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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
朱に染まる――。
89/124

18.

 会議終了後、私室に引きこもったバレーナは日常業務も手につかず、机の上で組んだ手に額を乗せ、俯いたままだった。

 ミオは傍でその様子を見守っていたが、「一人にしてくれ」と言われて仕方なく退出し、少し離れた場所にあるブラックダガーが使う会議室に戻った。そこでは任務があって出払っている者以外のメンバーが集まっている。皆、神妙な面持ちだ。

「バレーナ様はどうされたのかしら…」

 ロナはメガネを外して目頭を押さえる。

「それは、軍の手ぬるい対応に失望されたのでしょう?」

 イザベラが述べるが、ロナは首を振った。

「そういうことじゃなくて………余裕がなくなっているわ。昨日今日の話じゃない……けど、数週間前からおかしい気がする」

 ―――さっきもそうだった。会議室を出てすぐ、バレーナはロナに「アケミを呼んでくれ」と耳打ちしてきたが、意味がわからなかった。アケミはバレーナ自身がイオンハブスに派遣したはずでは…? そう問い返すと、ひどく混乱し、「そうか……惨い仕打ちをしたツケだな…」と頭を抱え、フラフラと自室に戻ってしまったのだ。

「私も少し変だとは思う……なんだか心ここにあらずというか、でも時折ぼーっとされていて。何かお悩みがあるのかも……ミオは何か聞いていない?」

「………何も…」

 ハイラの問いにミオは肩を落とす。ミオはメンバーとしては新参でもバレーナとの付き合いはこのメンバーの仲では一番長い。そもそも、ミオを選んだのはバレーナなのだ。

「……アケミ隊長がいればなぁ」

 メアがぼそりと呟いて場が凍りついた。

「な、何を言ってんのメア、隊長はミオでしょっ…」

「全くねぇ、何を勘違いしてんだか…」

「そうだ、ミオのことをもう少し気遣え」

 最後のセリフを言ったミストリアに視線が集中する。その目は皆「お前が気遣え!」と言っているが、ミストリアは気付かない。

「…あのさぁ、前々から思ってたんだけど、それって気遣いって言う? ミストリアもイザベラもなんか戦い方変わって強くなったけど、こっそりアケミ『元』隊長に会いに行ってたんじゃない? そういうことされる方がプライドズタズタにされるやんね」

 イザベラもミストリアも、他のメンバーも反論できない。多くのメンバーが、ブラックダガー始動後も多かれ少なかれアケミにアドバイスを受けている。ミオには内緒で…。無論、ミオ自身もどことなく気づいてはいた。

「みんな、ごめん……私が力不足だから…」

「ミオ、あんたのそういうとこもすんごくよくない」

 メアがミオの額をべしんと指で弾く。当然のようにソウカが牙をむき出しにするが、メアも「がー!」と威嚇する。

「ミオはさぁ、隊長なんだからもっとはっきりしなよ。姉ちゃん強いし美人だし態度でかいし気も強いし後釜で隊長になっちゃったみたいになってるけど、ミオには関係ないじゃん。いい子になろうとしたって、絶対にあの人には勝てないよ」

「いい子って、別にそんな風には…」

「いいや、いい子してるね。もっとわがままになってさ、都合よく甘えればいいよ」

「―――そうよ。お姉ちゃんはいつでも側にいるんだから」

 ソウカが抜け目なく割り込んでくる。

「まあ確かに……開けっ広げすぎるのも困りますけれど、気遣ったつもりが結果として傷つけてしまったことは謝りますわ」

「オレ……私も、ごめん…」

 イザベラとミストリアに続き、何人かも頭を下げるが、

「―――謝る筋合いではないわ」

 意外にも反論したのはソウカだった。

「武人が自らを高めるためであれば、相手が偉人であれ賤民であれ、等しく頭を垂れて師事を仰ぐべきよ。それにあの人に教えを受けたからといってミオの価値が変わるわけではないわ。まあ、ミオがどう思っているかは別だけど……フッ、皆嫌われてしまえばいいのよ。ミオには私がいるもの」

 「皆」の顔が引きつる。珍しくまともな事を言っていたと思ったのに、最後のが本音か…!

