表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
朱に染まる――。
76/124

05.

 ライラが胡蝶館に戻って二日後……。

「ライラ姐さん、聞かせてくださいよぉ」

「どんなエロいことしたのかとか」

「どんな変態プレイしたのかとかー」

「――うるっさい!!」

 ライラが一喝するが、フラウ、キスカ、ヤーネルのいつもの三人娘はまとわりついて離れない。三人だけでなく他の後輩たちや娼婦たちも興味津々で聞き耳を立てている。

「すっごいホテルに泊まったんですよね!?」

「出発前はあれだけソワソワしてたし」

「どんな変態プレイしたのー?」

「だからうるさい、どうでもいいでしょ、そんなこと! つーかヤーネル、アンタ殴るわよ!? それよりも、アレなんなの?」

 窓の外を指差すが、

「誤魔化さないで下さいよぉ」

「子供でもそんな手に引っかからないし」

「必死に隠すなんて、どんな言えないことしたのー?」

 ライラの手はヤーネルの頭を容赦なく叩く―――。

「誤魔化すとかじゃなくて! 店の裏手に何が建つの? 私が出かける前はあんな工事してなかったでしょ」

「またまたぁ」

「またまたー」

「エロエロー」

 ――今度は三人にゲンコツを落とす。

「えぇ!? なんで殴るんですか!?」

「人が真面目に聞いてんのにふざけるからでしょうが! いい加減にしないと本気で怒るわよ!!」

 再びライラが拳を握ると三人娘は後ずさりながら顔を見合わせる。

「え……だって、アレのための視察―――っていう名目でアケミさんと旅行に行ったんじゃないんですか!?」

「はあ!? だからアレが何か聞いてんのよ!」

 そろそろ角が生えそうな形相で三人娘に迫るライラ……そこに気だるい声が割り込んできた。

「はいはい、後輩にキレないのそこのヒステリー女」

「………カーチェ」

 このタイミングでカーチェの挑発を受けたライラはプッツンするのを超えてマグマのように腹の底から苛立ちが煮えたぎる……それを知っているから三人娘は静かに、素早く二人から離れていく。

 しかしカーチェは相変わらずで、いつもどおり長い髪をバサバサとかき上げながらライラに近づいていく…。

「裏手の林を切り開いて別館が建つのよ」

「別館? そんな話聞いてない」

「言わなかったもの。別館は高級志向でね、客は一度にひと組のみ。豪華な食事、もてなし、場合によっては特殊な趣向も提供する……金持ち用のVIPルームってところね」

「! だからあのホテルに行ってこいって…」

「そうよう? カサノバはその筋では有名で、わざわざエレステルから行く人もいるらしいし。その客を取り込むための別館よ。でもそのことを事前に話したらアンタ行こうとしないでしょう? だからグレイズから別館の件は黙っておくように言われてたのよ。あのコと一緒ならノリノリで出向くだろうし……それはもう思う存分睦み合ったのよねぇ? 一日延長するくらいだし」

「べ、別にそんなこと―――…!」

「グレイズから伝言よ。『シロモリとどういう流れで、具体的にどうして、その結果どうだったのか、一から全部詳細に報告しな。まさか断るなんて言わないだろうね? 店の金で行っておいて』」

 最後の一言はライラを閉口させるのに十分な威力を持っていた。そして逆に三人娘や他の後輩には勇気を与える…。

「そうですよねぇ……私たちが汗水流して働いている間に愉しんだんですものねぇ…」

「私たちが血が滲む思いで稼いだお金で好きな人と豪遊とか羨ましすぎる…」

「そんなことも忘れるほどどんな濃いプレイをしたのか、私たちには知る権利があぁる!」

 逆襲する三人娘にたじろぐライラは、じりじりと壁際に追い込まれていく……。

「く、ぐっ―――グレイズうぅ……!!!」

 女将はいない。外出中だ……。





「え!? 今何て言った!?」

 バーグ商会系列のレストランの個室でアケミは聞き返していた。テーブルを挟んで反対側にはロナとマユラが座っている。

「ですから妹のミオさんが隊長に……ご存知ないのですか?」

 ロナの眉間の皺は深い…。

「ああ、一昨日深夜帰ってきて、翌早朝に親父は遠出してしまったからな……話を聞いていない。というか、まだどっかで山篭りしてる最中だと思ってた。あー、やっぱりシャロンさん帰ってきてくんないかなぁ。ミオも家にいなくなったら誰もいない時間が増えて無用心だしなぁ…」

「…この二週間、どこにいらっしゃったのですか?」

「え? 言わなきゃダメ…?」

「…………」

 眼鏡の奥のロナの目が一段と険しくなる…。

 隊長辞退はやむを得ないとしても、何も連絡を寄越さずに行方不明になっていたのだ。そして突然妹のミオが隊長になったといえば……その後の「ブラックダガー」の混乱ぶりが目に見えるようだ。おそらく周りを説得する役回りをさせられたロナはストレスが溜まっていることだろう……。

