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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
朱に染まる――。
73/124

02.

 翌日、帰還して準待機状態……実質的に休息状態の第三大隊の養成所でミオとソウカを含むブラックダガーが、そして――――

「ふむ……絶好の演習日和だな」

 堂々と混じっているのは王女・バレーナ=エレステル…! 昨日報告したロナも預かり知らぬことだった。

「ばっ…バレーナ様、どうしてこのような場所に…!?」

「このような、ということはないだろう、国の防衛を担う戦士たちが集う場所だぞ? こういう機会でもないとじっくり覗き見もできんからな」

「だとしても、護衛もなしで…!」

「護衛ならお前たちがいるではないか」

 ロナは言葉を失った。護衛がブラックダガーの任務の内であることは間違いないが、そういう問題では……。

「今回、私の独断でお前たちを混乱させてしまった。その責任を取るためにも立ち合わせてもらう。私もお前の実力を見せてもらうぞ、ミオ……と、ソウカだったか? しかし確かにアケミに似ているな…」

「分家とはいえ私もシロモリの血を引いているのですから、高名なアケミお姉さまと近しい存在であるのは当然です」

 ソウカはバレーナの前でも変わらず態度が大きい。周りは内心ハラハラだ。

 そしてバレーナはバレーナで構わず……というか、格好はブラックダガーと揃いの訓練用の装束だ。見た目は完全に溶け込んでいる……それでもオーラは隠せないが。第三大隊は帰還して約一ヶ月、まだ訓練に勤しむものは少ない。基本的に若い成り立ての兵士が次回の隊編成試験に向けてトレーニングをしているくらいだが、そのレベルの兵士はバレーナの顔を知らない。

「それでは早速始めよう。まずはミオの実力を認めなければならんのだろう、イザベラ?」

「はっ…」

 イザベラが頭を垂れる。さすがにイザベラはバレーナの前でふざけることはないが、明らかにまだ機嫌が悪い。

「昨夜の話ではイザベラとミストリアが納得できなかったということだな」

 バレーナがふると、マユラが頷く。

「まずはそれぞれ一対一で試合して……皆で評価すればいと思う…。二人も、それでいい?」

 イザベラとミストリアは「構いません」「いいぜ」と返答する。ミオとソウカはすでに了承済みだ。

 対戦形式は一本勝負。獲物は木剣。相手が降参するか、審判役のマユラの判断で勝敗をつける。イザベラは通常より少し細い木剣を、ミストリアは長槍型の専用木剣を手にするが、ミオとソウカはそれぞれ短剣の長さの木剣一本のみであった。

