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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
朱に染まる――。
94/124

23.

 討伐隊は西へと向かいながらも、迅速とは程遠い行軍だった。当然ながら全員分の馬はなし。それぞれが戦闘訓練を受けたことのある経験者であるものの、年齢と現役・退役の差は時間が経つにつれて広がりを見せている。それは貴族たちが供出した兵士と志願兵の間で特に大きくなっていった。しかし士気では逆転しており、ちぐはぐな混成部隊は結局ペースを上げられないままグズグズと進んでいる。出立して三日目の現在は昼過ぎに到着した町の軍警察施設で宿を取る始末……。

「こんなペースでは討伐どころではない…!」

 バレーナの苛立ちは目に見えて高まっている。しかし向かいに座って紅茶を飲むマクリールは、対照的に余裕の笑みすら浮かべている。ベルマンの同期であるマクリールは齢六十を過ぎ、曲がりなりにも一軍の将であるのに、剣を振るって戦う戦士の顔には見えない。今とて、自宅のテラスで午後のティータイムを楽しんでいるかのごとく、だ。

「焦っても仕方がありませぬ。まずは落ち着かれませ」

「悠長なことは言ってられん! 次にまたどこが……今、襲われているのかもしれんのだぞ!!」

「時間は我らの味方にございます。孤軍である賊は時間が過ぎるほどに消耗し、やがて物資は底をつき、退路を絶たれるのです。それに報告によれば、バラリウス隊が連日会敵しております。賊どものストレスもピークに達していることでしょう」

「だからこそだ! 窮鼠猫を噛むとも言う……早急に叩き潰し、一刻も早く民に安寧をもたらさねば」

「そのために、自ら赴いて戦うと?」

「当然だ。驚異に対し、矢面に立つのは主権者の責務であろう」

「………ふむ。確かに、それは尊いお考えですな。されど、今回のバレーナ様の行いが仰った目的に合致してるかは疑問ですな」

 カチャ…

「……どういう意味だ」

 控えているイザベラたちだけでなく、ラウンジにいる誰もが空気が凍ったのを感じた。最近のバレーナは、怒ると迫力が増す一方だ。それでも真正面で相対するマクリールは涼しい顔でまた一口、紅茶を飲む。

「バレーナ様が『民のために戦う』のであれば、疾風の如き速さで、最大戦力で決着をつけるべきです。しかし今回はいささか非合理すぎますな。足並みは揃わず連携がとれるのかあやふやなまま、一個の集団として意思疎通がとれているかも不安な有様。残念ながら精強な軍とは言えませぬ。違いますかな」

「………肯定はできん。それでは付いてきてくれた者たちに無駄だったと言っているようなものだ」

「その仰り様こそ、負けを認めているようなものですな。今回の件はリスクが大きすぎます。まずは御身が危険に晒されること…。そして引き連れている討伐隊の扱いの難しさ。軍人であれば、命を落としても名誉を与えることもできましょう。されど市井の兵が死ねば、殿下は何らかの責任を取らねばなりませぬ。貴族側から供出された兵についても同様……もし討伐隊が敗走しようものならば、貴族に対して損害を賠償しなければなりませぬ。戦うことそのものが殿下ご自身に不利益をもたらすばかり、民を助けられるかも賭け同然。無謀の二文字で評価されても止むなしかと」

「………」

 一言で表すと、酷評である。しかしここまで論破できるのも、マクリールの年の功あってのものだろう。

 だが、バレーナは引き下がらない―――。

「では軍を説得し、準備が整うまで待つべきだったというのか」

「政治的な話は得意ではありませんが……思うに、殿下のお名前で非常召集令を出し、自らも随行するという形の方がよろしかったでしょうな。後方の安全な場所にいらっしゃっても、軍を動かした実績は残ります。さすれば後々、それが有利に働くこともあるでしょう」

 そうだ、それが正解だ――――脇に控えていたロナもレビィも胸の内で同意する。盗賊団は待ち構えているわけではない。捜索するとなると手勢は分けねばならず、実際には敵の何倍もの数が必要になる。守りが薄くなったところを狙い撃ちにされれば勝ち目はない……敵は諸国を荒らして回る手練なのだから。

