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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
朱に染まる――。
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04.

 類稀なる戦闘技術で合格となったミオとソウカだが、喜んで迎え入れられたわけではない。特にソウカはバレーナがOKを出したから渋々入隊を認められたに過ぎない……だというのに、だ。

「どこに行きましたの、あの人は!? 十九時からミーティングだと言ったでしょう! バレーナ様もいらっしゃるのに……何を考えていますの!!」

 姿を消したソウカを探すイザベラはイライラがMAXに達しようとしていた。

「あの人なら『お姉ちゃん』に会ってくるって飛び出してったよ?」

 メアが喋りながら椅子をガタンガタン揺らすが、イザベラから鋭い眼光を向けられて静止する。

「アケミた……アケミ様は戻ってきてらっしゃるのですか?」

 ロナに尋ねられてもミオは首を傾げるしかなかった。

「すみません、どこに行っていつ戻ってくるのか、私は何も……」

「だったらどこに行ったんだろうねー? それとも虫の知らせとか?」

 アレインはシャーリーを手伝って料理を運んでいる。

「ソウカさんには野性的な勘があるのかもしれませんね。第六感が働くとか」

 同じく皿を並べているハイラも本気なのか冗談なのかわからないことを至極真面目な顔で言う。

「まあいいだろう……行方のしれないアケミを本当に捕まえられたのなら大したものだ。それも評価に加えよう」

 テーブルの一番上座の席に座るバレーナが場を取りまとめようとするが、

「ですが、バレーナ様の元に参じなかったのは大きなマイナス点ですわ。王女殿下に対する不敬、即刻クビにするべき失態です」

 イザベラの怒りは収まる気配を見せない…。

「まあまあ、そう熱くなるな。今日は私もチームに馴染ませて欲しいからこうして場を設けたんだ。よし、皆席に着いたな……一つ、今日は無礼講で行こう。ブラックダガーは私のための部隊でありながら、皆と満足に話すこともできなかったからな。これを機に親睦を深めたい」

「バレーナ様、無礼講などとそのような……臣下の礼というものがございます。そのように振舞われては勘違いする者も出てきかねません。現に一人はこの場にすらおりませんし…」

「…イザベラ、グラスを出せ」

「は?」

 バレーナは席を立ち、

「グラスだ」

 着席したままのイザベラの真横に立つ。君主の圧力に耐えかね、イザベラは言われるがままに目の前の空のグラスを手に取る。するとバレーナは手近な瓶を取り、ワインをグラスに注いでいく―――。

「なっ…何をなさいます! 王女様に酌など…っ!!」

「飲め」

「は!?」

「イッキだ」

 美しい唇から紡がれる言葉は淡々としていて、少し冷たくも感じる。イザベラは意を決して、グラスになみなみと注がれたワインをぐっと傾けた。

「んっ、んッ……はぁ…」

「――イザベラ、乾杯がまだなのに一人フライングか?」

「へっ!? で、ですが、バレーナ様が…!」

「…フ、ハハハハ! 冗談だ、冗談。少しからかいたくなっただけだ、そう眉間に皺を寄せるな……イザベラ、ここに集まった皆は出自も身分もバラバラだが、同じ食卓を囲んでいる。なぜだ?」

「それは、同じ部隊ですから…」

「そうだ。そしてこの国で、同じ時代を生きる仲間だ」

 イザベラのグラスに再びワインを継ぎ、さらにその隣のハイラのグラスにも……テーブルを回って、皆のグラスにワインを注いでいく。

「ブラックダガーは私のために親友が作ってくれた部隊で、皆を集めてくれたのも親友だ。胸の内を明かすと……見透かされていると思った。父を失い、家族がいない私は、この城の中で孤独だ…。もちろん私に良くしてくれている者、大切に思ってくれている者はたくさんいる。文字通り、命をかけて忠を尽くしてくれている者もいる。だが、それは皆臣下であって、家族ではない。どれほど気を許しても、彼らとは常に王女として接しなければならないのだ。王族に生まれた私は死ぬまで皆を導く宿命にあるが、それだけでは人の心を失ってしまうだろう。いや……そうではないな、本当は私はずっと王女のドレスを着続けるのが辛いのだ。一人で国の重責を背負うのが辛い…。情けないが、今の私にはそういう甘えがある。苦しいときに理解してくれる仲間が欲しい。困ったときに教えてくれる師が欲しい。間違ったとき、叱ってくれる友が欲しい。喜びを分かち合ってくれる家族が欲しい……。ここに集まってくれた皆には、私と同じ時代を生き、共に人生を歩んで欲しい。お互いを生涯の宝だと思えるような、そんな関係になって欲しい。できることなら同じ目標を目指して欲しい。……なんだか欲しい欲しいばかりで恥ずかしいが、こうして出会えた皆とは、単なる臣君の間柄ではなく、もっと深いところで繋がりたいと思っている。それが今、この場における私の希望だ。王になる人間にしては頼りない限りだが……付いてきてくれるのなら、乾杯しよう」