「……ミオはアケミ隊長とは違う…」

 少し離れていたところで座っていたマユラが口を開いた。

「アケミ『隊長』っていうけど、別にミオを認めていないとか、そういうことじゃない……私はアケミ隊長が初めて隊長になったときからそう呼んでたから……愛称みたいな感じ。気になる…?」

「……いいえ」

 ミオはゆっくり深呼吸してから、言葉を繋ぐ。

「姉に対してわだかまりは、あります。自分の立場も、気にしてはいます。でも、みんなが姉を頼るのは理解できます。私は姉が嫌いだと言いましたが、皆が気にするほど嫌だとは思ってない……私が、一番姉の凄さを理解しているから…」

 自分の中でモヤモヤしていることを他人に対してハッキリ言葉にするのは勇気が要った。それでも自分が言わなければ収拾がつかないだろうことはわかったし、幾分スッキリもした…。

 マユラは立ち上がるとミオに近づき、頭を撫でた。

「…あの人の本当に強いところは、剣の腕じゃない。目的のためならあらゆる手段を用い、犠牲を厭わないところ……それと、腕利きを見抜き、繋がる人脈…。後者はブラックダガーで証明されてる。前者は……みんなもよく知ってる、事件のこと…」

 ―――すなわち、クリスチーナ=ガーネットとのことだ。アケミ、そしてマユラと同じ部隊だったミリム=ストールが殺害され、殺害犯のクリスチーナをアケミ自らが粛清した。その際にアケミとクリスチーナがただならぬ仲であると噂が流れたのだ。グロニアに住んでいる者なら皆一度は聞いたことがある…。

「単純に、覚悟なんて言葉では言い表せない……持って生まれた資質だと思う。アケミ隊長は目指すスタイルとそれが合ってた。だから強い…。でもミオにはミオの長所がある…」

「それは―――どん、な……」

 思わず聞き返してしまったミオの声はしぼんでいく。姉を超えることはできなくとも、姉にないものが欲しかった……その答えを聞けるのかもしれない。しかし、評価は本来求めるものではなく、与えられるものだ。自ら欲するのは愚か……それは武芸の成果を持って存在に意味が有る「シロモリ」であればなおさらだ。父、そして姉ですら守っている矜持である。なのに自分は………未熟であるとしか言い様がない。

 ところが、

「ほらぁ、また遠慮した! そゆとこよくない!」

「あー、確かに。今のはわかった」

「評価は甘んじて受けるものですわ、善し悪しに関わらず」

「褒められたら素直に受け取ればいいんだよ。馬だって褒められて伸びるんだよ?」

「喩えはともかく……それでいいと思うわ」

「大丈夫、お姉ちゃんはミオのいいところ全部わかってるわ」

 口々に、責めているのか叱っているのか褒めているのか………好き放題に捲し立てる。いや―――

「…ミオの長所は皆が憧れる隊長になれること。ミオが努力してるのは皆知ってるし、それを押し付けることもないし、周りもよく見てる……ミオがいると、皆背筋を伸ばす。アケミ隊長はチームにいると頼りになるけど、立っている場所が違うから、ついて行くのが難しい…」

「あ、わかる。マザロウに行かされて傭兵と戦うとかびっくりだし。シャーリーとドナリエは死にかけたもんね」

「あはは…」

 メアが愚痴っぽく言い、ドナリエは苦笑いだ。

「アケミ様は凄まじいけど、同じようになるのは無理だもんね…」

「それに趣向はともかく、私生活そのものは褒められたものではありませんわ。ある意味、アケミ様を見て襟を正したくなる気持ちもありましたけれど」

 ハイラも苦笑し、イザベラは肩を竦める。

 これは―――褒められているというよりも、応援されているのか。

 思い返してみれば、ミオは今まで甘やかされたことはあっても応援されたことはない。母からは大事に大事に貴族の子女として育てられた一方、剣はほぼ禁じられ、父も姉のことがあったからか後押しはしてくれなかった。褒められても素直に喜べないのは、そういう環境の中で反発があったからかもしれない。今思えば子供じみたわがままだが………そう意地になっていたことがそもそも幼かったのかもしれない。

