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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
剣を鍛えるは、炎
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35.

「お、お、おおぅ!?」

 その異様に取調官は固まってしまった。

 突進してきた巨漢は軽装ながら鎧も纏っていたが、動きは早い! しかも総重量が何十キロになるかわからないグレートアックスを軽々と頭上に掲げ、叩き下ろす……!

「おああ!?」

 正面玄関で構えていた兵士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。それが功を奏して初撃での被害はなかったが、地面を割るように食い込んだアックスの刃は恐怖で縮こませるに十分なインパクトだった。

「軟弱な軍の負け犬どもめ! トマトみたいに潰してやるぅ!!」

 再び大上段から稲妻のように落とされる斧の狙う先は、立ち尽くしてしまったシャーリーだ…!

「ひっ…――!」

 誰もが呆然と見守ることしかできなかったその瞬間―――

「うっ――らああァ!!」

 真横から斬撃に体当りするように飛び込んできた影がアックスを剣で殴りつける!

 斧の軌道が逸れ、シャーリーの左、四十センチ離れた地面を抉った。そして庇うように立つのは――――ミストリアだ!

()って…」

 あまりに重い衝撃に手元に目線を落とすと、曲がった刀身が目に入った。ミストリアは舌打ちして剣を巨漢に投げつけ、固まったままのシャーリーの腰の剣を引き抜く。

「ほら、下がってろ……下がれって!!」

 突き飛ばすようにシャーリーを押すが、腰が抜けてしまったのかその場に尻餅をついてしまう。ミストリアはまた舌打ちした。

「おい、誰か! コイツを下がらせろ! …ドナリエ!」

 呼ばれたドナリエはハッと気付いてシャーリーを建物の壁まで引きずっていく……巨漢の間合いに残っているのはミストリアだけだ。

「女…? 他の男どもはやらないのか? 情けない奴らめ!!」

 それにはミストリアも同意見だが、しかしどうする!? さっきまで戦闘に参加できないことに不満を持っていたが、さすがにこれは違うというか、想像していた相手と規格が違う…! 大体、こんな奴がいたら事前に対策があってもよかったんじゃないか!?

「兄貴を訪ねてきたのがこの時間でよかった……お前たち軍警察どもに兄貴たちは渡さんぞ!!」

 そういうことか……要するに一味の誰かの兄弟で、偶々この場に現れたということだ。はっきり言って間が悪い。

(いや、シロモリのことだから、まさかこいつが現れることを見越して……!?)

 ともかく―――この事態にどう対応すればいい? ミストラルは自問自答する。

 いつもの槍はない。殺してはならない。取り押さえられそうな相手でもない。戦意を失った味方がいる。そもそも勝てるかどうか……。

 勝つ? 今回の「勝利」とはなんだった?

「ふぅ…」

 ミストラルは剣を構え直した。いつも槍を握っている時とは違う、重心を高くした構えで、巨漢の巨斧使いの挙動を見る……。

 持っている武器はグレートアックス…。グレートアックスに決まった形はない。槍のような長い柄に盾のような大きさの刃が付いていれば頭に「グレート」が付くのだ。今回の敵が持っているものはかつて見たことがないほどの巨大さだが、その形状は太く長い槍のような尖った鉄棒の側面に、片側だけ樵の斧のような刃が付いている。つまり連続して攻撃しようとする場合、柄をくるりと百八十度回転させなければならない。あれだけの重量の武器だ、どれだけ馬鹿力でも手の中で細かく操るのは難しいはず。そもそも威力があるのだから細かく振る必要はない……強振あるのみか。なら……

「くらえぇ、女あ!!」

 今度は袈裟斬りの一撃―――! だがかわした! 

「ぬ…ウオオオー!!」

 斧は今度は地面を打たず、巨漢が踏み込んでくる。巨体を捻った反動を使い……猛スピードで第二撃が迫る! 今度はほぼ水平の胴切りだ! しかしミストリアはギリギリ間合いの外に出てやり過ごす――……! 巨漢はさらにスピードを上げるが、ミストリアはどれも紙一重で避けていく!