 バレーナは沈黙したが、納得はしていない様子だ。眉間に苦悩が滲み出る。

「殿下……おいくつになられましたかな」

「…来月で十九だ」

「二十歳になる頃には必ず玉座に付くことになりましょう。急いて功を立てるときではありますまい」

「駄目だ! 私は王になるための実績が欲しいのではない……王としての証が欲しいのだ! 誰からも疑われない、確かな王に……!!」

 バレーナの拳がぐっと握り締められる。どうしてここまで頑ななのか、その理由は誰にもわからない……。

 マクリールは空になったカップを皿に置いた。

「王道に近道なしと申します………されど、一つ王になるための必勝法をお教えしましょう」

 ピクンとバレーナの眉が跳ねる。食指が動いた証拠だ。視線を彷徨わせ、疑わしくも気になる―――バレーナにしては珍しい顔だ。

「そんなもの、あるわけがない…」

「まあまあ。殿下は、王になるための条件は何だとお思いですかな」

「……国に命を捧げる覚悟。理想を見つめ、現実と戦う判断力―――」

「どれも違いますな。正解は、『自分は王だ!』と大声で叫ぶことです」

「は――――?」

 バレーナは毒気を抜かれて唖然としたが、マクリールがあまりに平然としているため、果たしてからかわれたのかどうかもわからない。

「何を言うのかと思えば……それは子供の論理だろう」

「その見解では、まだまだお若いと言わざるを得ませんな。とすると、街中で演説を行ったのも殿下の案ではありませんか」

 バレーナは閉口する。立案したロナも気まずい…。

「殿下……不思議なもので、人は言い続けるとやがて『そうなる』ものなのです。そして声が大きい者ほど『それ』にふさわしくなる。たとえばあのベルマン=ゴルドロン。あの男は若い時分に『将軍になる』と言い出して早四十五年……現在ではご存知のとおり。あのナリで大声で喚き散らせば、誰も口答えできるはずがない。ガキ大将のやり口ですな。しかしながら今となってはあれが軍将一位の器だと、誰もが認めておるわけです。それはあ奴が将として認められたからではなく、あ奴そのものが将だからです。殿下も王に成りたければ、高らかに王と名乗りなさいませ。王として振る舞いなさいませ。さすれば、自ずと周囲は家臣になりましょう。理屈と血統だけでは王にはなれませぬ……王とは、論理を越えた先にいる絶対者なのですから」

 バレーナはマクリールを見たまま硬直し―――やがて、表情から険が落ちていった。

「なんだろうか……これまで読んだ書物の中にも似たようなことが書いてあったはずだが、今回ほど腑に落ちたこともない……」

「ベルマンのたとえは効きましたかな?」

「そうだな……客観的に見れば、ゴルドロン将軍は数千の兵を束ねる軍将。私はわずか四百の混成部隊……声の大きさの差は歴然。いや、大きさというよりも質の差かもしれんな。皆が私の器をどのように量っているか、形となったのが今……この実態は素直に受け止めねばならん。しかし―――私は引き返しはせんぞ」

 バレーナは立ち上がり、テラスに続く窓辺から外の町並みを見る。

「ここは私の国だ。襲われたのは私の民だ。手を出した者には報いを受けさせねばならん。刃向かう者は叩き潰さねばならん。私を慕ってくれる者が、少なからずいるのだからな。そのためには手段は選ばん………ゴルドロンも使って見せよう」

振り返って不敵に笑うバレーナからは、焦燥の色が消えていた。むしろ余裕すら見て取れるが、それは若者特有の根拠のない自信ではない。未来の己の姿がはっきりと形作られたゆえの、希望の眼差しだった。







 えー、ちょっと時間かかってしまいました。最近、平日はなかなか構えてパソコンに向かえないというか……言い訳しても仕方ないんですけどね…。

 前書きにもありますが(10月のアップ時点)、前回更新分に少し追加しました。「今回のの最初に持ってこればいいじゃん」とも考えたのですが、次の話をクリックするのはページをめくるのに似た感覚なので、場面はできるだけ一区切りつくところで分けた方がいいのかな?と考えてこうなりました。漫画のコマ割りというか、ネーム的な発想ですね。読んでくださってる方には1ページ戻っていただくことになるのですが……ホントにm(_ _)mです。

 明日明後日で書き進めて、次回分はなんとか日曜にはアップしたいなぁ…。あ、NEXT CROWNも上げないと…。

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