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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
剣を鍛えるは、炎
69/124

34.

 街が少しずつ動き出そうかという午前九時すぎ、急行軍で街中を進んでいく武装した兵たちに大衆は何事かとにわかに騒いだものの、深く捉えはしなかった。軍警察がこの街で活躍したことなどないからだ。規則正しいテンポで駆けていくあたり、どうせ訓練か何かだろうと見ていたのだ。

 そのまま隊は街の中心から離れて郊外へ―――一際大きな屋敷の前で停止する。

「隊長、見張りはいないようですが鍵が掛かっています」

「む…」

 取調官は眉間にしわを寄せた。

 門は大きく頑丈で、塀は高い。突破は難しそうだが…

「ドナリエ」

 アケミに呼ばれた少し派手目の少女は「りょうかい」と軽く返事すると、アレインの駆る馬の背に飛び乗り、さらにそれを足場にしてするする塀を乗り越える。そして門の向こう側に回ると……ものの数秒で開錠した。取調官をはじめ、軍警察の兵士は唖然としてしまう。

「シロモリ殿……王女殿下の側近にこのような手癖の悪い者は似つかわしくないのでは…?」

「失礼なことを言うな、スペシャリストと呼べ。そもそも門が閉ざされていることくらい想定の内だと思うが、そちらは対策していないのか?」

「く……配置につけ!!」

 取調官の号令で小隊ごとに分かれていく。正面玄関から兵士七人、裏口からアケミとシロモリ隊二人が突入し、逃げられないように三方を三人ずつ、正面を取調官を含む兵士四人とシロモリ隊三人が固める。残りのシロモリ隊二人―――騎乗したアレインとその後ろに乗るマユラは遊撃部隊だ。劣勢の地点に駆けつけて敵を撃退、あるいは逃走した敵を追う役目だ。なお、定位置は裏口である。これらは全て地方の軍警察の経験値を上げるため―――もとい、花を持たせるためである。

 取調官は大きく息を吸い込み………カッと目を見開いて唱えた。

「我々はマザロウ軍警察である!! ガルキーマ=ゼラ、及びその一味にはグロニアにおける娼館襲撃事件の犯人を幇助した嫌疑、襲撃計画に加担した嫌疑が掛けられている! また、マザロウ内においても不正取引を――――…」

「………」

 裏口で聞いていたアケミはドアに鍵が掛かっていることを確認すると、引き抜いたジッテの柄尻でドアノブを叩き壊した。

「あの、アケミ隊長、まだ口上が終わってませんけど…」

 アケミの突然の行動に慣れつつあるも、ハイラが確認してきた。罪状を並べ、容疑者が抵抗、籠城、無視した場合のみ強行突入することになっているからだ。

 しかしアケミは大したことじゃないというふうに肩を竦めた。

「長いんだよ。せっかく色々仕込んだのに、これじゃ奇襲になんないだろ。パッパと捲し立てて返事ないな、じゃあ突入!でいいんだよ」

「……ベラちゃん連れてこなくてホントよかったです」

「正義は必要だが、相手が正々堂々に付き合ってくれるわけじゃないぞ。一番優先すべきは無傷での完全制圧だ、忘れるな。マユラ、あとは任せる」

 後ろに控えているマユラが頷く。静かでもその表情はすでに戦闘モードだ、やはり当てにできる。

(ミリムもいればな……)

 ふと頭に浮かんだ姿に、胸の奥がすっと冷える…。

「…どしたん?」

 メアが覗き込んでくる。

「いや……こうして隣に誰かがいるのは気分いいものだと思ってな。行くぞ…!」

 裏口から突入―――! すでに中では慌てふためいている気配がある。

「あたしが先行する。手筈通りやれ」

 廊下を駆けながら部屋を見つけるたびに片っ端からドアを開け、改めて行く。屋敷に漂う酒やら何やらの臭いから察するに、昨夜はお楽しみだったようだ……こちらの思惑通り。厳つい風体の男に出くわすたびにジッテを叩き込み、手錠をかける。娼婦は逃がす。その合間に、別の部屋から飛び出した敵が襲ってきても、

「と、と、と―――」

 戦士崩れの男の剣撃をハイラは下がらずに受け流す。全力で攻撃しているのに、素人臭い少女に届かない―――

「くそ、何だコイツ!? うおっ…」

 陰から現れたメアが急スピードで肉迫し、小柄の身をひねりながら男の顎をアッパーカットで打ち上げる。一発K.Oだ!

 性格こそ攻撃的ではないハイラだが、普段からイザベラの相手をしているゆえに防御力が高い。一方、戦士だった父親から格闘術の手ほどきを受けたメアはとぼけた顔して遠慮なく急所攻撃だ。やはりこの二人は噛み合う上、こういう場でも慌てない。狙い通り……いや、期待以上だった。

「ペースを上げるぞ。相手が女でも油断はするなよ。こっちも女オンリーだ、なんとかなると勘違いするかもしれんからな」

「わかりました」

「はいはぁい」

 さらに二部屋をクリアし二階に続く階段付近に近づくとアケミは立ち止まる。耳を澄ますと、ロビーの方から激しい声が聞こえてくる…。

「少し手こずってるようだな」

「助けに行かなくていいんですか?」

「任せて構わないだろ。傭兵たちに一人一部屋割り当てられているのはガルキーマと仲がいいからか、単に部屋が余っているか、あるいはその両方か。とすると、建物の大きさとこれまでの部屋の間取りを考えれば、一階に残っている傭兵の人数が突入してきた兵士より多いということはない」