 まず最初はミストリア対ソウカ。ミストリアは身の丈を超える得物で豪快に素振りすると腰だめに構える。対し、ソウカは短い木の棒で掌をポンポンとため息混じりに叩く。

「…始め」

 マユラの合図に「始まった?」と首を傾げたのはソウカだけではない。

 一方でミストリアは失笑入り混じる周りの雰囲気に流されず、目の前のソウカから目を離さない。いつにも増して集中していた。

「…いいぜ、そっちに先手を譲ってやる。かかってこいよ」

「は?」

 ソウカが顔を顰める。

「そんな短い得物じゃ不利だろ。先手は譲ってやるって言ってんだ」

「ふぅん……」

 だがソウカはその場を動こうとしないどころか、まだ構えようともしない。

「…おいお前、ふざけてんのか!? やる気あんのか!?」

「やる気は。でも考えてみたら私、ナイフで人と戦ったことなんてなかったわ」

「はあ!!? じゃあなんでそれを選んだんだよ!!」

「私が普段使っているのは弓。だけど弓を使ったらこの距離から始めても勝負にならないし、納得しないんじゃないかと思って。それじゃナイフしかないかな、と」

「ナメてんのか! それでどうやって戦うつもりなんだよ!」

「急所に当てれば勝ちでいいんでしょう? 別に難しいことじゃないんじゃない?」

「……テメェ、大怪我しても文句言うなよ」

 ミストリアは槍を構えたままジリジリと半歩ずつ迫り………自分から仕掛けた!! 横薙ぎの初手はソウカに一歩下がって避けられる。しかし返す刀の二撃目から細かい振りに突きを織り交ぜたコンビネーションという、これまでのミストリアでは見られない動きだ。全力で殴りかかるわけにはいかない抑制の意識と、長物の武器特有の攻撃前後の隙を小さくすることで相手を飛び込ませまいとする戦術的意図が重なっているようだ。なんだかんだでミストリアも成長しているのである。ソウカはミストリアの槍の旋回半径の外から近づけないでいる―――……。

 いや……ソウカは落ち着いている。武器のリーチの差から手も足も出ないが、焦り一つ見えない。

(何だ、コイツの目……それに瞬き一つしねぇ…!)

 ずっと見ている―――長槍の穂先、あるいはこちらの目を。敵から目を離さないのは当然なのだが、その集中力がすごいのか、全く視線がブレない。そしてこの鋭い眼光……攻めているのはこちらなのにこのプレッシャー……落ち着かない。じっくりと観察されているのか―――攻撃を繰り出すほどに自分の手の内を知られ、丸裸にされていくようだ…!

「こぉん…のおぉ――!!!」

 踏み込みを速く大きくし、六分の力で加減して振っていた長槍を、八分以上の力を込めて振り切る。これならバックステップで避けようとしても半歩間に合わずガードするしかない。そう思ったのだが―――

「くっ…!?」

 ミストリアが感じたのは手応えではなく痛みだ。横一文字に薙いだ一撃をソウカは身を沈めて避け、ミストリアの右手に短い木剣を当てたのだ………いや、ソウカが立てた木剣に自分の手を当ててしまったというのが正しい。さらに次も、その次もミストリアの攻撃を利用した反撃を繰り返す。ソウカはまともに木剣を振っていないのに、ミストリアの手には生傷と痣が増えていく。

「ち……くそ…!」

 ついにミストリアは動きを止めてしまった。それでもソウカは離れたところに立ったまま攻めてこない。そしてその目は変わらず……。

 …そうか、わかった。この目は鷹とか鷲とか、そういう類だ。獲物の一挙一動を見逃さない瞳……狩人の眼差しだ。

 イメージが合致した瞬間、ミストリアの背を脂汗が伝う…。コイツはふざけているのでもやる気がないのでもなく、こっちが弱るのを待っているのだ。確実に止めを刺すために―――。

「……うおおああぁ!!」

 雄叫びとともに突進し、上段から豪快に振り下ろすミストリア。焦って悪い癖が出た、とイザベラは眉根を寄せたのだが、

「く―――のおぉ!!!」

 続けざまの斬り上げのとき、予想外のことが起きた。ミストリアの槍が伸びたのである。攻撃の瞬間に手の中で槍を滑らせたのだ。槍を見切ったつもりの敵の意表を突く奇手だ。

 が―――

「おぉ…!?」

 ソウカは驚いたものの、当たらなかった。ミストリアの攻撃は後ろに下がった相手に有効であって、攻撃の軸線をずらして避けられれば関係ない…。

 再びソウカの木剣が腕を打ち、ついにミストリアは槍を落としてしまった。

「……私の勝ちで?」

 素手ででも構えようとするミストリア……ではなく、審判であるマユラにソウカは確認する。マユラはミストリアを一瞥して「…うん…」と頷くが、当然ミストリアは納得できない。