「うぬううぅ!??」

 少なからず動揺する巨斧使いに対し、ミストリアは落ち着いて、集中していた。

 まともに受け止めたら剣が折れ、吹き飛ばされてしまう……だから避けるしかない。想像以上に速くリーチもあるから懐には飛び込めないが、動作には必ず溜めがある。そのときの重心の位置、足の動きを見れば次の動きは予測できる。アケミに教えられたことだ!

 そうして避け続け、チャンスを待つ……アケミやマユラの応援が来るのを待つ! この戦いの勝利は個人を打ち負かすことではなく制圧することだ―――アケミがそう言っていた。今、敵わないのは悔しいが、自分ができることをやる……!

(いける……やれる…!)

 緊張で肌はピリピリ痛み、息は上がってきたが、ミストリアはこれまで戦いの中で感じてきたのとは違う高揚感を感じていた。こんなに考えながら戦ったことはない。感覚は研ぎ澄まされ、どうすればいいのかが「見える」。オレは―――確実に、強くなっている!!

「おおぉ……はっ!?」

 身の毛もよだつ猛攻をかわし続けるミストリアをぼうっと見ていた取調官だが、ようやく我に返った。あの女が引きつけている間に取り囲めば、なんとかなるかもしれない! 弓矢はないが、全方位から武器を投げつければ……

「皆、聞け! 全員であの男を―――…」

 そこで取調官のセリフは止まってしまった。ミストリアが宙に舞っているのが目に入ったからだ…。

 斧の切り上げの一撃を確かに躱したはずだったのだが―――男は振り切る瞬間にアックスを滑らせるように持ち直してリーチを伸ばしたのだ……!

 大きく吹き飛ばされたミストリアは起き上がらない―――…

「は、手こずらせてくれた……潰してやるぞ、宣告どおりなぁ!!」

 巨漢が地響きを鳴らすように脚を踏み鳴らす――――

 そのとき、

「…おお、こんなのがどこに隠れてたんだ?」

「あ…」

 取調官が振り返る。巨漢も空気が変わったのを感じて止まる。ジッテを肩にぽんと下ろし、アケミが首を捻って立っていた。

「あれも一味なのか? あんな目立つのがいるなら先に言ってくれないと―――」

「そんな悠長なことを言っている場合かぁ! 貴様の部下が…!!」

 取調官が指差す先には倒れたままのミストリアが……。しかしアケミは一瞥しただけで歩き出した。

「おい!?」

「よく見ろ、血は出ていないだろ。メア、見てやれ」

 アケミの後ろ、気絶した男を抱えていたハイラとメア。メアはここぞとばかり重い荷物をハイラに押し付け、ミストリアに駆け寄る。

「大丈夫、傷はないし……気がついた」

 ぴくりと背中を動かし、ミストリアが動き出す。

「ミスト、大丈夫かー?」

「柄の先が胸当てに当たって……身体にダメージは通ってない…」

 起き上がったミストリアが手を当てている部分、金属プレートの胸当ては凹んでいるが、それで済んだのは巨漢の奇手にしっかり反応していたからだ。

 無事を確認したアケミは巨斧使いの前まで迫り……悠然と構える。それが単なるこけおどしでないことは巨漢にもわかった。その秀麗な瞳に推し量れない程の殺気を見たからだ。

「なんだお前は…!」

「シロモリ……長刀斬鬼といえばわかるか?」

「長刀…だと……?」

 巨漢はしばらくアケミを睨むが……

「………嘘をつけ! それのどこが長刀だ!!」

「『長刀』よりも後ろ半分のほうが肝心なんだがな……ま、この長さはハンデとでも思ってくれればいい」

 アケミはジャグリングするようにジッテと小太刀を宙に放ると、右手にあった小太刀は左手に、左手にあったジッテは右手に、クルクルと回って収まった。そして重心を低く、身体を捻るように構える。ミストリアとは逆の構え……まさか、打ち合うつもりか!?