「やはり私はまだ姉と比べられるレベルじゃないと思います……別に姉を尊敬しているわけじゃないですけど。ただ、こうやって認められたのは嬉しいです…。あの……一つ、わがままを言っていいですか?」

「…何?」

「頭を撫でられるのは、ちょっと…」

「あっ……ごめん…」

 マユラがビクっと気まずそうに手を離すのがおかしくて、つい笑ってしまった。

 隊長という不意に与えられた場所は、バレーナの側に仕えるということでなければ遠慮するところだった。物怖じしていたのを隠すため頑なに努めていたが、この場所は合っていたのかもしれない……初めてミオはそう思った。

 ――そうして談笑が続くかと思われた最中、料理番たちとともにバレーナの食事の用意をしていたシャーリーが戻ってきた。

「みんな………バレーナ様が、お呼びだって…」







 資料や本の散乱した私室で、バレーナはなお俯いたままで、机に突っ伏していた。その前にブラックダガー全員が――――文字通り一人も欠けなく、全員が整列している。

「……バレーナ様、参上しました」

 先頭のミオが声をかけると、バレーナが目線を上げる。どれほどの時間そうしていたのか、組んだ手に当て続けた額は赤くなっていた。

「……皆も知っているだろうが、今、エレステルではブロッケン盗賊団という賊が暴れて回っている。盗賊団と名乗っているが、村の一つは焼き払われ………残虐非道な振る舞いだ。これに対し、軍は討伐軍の編成ではなく地方に派遣されている軍警察の増補で対応する。しかしこれも薄々気付いているだろうが、軍警察は数百という準軍属の集団と戦えるほどの力はない。かつてマザロウに派遣された者もいるから、その実力はわかるだろう。しかし、会議では私の力が及ばず、後手に回る形の対応策しか決定されなかった。地方出身で身内の心配をする者もいるだろう、本当に済まない……」

 バレーナは深くため息を吐き………苦渋を口に含むように眉間に皺を寄せる。

「………バレーナ様?」

「……この事態に対し、私は一つの考えを提案……いや、やることに決めた。私自らが先頭に立ち―――――有志による討伐隊を結成する…!!」

 全員がバレーナの言葉を頭の中で反芻し……動揺した。

「そ、それはバレーナ様自らがブロッケン盗賊団と戦うということですか!?」

 ロナはメガネの奥の瞳を白黒させている。

「そうだ」

「いけません!! 万が一のことがあればっ……いえ、そもそも勝てる見込みがあるのですか!? 一度立ってしまえば、集まった人数がわずかでも出ないわけにはいかなくなります!! そんなことになれば……!!」

「治める国のために自らが矢面に立つのは当然だ!! それに―――これは試されているのだ。私がこの国の王としてふさわしいか否か。国の一大事、私の声に応えるものがいなければ、私はそこまでの者ということ。王の器ではない…! だがっ……ここで器量を示せれば、誰もが私を王と認めざるを得ないだろう。私は………女王にならなければならない!!」

 ロナの説得も通じず、バレーナの決意は鋼のように硬い。だが、その瞳からは苦悩の色が消えない―――。

「…これは全くの独断だ。ロナの言う通り、勝利のアテのある戦いではない。王の器量を示すというのも……個人的な欲望だ…。しかし、私はそれでもやらぬわけにはいかない。そして私の決意を示すために、全てを掛けなければならない―――すなわち、私の腹心であるお前たちだ。身内可愛さにブラックダガーを置いて臨んだとあれば、民衆の支持は決して得られないだろう。しかしロナも言ったとおり、見込みがあるわけではない。そして最前線に立つ事になる。命の保証はない―――だから………ついていけないと思う者は、ここで辞めてくれ……!!」