「なんでだよ! オレはまだまだやれるぞ!!」

「…でも、真剣だったら腕斬られまくってるし…」

「いやっ…だとしても…!」

「訓練だからセーフ…は、甘い考え…」

 それ以上反論するまでもなく、ミストリアの負けだった。内容はともかく、損害比では一方的な勝負だった。

「最後のは少しびっくりしたけれど……熊相手ほどじゃなかったわ」

 ソウカが鼻を鳴らすが、熊のような凶暴性のミストリアを軽くあしらったことからして、あながちホラとも言えない。

 と、マユラがバレーナに耳打ちしている。

「…ほう。それは興味深いな。任せる」

 バレーナは意味深な笑みを浮かべた。

「…じゃあバレーナ様のお許しが出たから、ソウカはもう一戦……メアと戦って」

「えー…」

 渋い顔をしたのはメアだ。王女殿下の前だというのにこちらも態度はいつも通りだ。

「熊は知んないけどミストリアに無傷で勝ってる人とやってもー…」

 グズるメアにマユラが何やらアドバイスするが、メアの顔は曇ったままだ。

「そんなのホントに上手くいくかなぁ……ボコボコにされるのヤだけど」

「大丈夫、多分…」

「マユラのそういう自信なさげなところがリーダーに向かないとは思う」

 見上げるメアにバッサリ指摘され、ベテラン戦士からも認められる盾兵はちょっと悲しそうだ…。

 気乗りしないメアが前に立つと、ソウカは肩を竦めた。

「何だか理不尽な気がしないでもありませんけど、先ほどのでは実力を見せたとは言い切れませんから仕方ないですね。見たところスピードと手数で押してくるタイプでしょうが、まあミオほどではないでしょうし。見たところまともに戦えそうなのは指折るほど……必要なら全員のお相手もやぶさかではないですけどね」

「大した自信だな。さすがシロモリの分家筋だけはあるな、ミオ」

 バレーナは感心するが――……

「多分……マユラさんのアドバイスがあったなら、あっさり負けると思います…」

 ミオの口調は重い。

「マユラの言う『弱点』がわかるのか?」

「私はソウカさんと手合わせしたことがありませんが、だからこそ、おそらくは……」

 相変わらず気合のないマユラの合図で試合が始まると、メアは真っ直ぐソウカに突っ込む。そして間合いに入ると手に持っている木剣を捨てた―――!

「えっ!?」

 ソウカは戸惑いながらバックステップするが遅い。メアに捕まると、脚をかけられ、あっというまに組み伏せられてしまった。

「おお……勝てた」

「いたっ…痛い、腕を極めるのはやめてよ、腕は! 弓が引けなくなるでしょ…!」

 小さいメアに伸し掛られて喚くソウカ。周りはなぜこんなに簡単にソウカが負けてしまったか理解できないが……

「ソウカさんのあれは自分で言っていた通り、相手が熊のときの戦い方です。分厚い肉の鎧に覆われた巨大な熊は、鋭い爪をかい潜っても一撃で致命傷を負わせることは困難です。なので相手の身体ではなく、突き出してくる手先を狙って攻撃し、弱らせるのです」

 ミオの解説にバレーナが「ふむ」と腕を組む。

「しかしそれでは長期戦になるだろう?」

「ソウカさんは体力と集中力に秀でていますし、狩りの場では逃げることは常に選択肢に入っています。バックステップしたのも相手の行動が理解できなかったので、危機を感じて条件反射で行ったのだと思います」

「なるほど…。マユラもそこを見抜いたのか?」

「…人間相手だと、疲れず、いかに効率的に倒すかがセオリーだから、ミスト相手のときに違和感があって…」

「そういうことか。しかしシロモリの分家なら、基本的な武術は仕込まれているのではないか?」

 バレーナの問いに、ミオは心底困った顔をした。

「申し訳ございません、ご期待に添えず…」

「いや、いい。ミオが謝ることじゃないだろう」

「…言い訳をするようですが、ソウカさんの村では対人戦闘の技術を覚える機会がなかったのと、そもそも弓があれば問題ありません」

「近寄らせる前に射抜くのか? それは後が楽しみだな」

 とりあえずソウカのテストは一旦終了し、次へ移る。











 えー…一週間も空いてましたね。びっくりしましたね。

 このポイントで切らないといつもの三倍の量まで書かないと上手く纏まりそうにないので、中途半端ですが、一旦ここで。

 まだしばらく別のことに手が取られそうなのでまた少し間が空くかもしれませんが、できるだけ早めにペースを戻していきたいです…。

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