「隊長、意外と頭いい…?」

「メア、悪口はちゃんと覚えてるからな……それと気を引き締めろ。ここからが本番だ」

 ジッテを左手に持ち替えて腰の小太刀を抜き、極力足音を立てないように素早く二階に上がる。二階は騒がしい一階と違って静かだ……ドアも全て閉じている……。

 いや……。

 フロアの中央にある一番大きな扉……は、通り過ぎ、その奥の小さな扉へ…。

「………」

 ハイラとメアに一度目配せし、ドアノブに手をかける。キ…と小さな音を立ててドアが開くと、ベッドの上でシーツにくるまって震える娘が一人……何が起こったのかわからず恐怖に小さく嗚咽を漏らしている。

 アケミが一歩、二歩と踏み込み―――三歩目を踏み込む手前でぴたりと止まる。その目の前を刃が通る―――開いたドアの陰に隠れていたのだ! しかしアケミは振り向きもせずにジッテで横殴りにすると、腕を掴んで投げ飛ばす。襲いかかってきた男はキャビネットに叩きつけられ、ガラスが弾けるように割れて降りかかったが、もはや気絶しているのかピクリとも動かない。

「……ふう」

 アケミが視線を娘に戻す。娘はびくりと肩を強ばらせた。武器を手早く納めたアケミは娘に近づいた。

「怖がらなくていい、軍警察だ。コイツがガルキーマか?」

 逆さにひっくり返って脚を広げる間抜けな姿の男を指差すと、娘は黙って首を縦に振った。

「そうか、ありがとう。下の階で女性を保護したが、君も…? かなり若いが」

「それはその、そういう、ご要望で……」

「ふむ……君みたいな子があんな醜男の相手をするのはもったいないな」

「え…」

 額にキスされ、間近で見つめられた娘は、いつの間にか震えが止まっていた。

「さっきは助かった。君の目線で奴がいることに気付けた。ありがとう。さ、ここは危ないからしばらく外に出ていてくれるか」

「あ……はい…」

 頬を染め、娘はそそくさと部屋を出て行った。

「チッ、アイツがガルキーマだったのか……もう2~3発殴っておけばよかったな」

 やれやれと首を捻ると、ガルキーマに手錠をかけているメアにジトリと睨まれた……いや、ハイラも困ったように眉根を寄せている…。

「な、なんだ…?」

「すみません、さっきのはさすがにちょっと引きました…」

「隊長、女好きじゃん」

「…………」





 正面玄関前で待機するミストリアは歯がゆさと悔しさでイライラしていた。

 なぜ自分が突入メンバーに選ばれなかったのか? その理由が未だにわからない。シロモリ隊のメンバーは基礎訓練の段階だ。多少剣を握るようになったとはいえ、まだまだ素人だ。その中でアケミ、マユラは別として、まあイザベラ、ハイラあたりはまだわかるのだが……メアは違う。いくら格闘術を囓っているとはいえ、通じるのは街の喧嘩までだ。小さなあの身体では体重も乗らないから威力も出ないし、相手が鎧を着ていたらかなり不利になる。

 それ以前に、そもそも誰も突入の訓練を受けていない。ミーティングで簡単に打ち合わせをしただけだ。動き方を理解しているのは元軍人の自分だけのはずなのに………隣に立つメンバーを見れば、親が鍵師で本人はメイクアップアーティストのドナリエと定食屋の看板娘だったという異色の経歴のシャーリー………どちらも剣はからきしダメと言っていい。その列に並べられる自分は一体なんなのか……!

 一方――――ミストリアたちの隣で待つ軍警察はじれったい焦燥に駆られていた。突入して間もなく十分……昨晩呼ばれたらしい娼婦たちは飛び出してくるが、男はまだ一人も見ない。

「大丈夫でしょうか…」

 マザロウ所属の兵士がグロニアから来た取調官に不安を訴える。

「グロニアから優秀な人材を連れてきた、問題はない」

「いえ、裏口側の方で……大分人数が少なく割り振られていましたが、あんな娘たちでは、人質に取られるということも……」

「………シロモリ殿がいるから問題ないだろう。剣の腕だけは確かだ」

「どういう方たちなのです? 王女様がどうとか言ってましたが」

「詳しくは話せん。しかしシロモリの名くらいは聞いたことがあるだろう。現在の当主……長刀斬鬼と呼ばれるのはあの女だ。些か問題行動も多いようだが」

「エレステルの武術の先導者である、あのシロモリですか!? 女性だったとは……しかしそれであの不可思議な武器に納得がいきました。あのジッテ……軍でも採用されないでしょうか」

 冗談でも提案してきた兵士を取調官はじろりと睨む。今腰にある剣は愛用のサーベルではなく、間抜けな「切れない剣」だ。

「あんなもの、実際なんの役に立つ……中途半端に短く、中途半端に重く、中途半端にダメージを与えるだけの取り回しの悪いおもちゃではないか。あれなら木剣の方がまだマシだ」

「ですが木剣では敵が真剣の場合は受けるのが怖いですし」

「あのジッテだって、相手がグレートアックスならどうする!? 針金同然だぞ!」

「そんな、極端な…」

 どうしてもシロモリが気に入らないらしい取調官が眉を釣り上げ始めたとき―――

「うおおおーぅッ」

 背後の門から身の丈二メートルはあろうかという巨漢が飛び込んできた!! そして丸太のような太い腕には、背丈と変わらない巨大なグレートアックスが握られている――…!









 かなーり中途半端ですがここまでで更新します。キリのいいところまで進めようとすると結構時間かかりそうなので…。


 前回PCがヒーヒー言ってると書いたらドライブの調子が悪くなってきました……マジで!? それはないでゴザルよ…。

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