「…悪かった、あたしだけ逃げるようなことしてしまって。だけどあたしがいたら新しい隊長がやりにくいだろうから、しばらく身を隠していたほうがいいと思ったんだ。ちょうどいいタイミングで胡蝶館から依頼されたこともあったし…」

「ですがグロニア中お捜ししましたが、いらしゃいませんでしたが」

「う…」

 怖いなロナ……まさかそんな規模で捜索されていたとは…。

「あー……イオンハブスに行ってたんだ…」

「イオンハブス…?」

「ちょっとしたお使いで…」

 マズい、これ以上は誤魔化すのが苦しい――…

「…デート…?」

 ガタッ、とグラスに手が当たってしまった。あ、もう無理だ……マユラ、どうして一足飛びに核心を突いてしまうんだ…。

「…そうなんですか?」

 これほど怖い顔のロナは初めて見る…。

「偶々、本当にたまたまそういうことになったんだって! さっきも行ったけど、タイミングがよかったからであって………本当にごめん…!」

 テーブルに額を擦りつけた。ややあって溜息を吐く音が聞こえ、

「顔をお上げください」

 ロナは心底脱力した様子で怒った肩を落としていた。

「もしかしたら、とは思っていました。アケミ様は隊長になるつもりはないのかもしれないと」

「なくはなかったさ。自慢の部隊だと今も思っている」

「ですが、薄々今の事態になることを感じていらっしゃったのではありませんか? 以前も曖昧なお返事をされていたときがありましたから」

「そうだな……。そもそもシロモリは要職には就けないからな、部隊の存在が表面化すれば反発を受けるだろうことは予想していた。シロモリの特権があったからこそメンバーを選ぶこともできたが、最後にはそれが枷となってしまったな。だが、別に何が終わったわけでもない。あたしがやることは今もバレーナの助けになることだ、それは変わらない。落ち込まなかったかといえば嘘になるが、まあ気分転換もできたし」

「…デート…?」

「しつこいなマユラ……そうだよ! ライラさんと二人っきりでたっぷりイチャイチャしてきたよ! 羨ましいか!」

「……ちょっと…。私、お付き合いしたことない…」

 大きな身体がしょぼくれて、ロナと二人顔を見合わせる。

「……今さらだが、女だけの部隊ならではの事態も考えておかないといけないな。男ができたり子供ができたらどうするか」

「そうですね…基本的に交際禁止でよろしいのでは?」

「自分でメンバー集めておいてなんだが…軍人ならともかく、あの個性派集団が全員納得するとは思えんな。それにバレーナが許さんだろう。自分のために個人が幸せを享受できないのは許せんだろうからな」

「バレーナ様もミオ様も清い気質をお持ちで、それはそれでいいのですが……少し不安にも感じます」

「フ……まあな。しかし、人の上に立つならそれでいい。足りないところは周りで補ってやってくれ。それができるのが『ブラックダガー』だ。ま、そういう点ではあたしは動きやすくなったから、結果的にはいいのかもしれん……それにしても、どうしてミオなんだ? 剣の腕はそれなりかもしれんが、みんなを纏めるには物足りないだろう。歳も………最年少だし。性格はくそ真面目で融通が効かないからミストあたりとぶつかったんじゃないか?」

「いえ、イザベラと…」

「あー………それは難儀だったな…。今もギスギスしてる?」

「翌日に模擬戦をやって、それで収まったようで…」

 ロナが目線を送ってマユラが引き継ぐ。

「…イザベラとミオで一騎打ちをやって、負けたイザベラはミオを隊長と認めた。イザベラはかなり本気だったけど、ミオは圧倒的だった…」

「ほぉう?」

「…私も一度手合わせしたけど、まだ見せていない実力があると思う。私と連携も取れそうだから、貴重な戦力……人柄も能力も、シロモリの名に遜色ない…」

「オイオイ、遠回しに私を避難してないか?」

「そんなことない……なんていうか、質の違いだと思う…」

「……そうか」

 マユラの言わんとしていることはよくわかる。シロモリとして正統派なのはミオの剣だ。自分の剣は「敵を殺す剣」から、「人を壊す剣」に変わりつつある………刑を執行するたびに最近そんな気がする。しかし、だからこそマユラの評価はなぜか嬉しかった。

「まあそうか、そういうことならいい……。あたしとしてはマユラか、親衛隊のレビィが隊長になるかと見ていたんだがな」

「レビィ…?」

「ああ。マユラと同じで軍からスカウトされた人材で、歳もちょうど同じくらいだろう。生真面目な性格が良くも悪くもあるが、統率力はある。親衛隊との繋がりも強くなるしな」

「な、なるほど…」

 ロナとマユラが感心するが、

「せめて、そういうことを伝えてから出掛けていただきたかったです…」

 二人共口をへの字に曲げる。

「いや……ホントにごめん…」

 視線を落とし、グラスの水を口に含んだ…。







 アップです。

 なんか昨日から風が気持ちいいんですけど、台風の前兆と考えると怖いですね…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