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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
剣を鍛えるは、炎
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23.

 アケミは軍の視察を名目とした人材発掘の旅を終え、ゴルドロン邸へとやってきていた。

「ほら、頼まれていたリストだ。それぞれ推薦する理由も添えてある」

 (さっきまで孫と遊んでいた)ベルマンは、ざっとリストに目を通す。

「ほう……お主、意外とやるのう。まさか調理師にまで及ぶとは思うておらなんだ」

「エレステルの軍事のメインは国境警備、つまり防衛戦だ。三百六十五日戦線を維持し続けるための兵站の重要性はわかっている。戦費の節約ができるのもこの部分だしな」

「ふむ……。戦士の方は評価が辛いのう。数が少ないように思えるが」

「新たな大隊長は中隊長から選ぶことになるだろう? ならその大隊の中枢は連携の取りやすい馴染みの人員が多くなる。足りないところを補填しやすいように、比較的どこにいても働ける総合力の高い人間をピックアップした。あと、あたしより腕の立ちそうな奴もいる。指折るほどだがな」

「この赤丸が付いておるのはなんじゃ?」

「そいつらはあたしのだ。スカウトの優先権はもらう」

「例の親衛隊か。抜け目ないのう」

 ベルマンが感心するが、アケミにとっては親衛隊のスカウトが本題である。

「うーむ……」

 ベルマンはリストとアケミを何度も交互に見比べる。

「…なんだ、文句は受け付けないぞ」

「いや……お主のその一兵士を逸脱した視点、どこで身につけたのかと思うての」

「…………」

「まさか、スパイの女兵士か?」

「…関係ないだろう」

「ままならんのう……有望な若者は命を落とし、お主を官職にするのも難しい」

「何言ってるんだ……シロモリが軍職に―――」

「わかっておる。だがのう……うーむ…」

 筋肉の塊のような腕を組み、白い髭を蓄えた丸い顔に渋い表情を浮かべ、首を捻る。なるほど、孫たちに好かれるのもわかる気がする。この「白き大熊」は子供視点で見ると愛嬌がある…。

「…ところで、このリストには乗っておらんが、バラリウスという男を見なかったかの」

「バラリウス? ああ、第四大隊の中隊長か。見たが……大隊長になる器ではなかったな。周りにいる奴らも含めて兵は強いんだろうが、独断専行が多いようだし、人を使えるようには思えなかったな」

 バラリウス=ゲンベルト。ベルマンと同等の鍛え上げられた体躯の持ち主で歳は四十くらいと、戦士としてまさに成熟期。性格は豪快にして苛烈、そして軍将としてのカリスマを持っている。バラリウスの周りに仕える男たちも相当なマッチョの集まりで、彼らから襲撃を受ければひとたまりもない。軍の中では「模擬戦で当たりたくない相手」として囁かれている。一方で、個性の強いこのグループは大隊の中で浮きがちである。

