTのやることですよ?」
「疑問文!?しかも今さらっと毒吐いたよな‼」
「さあ早くラグラスの町に行って結婚式をあげましょう?結婚式には僕の知り合いも呼んで…」
もう疲れた。突っ込み所がありすぎる。このやりとりでお姉さんの涙も止まっている。
いや、気絶している。
「結婚式って洋式と和式どっちがいい?」
「TPOをわきまえて話すように。」
「どゆこと?」
見りゃわかんだろうが、当事者の一人が気絶してんだよ。
「…手が早いね……」
「違うからな。絶対違うからな。」
〔やはりそういう趣味でしたか。〕
「違うっつってんだろうがこのクソ女神ィィ‼」
「あ、起きた。」
よかった~、この人起きなかったら永遠に彷徨うところだったぜ。
「ヒャアアアアアアア、ま、まま、まぞ、魔族!?」
さっきまでの苦労はどこへ行った。
「もしかして私魔族にハジメテを…そういうのもいいかな~なんて思っていたりもしたけど……まさか相手が魔王なんて…しかもこんな真昼に街から離れた場所で人前で……今死んでも悔いはないわ♪」
………想像力豊かでよろしい‼のか?あと今死なれたらこっちが困る。てか貴女の性癖今全部わかっちゃいましたよ。
「せめて一番近い町まで案内してくれるか?」
「はーい♪わかりました♪」
「よろしくね~」
……誤解を解く機会は二度と来ないな。
「あ‼地図あったの忘れてた‼」
この人に会うまで三日三晩彷徨って迷子になりかけてたんだぞ俺ら。
「馬鹿かお前。」
「仕方ないじゃん。この世界に来てすぐに魔王やっつけろとか言われてできなかったら実は転生者で駄女神の加護付きだし、装備チートクラスだし、まあ色々あったし。」
「お前の頭はダチョウ並か!?」
〔私も目の前に現れるまで春翔の存在を忘れていたくらいですから仕方ありませんよ。〕
「確かに女神は忙しそうですもんね。」
〔そうですよ。ゴロゴロしたり、イケメン探したり、ゲームしたり、ガールズトークで盛り上がる話題探したりしなきゃいけなくて大変ですからね。〕
…………某有名漫画の超人的な五歳児の日常としか思えない。こいつの頭はニワトリ並みが決定したな。
「とにかく、普通はそう簡単に忘れないぞ?だいたい…」
「城門見えたし良くね~?」
いや、まあそれはそうだけど、もう少し説教に耳を傾けて欲しかったな。一つとはいえこっちが先輩なんだから。……にしても騒がしいな。なんかあったのか?
「城門を閉ざせ‼魔王を中に入れるな‼」
「樽とか木材とかとにかく沢山持ってこい‼」
「縄も忘れんな‼バリケード作るぞ‼」
「兵士を全員集めろ、この際農家の男衆も呼んで構わん‼」
「ありったけの矢を用意しろ‼」
「女子供や老人は反対の城門まで退避‼」
「騎兵隊前列で突撃体勢、槍兵隊は中列で防御陣形をとれ‼」
「長弓隊構え‼目標白銀の鎧を纏った魔王、距離1000‼」
「なんとしてもこの街を守るぞ‼」
「俺、この戦が終わったら結婚するんだ。それまでは死ねねぇ‼」
誰だ、今死亡フラグ立てたヤツ。まず戦なんか始まらないし。ただの高校生に戦が起こせるとでも?
〔あなた今魔王スタイルですよ?〕
完全に忘れてた…
逃げ帰りたい。でも出来ない。どうしましょう?
〔滅ぼしましょう。〕
残念はほっとこう。
「全滅させましょう。」
お前勇者って呼ばれてたよな?危険思想過ぎないかね?
〔血祭りに上げればいいじゃないですか。〕
「なぁ春…スプリング。」
「なんでしょう?」
「お前も女神の声聞こえてるよな。」
「常時ONなので当たり前です。」
「…あいつ頭おかしいよな。」
「仕方ないですよ。頭ん中グミ詰まってるんですから。」
おおいに同感だ。あと、春翔って呼び掛けたときのあの殺気はなんだ?
〔皆殺しにするっていうのはどうです?〕
…………なんだろう、女神様が可哀想に見えてきた。
ん?何か聞こえる気が…
「…あ………おから………は…とに…きけ…」
おからは戸に聞け?どうゆうこと?
「我……は………き………ちょうめ……んなり…」
我は几帳面なり?ますますワケわからん。てか、少しずつ声が近付いて来てるような…
「貴様が……か……なしくしろ…」
なんか悲しいことでもあったのかな。にしてもあんなに土煙たつ程急がなくても俺は逃げないぞ。
「いざ尋常に一騎討たん‼」
前言撤回。猛烈に逃げたくなってきた。
「逃げることはこの私が許さん。」
逃げようと思った矢先にこれだよ。釘刺されちまった。馬に乗った女か?がものすごいスピードでこっちに来る。よく振り落とされな……アレ?馬に…乗っていない?
「珍し~、ケンタウロスだ。」
〔しかも女性とは本当に珍しいですね。〕
「レア度はもっと高くなるだろうよ。」
「〔えっ?〕」
そりゃそうだ。金属の鎧兜に身を包み、右手にサーベル、左手にエストック、背中にゃフランベルジェとクレイモアの二本大剣、こんな武装した女騎士ケンタウロスなんかそうそうお目にかかれねぇよ。
「…頑張ってくださいね。」
〔アタシシゴトガアッタンダー。それじゃっ‼〕
逃がすか。
〔アレ?動けない!?えっ?どうして!?〕
毒を食らわば皿までじゃ。端的に言うと道連れ。
「一人だけ逃げるなんて許さないよ?」
「俺から逃げられると思ったか?」
〔この悪魔~‼〕
魔王ですがね。もっとも、魔王ですらないんですがね。
「貴様が魔王か‼我はラグラス近衛騎士団長メルアンである‼」
「血気盛んな女騎士か。」
「触手がいれば完璧なんだけどな~。」
春翔、お前そんなヤツだったんだな。
「!?貴様、か弱い乙女を拐い何をした‼」
か弱い乙女?…………思い出した‼道案内を頼んだあの妄想爆発お姉さんだ!いまどこに……
「か弱い乙女って誰だろうね?」
………春翔、お前が肩に担いでいる熟睡中のお姉さんだよ。
「許せん、今ここで死ねぇ‼」
今ここで死ねねぇ‼とりあえず時間稼ぎを…
「その程度なのか?」
「何?」
「なるほど、近衛騎士団長というものは武器も抜いていない相手に不意打ちを仕掛けて勝つ職業なのか。面白いなこれは傑作だ。」
「貴様っ‼近衛騎士団長の職を愚弄するな‼」
時間稼ぎ失敗。武器がサーベルとエストックからクレイモアとフランベルジェに変わっただけでした。死ぬ気しかしないな。
〔逃げたいんだけどこの魔法解いてもらえないかしら?目の前でスプラッタ映画のワンシーンみたいな凄惨な光景が見える気しかしないんだけど。〕
「僕もグロいのはちょっと遠慮したいしそろそろおいとましようかな?」
恐いのも逃げたいのもわかるぞ。でもついてきてもらおう。地獄の底までな‼
ストックなしで一からかいてるので間違いがあれば言って下さい。