 最後にワインを注いだ自分のグラスをバレーナが掲げる。イザベラが、ロナが、ハイラが、マユラが……全員がグラスを持って立ち上がった―――――――一人を除いて。

「あの、バレーナ様……私だけ、グラスが空なのですが…」

 震える声のミオがバレーナを見上げる。この大事な場面で一人だけワインを注がれなかった意味を察して、ミオの顔面は真っ青になっている……。

「あ、いや……まだ酒は早いかと思ってな……他意はない」

 バレーナは焦って釈明するが、

「……プ、」

 皆が大笑いする。ある意味酷い屈辱を受けて、ミオの顔は正反対に赤くなっていく。

「私も口を付けるくらいはできます!」

「すまんすまん、仲間外れはよくなかったな……アケミも強いからな、ミオも大丈夫だろう」

「あんな酒乱と一緒にしないでください…!」

 かくして、乾杯。皆が盛り上がる中、ミオは意地でワインを喉に流し込む。

 ふと―――姉とバレーナ様がいつ酒を酌み交わしたのか気になったが――――酒が胃から身体に染み込む頃には忘れてしまっていた。






「ううう~ぅ…」

「しっかりしなさいよ、ほら…!」

 顔色が青を超えて土色になりかけているアケミを支えるライラ。アケミは足元がおぼつかず、二人はフラフラと道を蛇行する。

「まったく……バカなの!? 本当にバカじゃないの!? どうしてこんなになるまで飲むのよ!」

「だからぁ、何度も謝ってるじゃん…」

「せめて帰りの馬車代くらい残しとくものでしょうが!」

「だってぇ……相手してくれないライラさんが悪いんじゃん…。最後の夜だから、熱く抱き合いたいじゃん…!」

「ちょっ…!」

「なのにさぁ、そりゃヤケ酒したりするよ…!」

「やめてよ、こんな通りの真ん中で…!」

「ねぇ、なんでヤらせてくれなかったのぉ…?」

「ばっ……だって、アンタ際限ないじゃない…! それで一日予定をオーバーしてんのよ…!」

「そんなこと言っても、ライラさんが気持ちいいんだもん……ライラさんだってすんごい声出してたじゃん!!」

「うるさい!! もう黙れ!!」

「だってせっかくの二人っきりだったのにぃ………うぷ…!」

 倒れこむように排水口に駆け寄り、吐く……その背中をライラがさする。グロニアに入るまでこれを何度繰り返したことか…。

「アンタ……もしまたこんなことになったら、別れるわよ」

「あ~、ようやく付き合ってるって認める気になったぁ…?」

 口元を満足に拭えぬままヘラヘラと笑うが―――すぐに口を噤んだ。

 あ、ダメだ……これ、本気で蔑んだ目だ……。

「…すんません、調子に乗ってました…」

「……本当に反省してるか怪しいわ。信用できない」

 それでもライラは肩を貸してくれる……アケミの頬が自然と緩む。

「ねぇ、ライラさん……あたしたち、恋人だよねぇ?」

「………」

「ねえぇ…!」

「わかった、わかったから! もうおとなしくしてて!」

「にへへ……キスしよ」

「はぁ!?」

「きぃすぅ」

「なっ…やめろ! そんなゲロ塗れの口近づけるな―――!!」

 往来の真ん中で揉み合って倒れる二人に衆目が集まり始めた、そのとき、

「……長刀、斬鬼…?」

 二人の上から女の声が降ってきた。

 見上げると、黒いストレートの髪にしなやかなシルエットの若い女が、どういうわけか愕然とした顔で立ち尽くしている。

「知り合い…?」

「ううん…」

 アケミは首を振る。どこか見覚えがあるようなないような……酔っているせいか、どこか落ち着かないというか、薄気味悪いというか、なぜか女を見ていてそんな感触を覚える。

 その女は―――

「…こ、こんなの……私のお姉ちゃんじゃない…!!」

 理解できない捨て台詞を残して去っていった…。

 しばらく呆然とした二人は、顔を見合わせる。

「妹さん…?」

「いや、アイツはぬいぐるみみたいにちっさいし、お姉ちゃんとか言わないし、そもそも何も言わずに殴りかかってくるし…」

「どんな妹よ…。じゃあ人違い? それにしてはアンタによく似てたけど…」

「…そうか、あたしに似てるから、見覚えが………あれ? それってまさか、そんな……親父殿に限ってそんな……って、何考えてんだあたし…」

「何ブツブツ言ってんのアンタ…」

「いや……いやいやいや! ない、そんなことあるわけない! ああ、ライラさん…酷い悪夢を見た気分だ。もう酒には呑まれないようにする……」

「そうしなさい」

 こうしてアケミは最悪の気分で帰国した。ブラックダガーで何が起こったのかも知らぬまま……。










 晩ご飯も食べぬまま、更新です。明日も仕事なのになにやってんだヒャッホウー!!(空腹で少々おかしくなっています)

 常にこのペースで書けるわけではありませんが、いける時にはやっときましょう…。


 ちなみに、初めは02.からここまでをひとまとめにするつもりでした。いやぁ……無理でしたね!

 そういえば03.のあとがきに書きませんでしたが、マユラとソウカの弓のやり取りがあって、後の「女王への階」の場面に繋がります。「お見事…」に重みが出てきます(笑)

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