「そうか…。ともかくご苦労じゃった、よくやってくれた。このリストから昇格する者がでれば、存分に恩を着せてやってよいぞ」

「そんな恥ずかしい真似はしない。自分にそこまで影響力があるとは微塵も思っていないしな」

「どうかのう…?」

 意味深に含みを持たせても駄目だ。そんなのでその気になるほどアケミ=シロモリは安い女ではない。

「話は変わるが、お主が旅立つ前に起こした事件じゃが」

「違う、あたしが解決した事件だ。わざと言ってるな……何か進展があったのか」

「うむ。犯人の男たちの裏で糸を引いていた者が見えてきた。しかし一筋縄ではいかんかもしれん、そこでお主に動いてほしい」

「断る。軍警察の仕事だろう」

「ああ、聞いておる。一悶着あったそうじゃな。いかんのう、それではワシから依頼したらあ奴らの面子が立たんじゃろ」

「だから断ると言っている」

「…と言っても、引き受けるじゃろ。胡蝶館に関わることじゃからのう」

「……チッ」

 アケミがむっとしても膝を叩いて笑う。腹の立つジジイだ。

「……わかった、受ける。結末を見ないと、あたしも安心できないしな」

「軍警察にはワシから取りなしておこう。ただし、壊した机の請求書はお主に回す」

「はあ!? じゃあ何か、金を払って働けと!?」

「何を言っておる、軍の備品じゃぞ? 自業自得じゃ」

 くそ、さっさと引退すればいいのに…。聞こえるように呟いたが、ベルマンは身体を揺らしてほくそ笑むだけだ。まだまだ手のひらの上で遊ばれている……。






 アケミが胡蝶館の勝手口から入ると、厨房は夜に向けて仕込みを始めているところだった。

「ライラさん、ただいま」

「え? あ…」

 声に反応して振り返ったライラは一瞬アケミを見るが、すぐにじとっと睨み、視線を手元に戻す。そんなライラを抱きしめたい衝動に駆られたが、確実に怒られるので今は我慢―――。

「今日泊めて。部屋に上がらせてもらうから」

「え!? あ――!!」

 手を伸ばしかけたライラだが、今度はアケミがさっさと行ってしまう。その周りで、フラウ、キスカ、ヤーネルの後輩たちがニヤニヤと笑みを浮かべる。

「今日のまかないはスタミナ料理ですかねぇ」

「風呂は熱くするかなぁ」

「耳栓よーい」

 ダン――――!!

