13.
翌日、昼過ぎ。ロー一家に混じって汗水垂らして畑仕事をし、昼ご飯で一休み…。用意してもらったパンを頬張り、紅茶を一口啜ったところで、
「よし……それじゃあ腹ごなしにやるか、シロモリ」
「………」
あたしとの立ち合いは食後の運動か。舐めてくれる……!
「では……お願いします」
昨日と同じく納屋の前のスペースで木刀を構えて立つ。昨日と同じ正眼の構え……いや、やや前傾姿勢だ。
「ほう、何か企んでおるのか。学ばんのう」
ロイ老人は昨日と同じ鍬の柄で、同じ構えだ。
今日は周囲にギャラリーが多い。アケミの剣を娘のお遊戯だと思っていたのか、ロイ=ローの腕前を年寄りの昔自慢と思っていたのか、はたまた両方かもしれないが、昨日は遠巻きに見ていた家族はアケミの振る木剣の鋭さと、それをいなすロイ=ローに驚いた。おかげで昨日からロイ老人は孫たちのヒーローであり、アケミは悪役である……。そして家族によって近くの親戚に伝わり、ご近所も噂を聞き、大観衆とはいかないが、それでも二十人くらいはいる。
とりあえずそれらは無視し――……言いわけだが、昨日は油断と遠慮があった。老人にぶつけたら怪我じゃ済まないと不安になったからだ。しかし昨日手合わせをしてみて、それは無用な心配だとわかった。そもそも教えを乞いに来たのだ。全力を出さねば、失礼というものだろう………!!
踏み込みは昨日より浅い―――しかし代わりに、攻撃は鋭い。繰り出したのは「突き」だ! 槍や棒術とやり合うには剣では不利だが、ロイ老人は棒を短く持つ。そして反撃を許さないよう止めど無く突きを繰り返せば、攻めのアドバンテージは取れる。とはいえロイ老人の真骨頂は後の先にある―――当然、こちらの攻撃を上手く捌く。攻撃は一撃を狙うタイプとはいえ、ほぼ逃げに徹する形で、下がって下がって下がりまくる。いくら老人と地力の差があるとはいえ、体力が減っていくスピードは圧倒的にこちらが早い。まして、連続突きは最も筋肉を使う動作の一つ……。
「まだがんばるか。根性あるわ」
「くっ…!」
さすがに限界がきて、切先が落ちてしまう……フリをして下から斬り上げ!! が、これも読まれて空振りする…!!
「つまらん……子供の発想じゃぞ」
そう評しながらもロイ老人は踏み込んでこない。徹底的に自分のテリトリーでしか戦わない腹積もりか…。
立て直すべく再び突きを……しかしスピードは落ち、姿勢は崩れかけている。致命的な隙だ。勝負をつけるべく、ロイ老人は下がることなく棒の先でコンと木剣を捌く―――その瞬間こそ最大のチャンスだった!
伸ばした木剣をその場に「置き」、腕を引きながら身体は滑るように前へ。
空中で動かない木剣――
重心がぶれないまま踏み込む足運び――
前進と同じ速さで引く腕―――
これらの動きが連動すると、相手はまるで自分が引き寄せられたように錯覚する。それは歴戦の士であるロイ老人とて例外ではない! ロイ=ローが目を丸くしている刹那、アケミは相手の獲物に左手を伸ばす―――
「! うおっ…!?」
それでもロイ老人が集中力を取り戻すのは早かった。あと数センチのところでロイ老人は反射的に後ろに下がる。が、それは詰みを招く悪手……なぜなら武器の強奪そのものがトドメの攻撃の予備動作だからだ。このまま突っ込みながら腰を回せば右手の木剣が炸裂する!!(もちろん寸止めだが)
の、はずだったのだが……
「もらったッ―――ごっ!!?」
顎に突き上げを食らって、間抜けな声を出してしまった。思わず膝を着き、顎を抑えて悶絶していると、ロイ老人がアヒャヒャヒャと腹の立つ笑い方で見下ろしている。
「…!?」
ロイ老人の手には棒はない。あたしの手元に転がっている。
痛みを堪えながら振り返る…。迫った瞬間、ロイ老人は下がりながら、あろうことか棒を地面に投げ捨てたのだ。地面に垂直に叩きつけられ棒は地面に跳ね返り、予想もしない角度からアケミの顎を捉えたのだ。