 バレーナは奥歯を噛み、震えるほど拳を握り締める……。ずっと一人で悩んでいた理由は、これだ。自分のせいで巻き込ませるわけにはいかず、ならば自ら切り捨てなければならない。天涯孤独のバレーナにとっては、ブラックダガーは家族同然の存在だと自身で認めている。この決断がいかなる苦痛かは、誰もが知るところだった。

「……バレーナ様、私も他にやりようはあると思います。バレーナ様のお命は、バレーナ様ご自身が何と仰ろうと、この国で一番重いです」

 ミオがバレーナに反論したのは初めてかもしれない。しかし、不思議と心に葛藤は生まれない。

「ですが………バレーナ様がお決めになったのなら、私は従います。私は……私たちは、バレーナ様が生涯を共にして欲しいと話された時から、一生バレーナ様のお役に立ちたいと胸に誓いました。バレーナ様が命果てるなら、そのときは私たちも同じです」

 ぴしりとミオが決意を示す――――が、

「私はこんなところで死ぬのはやだ」

「私も、ミオのためならともかく、みんなで共倒れなんてごめんだわ」

 メアとソウカが空気を読まずに台無しにする。だが、

「…私も同じ意見です」

 なんと、ミオが便乗したのだ…!

「バレーナ様を死なせはしません。誰も死なせはしません。たかが盗賊団相手に、我々は足元を掬われたりしません。私たちはバレーナ様のために戦い―――私たちが、バレーナ様を女王にします!」

 バレーナは顔を上げ―――一筋の涙が頬を伝う…。

「いやっ…いや待て、白状すれば、これは私の、私個人の感情的な部分で早く女王になりたいだけで、お前たちに命を賭けさせるなど―――」

「バレーナ様はとうに玉座についておられて然るべきです。それをわがままと仰るのなら……私も申し上げます」

 ミオはくるりとバレーナに背を向け―――手を上げる。

「みんな! 私はバレーナ様をお助けしたい! この命に代えても!! みんなにもついてきてほしい! 私に、命を預けてほしい!! 賛同してくれるなら、この手を取って―――…わっ!?」

 言い終わる前にミオは囲まれてもみくちゃにされた。

「仕方ないなぁ、わがまま言っていいって話はさっきしたばっかりだし」

「ほしいほしいはバレーナ様の常套句じゃなかった? まったく、手が掛かるわよね」

「というかあなたたち二人、いくらなんでも無礼ですわよ。少しは身の程をわきまえなさい!」

 少女たちがキャンキャンと騒ぎ立てる中、ロナとマユラがバレーナの前に立つ。

「私は反対です……全員が賛成しても。ですがこうなった以上、あらゆる手を尽くします」

「…盗賊団の目的がはっきりしない以上、エレステル中を逃げ回られたら捕まえられない……苦肉の策だけど、バレーナ様が囮になるのは、作戦としては合理的……」

「すまない……本当に、すまない……」

 バレーナの涙がぽたぽたと流れ落ち、机の擦り傷に染みていった…。











 今回ちょっと長めで更新です。うーん、時間がかかってしまいました…。時間がかかればかかるほど前の展開どうだったっけ?と確認しなければならないですね。今回はミリムとクリスチーナの苗字なんだったっけ?で時間食いました(笑)。そもそもそいつら誰?という方は第一章をご覧下さい。



 …まったくどうでもいい話ですが、PSストアで安売りしていてデータも残っていたので久々にデュオディシムFFをやったんですが………自分が作ったクエストがクリアできねぇ…。もう何年も前で操作も忘れてしまっていましたが、こんなにムズいゲームだったっけ?とお手上げ状態に。仕方なく敗北してそのまま進めると、攻略のヒントが…! 昔の自分、すげぇな! ……っていうだけの話です(笑)

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