 叩き割るかと思うほど包丁をまな板に叩きつけ、ライラの双眸が三人娘をギロリと睨みつける。

「口より手を動かす…!」

「「「はーい…」」」

 大人しく返事をするが、三人のニヤニヤは収まらない。ライラの顔が赤く、照れ隠しだとまるわかりだったからだ。




「…何の用?」

 三時間経ってようやく上がってきたライラは超不機嫌だった。

「いや……だから、泊めてもらおうと…」

「ウチの店はホテルじゃないの。よそへ行ってくれる?」

「店じゃなくて、ライラさんの部屋に」

「一人部屋よ、見ればわかるでしょうが」

「そこはホラ……さぁ?」

 アケミが照れるように首筋を手で押さえる仕草をするが、ライラの心は真逆にヒートアップする。

「だから嫌なのよ!! もうアンタが泊まるっていうと皆が察したような目で私を見んの!! どれだけ恥ずかしいかわかる!?」

「別に恥ずかしくないよ、もう半ば公言してるし、ライラさんとのことを誤魔化す必要なんてない」

「アンタはそれでよくても! オープンにする必要はないでしょうが!! あーもう……ホントに若いって怖いもの知らずだわ……」

 と、ドアの外でガチャリと物音がする。ライラが鬼の形相でドアを開けると、フラウたち三人がヒッと肩を強ばらせた。

「何してるの…?」

「ご飯はお部屋のほうがいいかな、と……アケミさんもまだですし…」

 フラウとキスカが一膳ずつ、ヤーネルがワインとグラスを持っている。それらにアケミが手を伸ばす。

「ありがと、待ちくたびれてた。食べ終わったら厨房に下げとくから。あ、お土産は皆で食べて。おやすみ」

「! お、おやすみなさい…」

 三人は何かを、それこそ何かを察したように目を見合わせ、きゃいきゃい騒ぎながら階下へ降りていく…。

「――ほら!! これ! 今のみたいなのを言ってんの!」

「そんなに目くじら立てなくてもいいじゃん…。今、家に誰もいないからさ。せっかくならライラさんと一緒がいいなって」

 膳を運び腰を下ろすアケミ。ライラも一度溜息を吐き、アケミの正面に座る。

「……家の人は? 妹だっているんでしょ?」

「親父と妹で遠出してる。一回戻って風通ししてきたけど、ウチは屋敷あって道場もあってさ、夜は静かで怖いんだよね。だからライラさんと一緒のベッドがいいなぁと」

「何の言い訳よ……子供か――」

「このテーブルに並べていい?」

「聞け!」

「あ――このミニテーブル買ったの? こういう時のために?」

「へっ!? ち、違っ……もらったのよ、たまたま!」

 もらったのは本当だが、偶々ではない。実はそのことをアケミもさっき聞いていた。

 ようやく大人しくなったライラとアケミは食事を始める。

「……ヤなこと思い出させるけどさ」

「何?」

「ゲイスの事件……ああいう風に徒党を組んで襲ってきたのって、何故だか心当たりない?」

「あるわけないでしょ…」

「そうだよね…。いや、さっき女将にも聞いてみたんだけど、わからないの一点張りで。何か知ってそうなんだけどな」

「………何か、はあると思う。それがゲイスと繋がっているかはわからないけど、でもゲイスは知っていたのかもしれない」

「というと?」

「いつか、あのメイドが言ってたじゃない。娼館が情報を集めてるって。それが娼館の中だけじゃなくて、外からもってことをゲイスが言っていた。グレイズには私の知らない秘密がある。私たちには見せない裏の顔が……」

 ライラの声は暗い…。

「でもそれを知ってどうするの? その……グレイズが逮捕されたり、とか…」

「いや、そういうのじゃないよ。ゲイスの裏で糸を引いていた奴がいるかもしれないって聞いたんだ。結果的に見ればライラさんはついでで、ゲイスたちは胡蝶館そのものが狙いだったように見える。つまり、その『裏で糸を引いていた男』の狙いが胡蝶館だったんじゃないかと思う。それならやっぱり、女将に何かあるのかなと」

「………ありえるのかもしれない。恨みとかいっぱい買ってそうだし。でも………殺されるほど悪いことはしてないわ」

「ふうん…」

 食事を終え、後はワインをグラスに継ぎ足し、飲み干していく…。

「………んふ」

 唐突にアケミが含み笑いを漏らして、ミニテーブルに頬杖をつく。何か邪なものを感じ取ってライラは顔を顰める。

「……なに」

「ほろ酔いのライラさんって色っぽいなぁって」

「その手には乗らないわよ…」

「その手って何? 乗ったらどうなるのぉ?」

 這うようにしてミニテーブルを回り込んでくるアケミは、あっという間にライラ隣に居座った。

「くっつかないでよ……酔ってんのはアンタの方じゃないの」

「うんー? 色っぽい…?」

「う…」

 ライラは目を逸らした。アケミは冗談のつもりだろうが、垣間見せた表情が、思わず息を飲むほど艶っぽかったからだ。元娼婦のお株を奪うほどに。

 本当にこのコはずるい―――若くて、ガムシャラで、真っ直ぐで、とても綺麗だ。

 自分があと五歳若ければ、もっと素直にこのコの気持ちを受け止められただろうか?

 ――答えはNOだ。年上ぶっていられるからまだ余裕がある。同じ年頃だったらきっと眩しすぎて反発していたことだろう。しかしこのままでは距離が詰まらないのも事実―――……

(…何を考えてるの、私……心を許してしまってるっていうの…?)

 まだダメだ。一緒になって浮かれてどうする。このコはどこか危なっかしい……私がきちんと手綱を引いていなければ―――

「大丈夫だよぉライラさん……あたしが、ちゃんと守るからぁ………」

 眠いのか、肩から垂れかかってくるアケミ。

「……うん…」

 聞こえるかどうかの小さな声で曖昧に頷きながら、ライラもアケミに身体を預ける。心地よい重みと体温に、いつの間にか瞼を閉じていたのだった……。







 今週は仕事行く時土砂降りで、ウワ━(。・ω・)ァァ━!と思ったら次の日帰りにまた土砂降りで。自転車なんスよ勘弁してください…。おかげで風邪っぽく、頭痛いです、今。週末に調子悪くなるの本当になんとかならんですかな……。


 シロモリの地位が特別だとしても、デビューして一年そこそこのアケミが軍で一番偉い人とタメで喋るのってどうよ?って感じですが、地位はあくまで対等なためへりくだる必要なし!というのがアケミの信条です(ただし、会議などの公の場では別)。そんなアケミがこの時点で丁寧な言葉遣いをする軍人の登場人物はなんとウェルバー兵長。養成所時代の先輩であることが理由。やっぱり出会いって大事?

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