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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
剣を鍛えるは、炎
52/124

18.

 現れたアケミは廃屋の中を素早く状況確認しながらも、トレードマークとも言える長剣を自然と腰に構える。手前から一人、二人、三人…まだこんなにいるのか!? 

「なんだお前――がっ!?」

 ――とりあえず一番手前にいた若い男を殴っておく。柄尻で鳩尾を突いて膝を着かせ、間髪入れずに頭に廻し蹴りを食らわせる。男はそのまま朽ちかけた食器棚に顔を突っ込んで動かなくなる。

 残り二人…ライラさんはどこに――…

「あ…」

 いた。一番奥の中年男の向こう、縛られて、服を引き裂かれたライラさんが―――!!

「―――」

 一瞬頭が真っ白になり、直後に熱湯を浴びせられたように肌が熱くなる。

「誰だ!? こんなに早く見つかるはずがあるか…!」

 中年男より手前、青年が動揺の声を上げる。

「どいつがゲイスだ…?」

 怒りで僅かに声が震えているのが自分でもわかる。それに気付いたのか―――いや、声で女だとわかって、中年男は愉悦に顔を浮かべた。

「はっ…なんだ、女かよ。ビビらせやがって」

「おい…!」

 青年のほうは焦りを隠せないが、中年男は意に介さない。

「心配すんな、俺は長年傭兵をやってたんだぜ? 相手を見りゃどういう奴かわかる。長物持って一人で突っ込んでくるってのは、腕に自身があるが場慣れしてない素人だ。こういう狭い屋内ではショートソードより長い得物は持たず、死角を作らないためにチームで動くのが鉄則よ。長い得物は当たりゃ威力があるからな。振り回してまぐれ当たりしたら、それが実力だって勘違いするんだよ。女のやりそうなことだ」

 そうして中年男は腰から大型のナイフを抜き、右側に回り込みながら近づいてくる。その様子を目で追って―――長刀を腰に構えるのを止め、こちらから中年男に近づいていく。

「おおう、こいつは特上の女だよ。抵抗しなけりゃお前もあの女と一緒に相手してやるぜ?」

「……お前がゲイスか?」

「俺じゃねえよ…!」

 姿勢を低くしてテーブルに身を隠す。障害物を盾に、そこからどう突撃するかで駆け引きが生まれるのだ。

 が―――男は後悔する間もなく倒れることになる。とても剣など振り切れる空間がないと思われる中、アケミは改めて長刀に手をかけると、構わず抜刀する。

 キンッ―――。

 鞘から抜き放たれた長刀はその刃で椅子を、テーブルを、男を斬り、柱までへし折って廃屋がぎしりと傾いた。

 もうもうと舞い上がる埃の間から倒れた中年男の顔が現れる。男は肩から胸を切り裂かれたが、まだ息はある。しかしそれは手加減した結果だ。戦闘不能になったことを確認すれば、あとは見向きもしない。

 長い髪を揺らめかせ……最後に残った男に問いかける。

「お前がゲイスか……?」

 あらゆるものを薙ぎ払って血を吸った刀身が、破れた屋根の隙間から差し込む光を浴びて、輝く。残像が見えるように幻想的に宙を流れ、まるで断頭台の刃のように鎌首をもたげる長刀……後ずさりするゲイスは脂汗が止まらない。

「一体なんなんだお前は……お前みたいな奴が、どうしてこの女を助けにくる!?」

「その人は………あたしの女だ」

「……はぁ?」

 突拍子もない発言にゲイスは毒気を抜かれ、後ろを振り返る。俯くライラは耳まで赤くなっていた。

「ほ、本当なのか……フ、フフフ、ははははは! これはお笑いだ! なんだお前、男の相手がいなくなったから女と乳繰り合ってたのか! それで必死になって助けに現れた英雄気取りがこの女か! ククク、ふふ、あははは! なんだ……お前も俺と変わらない、根っからの好き者というわけか! 俺を殴ったのもただの同族嫌悪だったということか―――」

「―――お前がゲイスだな」

 ゲイスが我に帰ったときはもう遅かった。長刀は閃光のように首元を通り過ぎる―――。

「あっ……あ、あ、あああ…っ!?」

「ここに来るまでそんな気はなかったが―――目の当たりにして気が変わった」

 懐紙で切先の血を拭い、納刀…

「次に見つけたら―――殺すぞ」

 ゲイスの目の前でパチンと刀が納められる。その音を合図にゲイスは絶叫した。

「首がッ…俺の首がああぁぁ!!?」

 首は実際には傷一つついていない。しかしアケミの殺気をまともに浴びせられた凡人は、紛れもなく死を味わった。ゲイスの精神は長刀斬鬼に切り裂かれたのだ。

 その場に狂ったように転がるゲイスを無視し、ライラをつなぐ縄を切った。

「大丈夫ライラさん、何も……されてない…?」

 直視するのが怖かった。もし、男に…されていたら、どう声をかけたらいいのかわからない。

 しかし猿轡を外したライラの一言目は安堵の喜びでも恐怖の嘆きでもなかった。

「胡蝶館が、みんながッ……こいつらの仲間が、火をつけるって…!!!」

 ライラの手が痛いくらい襟首を掴む。焦燥に歪む瞳からボロボロと涙が流れ、自分のことなどまるで考えていない。

 ライラの手をぐっと握ると、アケミは自分のジャケットを震える肩にかけた。

「大丈夫…!」

 アケミとライラが外に出ると、気を失って倒れたままの見張りの男が二人……そして馬に寄り添って立つ少女が待っていた。

「なんかすごい音しましたけど、大丈夫…うわっ!?」

 少女が驚いたのも無理はない、アケミは近くの一番高い建物に飛びつくと、反動をつけてその上階へ、上階へとほぼ右手一本で四階の屋上へと登りきったのだ。

 そこから東北東、胡蝶館のある色町の方角を見る……。

 五秒ほど目を凝らしたアケミは、ほとんど飛び降りる勢いで降りてきた。

「煙は上がっていない。あたしの仲間が来てくれているはずだから、上手くやってくれてると思う。本当に助かった―――アレイン」

 感謝する相手は、馬の手綱を引く少女である。アレインは馬術に長けたライドル一門に所属、ジャイオンの件の時にアケミに食ってかかった少女だ。

「お礼を言われるのは、少し複雑です…」

 やむを得なかったとはいえ、名馬・ジャイオンを殺したアケミに協力するのは気が引けたアレインだ。それでも女性が誘拐されたというから、アケミを乗せてここまで来たのである。結果、それがライラの貞操を守ったのだ。