「お前が本当にシロモリだか知らんがっ………ガルキーマの旦那は置いていけえぇ!!」

 大きく振りかぶり……グレートアックスが大上段から迫る!! とても小太刀とジッテで防げる圧力ではない!! だが、脳天に迫る巨大な刃を前にアケミは避けようとしない。そのままでは、確実に死―――

「――――!!!」

 巨漢は手応えを感じていた。生物を潰すときはいつもそう……このグレートアックスの前ではスポンジケーキほどの抵抗しか感じない。後はその場でひしゃげるか、蹴り飛ばした小石のように跳ねていくか、どちらかである。しかし今日はどこか違った……いつもより軽い。下手をすれば空振りするよりも軽いかもしれない――――その原因はすぐにわかった。アックスの先が………刃のついたところから先が離れたところに落ちている。その分かれ目は綺麗に切断されていた……

 そう―――長刀斬鬼に、小太刀に斬られたのだ――

「なっ――――なんだとおお!!? ごッ…」

 巨漢の即頭部にジッテがめり込む。アケミが長い下げ緒の先を持ち、遠心力をのせて叩きつけたのだ。ジッテは鋼鉄の塊、モロに受ければひとたまりもない。巨漢はただの鉄棒になったグレートアックスを手放して崩れ落ちた。

「ハンデにならなかったな………まあこんなもんだ」

 静かになった正面玄関前は、歓声よりも先にどよめきに溢れた。

「つ…強い……」

「凄すぎる……!」

 口々に言葉になって表されるのはアケミへの敬意……というよりも畏怖だろう。シロモリの「カタナ」が如何程のものかは知らないが、これだけは言える……「鉄が斬れるはずがない」。もちろん兜や盾を叩き割った逸話はある。しかしどれも薄いものを重量のある武器で、というシチュエーションによる。逆は有り得ない。

 ミストリアは「その瞬間」をよく見ていた。まず振り下ろされた斧に対し、左の小太刀を水平に、それを後ろから押すように右のジッテを縦に、斧の柄に当たる瞬間に全てを一点に重ね合わせて振り抜いたことが一つ。そして事前に何気なく武器を左右持ち替えたのは敵の横を斬り抜けるためだ。右利きの敵が上段から振り下ろすなら右手を上に、左手を下に武器を握り、右足が前に出る………アケミはその外側、背中側を勢いのまま通り抜けるためにあえて持ち替えたのだ。

 つまり、最初から狙っていたことになる……。

 相手の攻撃を見切り、正確に合わせる技術力。押し負けることのない腕力と瞬発力。迫り来る刃に身を晒し、微塵も迷わずに飛び込む度胸……それを裏打ちする積み重ねられた実力。どれを取っても、次元が違う―――。あの男だって自分より強かったはずだ。槍を使っても多分勝てなかった。それを、ああもあっさりと……一体自分とどれだけ差があるのか。何段上なのか。手が届くところにいるのか………それすらもわからない。

「よくやった、ミスト。有様を見ればお前が一人で健闘したのはわかる。死人が出てもおかしくなかった………やはり残しておいて正解だったな」

「………!」

 アケミが伸ばしてきた手を、素直に取ることができなかった。自分がアケミほどの力を持っていれば、きっと………正面玄関で待機していることに疑問を感じなかったはずだ。自分の小ささが、弱さが、ミストリアは何よりも悔しい………。















 なんか書けてしまったので更新です…。自分にしては筆が早いほうです。やらなきゃいけないことを後回しにしてたらなんとなく書けちゃった、というのはあります(笑)。もうちょっと部屋の片付けしないと…。


 今回はジッテと小太刀のアクションが個人的なキモだったのですが、どうでしょう? 描写が下手というより、そもそもわかりにくいでしょうか。自分でも後から読むと「?」となることが多々あります。今回は見直ししましたが、書き上がった直後は明らかな誤字でも気づかないもので困っちゃいますね。そして明らかになっていくブラックダガーのメンバー……そろそろ覚えきれなくなりそうです(;´д`) メモしとかなくっちゃ…。


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