「本当に感謝している。言うだけじゃなく、今度きちんとお礼をしたい。だがまずは、このライラさんを胡蝶館まで送り届けてくれないか」

「え…アンタはどうするの?」

「あたしはコイツらを軍警察に引き渡す。そうしないとライラさんが安心できないでしょ」

 ポンとライラの背中を押す。

「ジャケット後で取りに行くから、ご飯作って待っててよ。胡蝶館で」





 アケミがゲイスたちの潜伏する廃屋に突入する少し前―――胡蝶館の玄関口からは複数の男たちが弾き出されていた。

「クソ……なんだこのデカ女!!」

 男たちの後から出てくる「デカ女」は、右手にすりこぎを、左手に鍋蓋を持っている。剣を手にする男たちに比べてふざけた装備だが、それでも盾兵として熟達した技能を持つマユラには十分である。

 下手をすれば男たちより目線が高いマユラは、大人しい容貌ながらも圧倒的な威圧感がある。

「くっそ……この野郎がぁ!」

「野郎じゃない…」

 襲いかかってくる男たち三人に対し、反論なのか独り言なのか小声で呟きながら、マユラは反撃に移る。上段からの振り下ろしを避けながらすりこぎを腹に食らわせて一人目を倒し、剣を突き出しながら突進してくる腕をとって二人目を投げ飛ばし、三人目は仕掛けてくるまえに踏み込んで鍋蓋のパンチを顔面に見舞う―――野郎呼ばわりした男だ。三人目の男は横っ飛びに、向かいの店の前に止めてあった荷車に頭から突っ込んだ。男顔負けの、いや男以上の膂力を見せつけたマユラを、何事かと集まった群衆が喝采で包む。

「う…」

 いざ注目されるとマユラは恥ずかしくなった。普段から主張しない性格なのに、衆目にさらされるなど以ての外である。しかしその体格は隠れられる場所がなく、天は最前線の盾兵の才能を与えたのだから皮肉なものだ…。

 騒ぎを聞きつけて集まってきた軍警察に男たちを任せる内に、胡蝶館の中からロナ、イザベラ、ハイラが出てきた。

「そっちは…?」

「裏口から二人現れましたけど、なんとか…。すごいですのね、私たちは警棒を使わせてもらいましたのに」

 イザベラとハイラは鉄製の警棒を持っている。元々胡蝶館に備え付けてあったものだ。

 この色町では軍警察(とアケミなどの一部)以外の人間が武器を持ち込むことは御法度とされている。特に人気の娼婦は何人も客をとっていることが多く、その客が戦士だったりすると、昔は取り合いでシャレにならないケンカが起こったり、娼婦を脅して自分の言いなりにさせようとする事件が多発した。だから帯刀は厳禁となっているのだ。これには法的罰則はないが、基本的に二度と色町に立ち入ることはできなくなる。

 代わって色町で採用されたのが警棒である。長さはショートソードより短く、軽いが、鍔の部分に特殊なフックが付いていて、相手の刃を受け止めることができる。一節にはシロモリ由来の武器と言われている。

 非武装でやってきたマユラたちは胡蝶館に二本だけ備え付けてあったこれを、とりあえずイザベラとハイラに持たせ、他の店から借りようとしたところで賊が現れた。指定の時間より十五分以上早く、しかも問答無用だったので、構えていなければ危うかった…。



 それから二十分後、アレインが攫われたライラを馬に乗せて戻ってきた。アケミは事後処理をしてから戻るとのことだ。

「一応被害者はゼロ、主犯とその仲間たちを逮捕して事件は解決……で、いいのかしら」

 交渉を助ける役としてやってきたロナだが、どうにも腑に落ちない。身代金を要求しておいて皆殺しを狙うのでは、二度手間な上に相手を警戒させてしまう。それなのに馬車や隠れ家を用意したり、あまりに計画的すぎる…。

「ロナ、今はそんなに考えなくてもいい……尋問すればわかる。隊長も、たぶんそのつもり…」

 マユラがロナの肩をポンと叩く。アケミがいない現状、本当にマユラは頼りになる。

「なんだか……ようやく隊らしいことができましたね! バレーナ様のご命令で、国民を守ることもできましたし…」

「そうでしょうか。隊長の都合に巻き込まれただけのような気がしますわ」

 ハイラの感想にイザベラは懐疑的だ。いや、本当は二人共分かっている。今はどんなことをしても実績を稼がなければならない時なのだ。だが、いつまでもこんなことを続けるわけにはいかない。バレーナ王女をお守りする、確実な力を手に入れなければ…。

 アケミ隊長、早く戻ってきてください―――。

 バレーナの苦悩を間近で見るロナは、切実に願うしかなかった。









 いきなり大勢現れて、あっという間にゲイスたちを片付けてしまいましたが、その理由は次回に。

 個人的に、活躍しては恥ずかしがるマユラがかわいらしいです(笑)

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