偶然か、狙ったのか……
「すまんすまん、すまんかった、まさかあんなに上手くいくとは……決まったのは人生で三度目くらいじゃわ」
まだケタケタ笑うロイ=ロー。実際どういう場面で使ったのか……地面が柔らかいと跳ねないし、固い石があってもはね返る角度が上手くいくとは限らない。ただ………今、もし棒に槍の穂先がついていたら顎から貫かれていた。そう考えるとぞっとする……。
「しかしあんな技は初めて見たぞ。シロモリの技か?」
「……見よう見まねで」
一度だけ見た、クーラさんの技だ…。
「真似だけであれはできんぞ…末恐ろしいのう。さてさて、いい具合に腹ごなしになったし、野良に精を出すか。ククク……明日は勝てるかの?」
棒を拾い上げ、高笑いするロイ老人を、顎をさすりながら見送るしかなかった…。
その日の晩。風呂をもらってさっぱりするが、まだ顎が痛い…。いや、顎だけじゃなく、全身の筋肉も少々重い。かなり鍛えていると自負しているが、畑仕事はまた使う筋肉が違うようだ。ロイ=ローは適度に休憩を取り、適当にやっているように見えるが、歳を考えればやはり一歩抜きん出ている。それでも眠るのは誰よりも早いが。
期限は明日まで。帰りの道程を考えると、これ以上の滞在は親父殿との約束を破ることになってしまうし、それ以上に早く部隊設立計画を再始動しないと…。
しばらくぼうっとしていると、ドアがノックされる。顔を覗かせたのはロイ老人の孫娘の一人、ランだった。
「何か?」
「あの……今晩は冷えそうなので、毛布を」
「わざわざありがとう」
「あ…髪、拭きましょうか」
「ああ…」
かなり長くなってきた髪は拭くのが億劫になってきていて、それでも癖がつかないからまあいいかとそのままにしがちだったのだが……
ランには何か目的があるのか、その目にどこか意識的なものを感じる。髪のことは口実なのかもしれない。
「…じゃあ、お願いしようかな」
「はい…」
椅子に座り、後ろから髪を丁寧に拭いてもらう。それから会話が始まった。
予想通りというか、ランは村の外のこと―――特にグロニアに興味があったらしい。ランは自分と同じくらいの歳頃だが、となり村までしか行ったことがないという。
「アケミさんはすごいですね……シロモリってこの国で一番強い人なんでしょう? お祖父ちゃんが言ってました」
「一番強かったらそのお祖父ちゃんに負けないんだけど…。お祖父ちゃんだけどさ、昔はどうだったとか聞いてる? 武勇伝とか」
できれば何かヒントが欲しい――。
「もううるさいですよ。ジャファルスと休戦する前は大活躍したとか、クマ?みたいな偉い将軍は自分が育てたとか」
クマ……熊…? まさかな……。
「今でも訓練してんの? 昔の槍とか使って」
「そういうのは見たことないですけど……お祖父ちゃんの使ってる鍬が、元々槍だったとは聞いてますけど」
「あれが!? そうか……そうなのか」
やけに手に馴染んでいたと思ったら、そういうことだったのか。穂先は溶かして鍬の刃に作り替えて……。しかしそうすると、余計に手加減された感が否めない…。
「うーん……どうすれば勝てるかなぁ。どうにも手詰まりだ…」
「絶対勝てますよ! お祖父ちゃん、弟たちの相手するのにヨタヨタしてるくらいですから、普通にやったら絶対勝てます!」
「普通にねぇ…」
普通にやって勝てないから搦手を使ったのに、あたしの戦闘力は幼い子供以下らしい。
「あの……今更ですけど、いいんですか、こんな所に寝泊まりして…」
ランが髪に櫛を通してくれながら申し訳なさそうに言うのは、ここが納屋だからだ。ベッドがわりに藁を敷いて、布団代わりにキャンプに使う布を巻いて昨日は寝た。
「確かに家は狭いですけど、こんなところで寝なくても……アケミさん、貴族なのに…」
「フ、貴族だからって皆が豪華な暮らししてるわけじゃないよ。ウチなんて名前だけで貴族らしいことしてないし、親父は質素な生活の方が好きだし」
「でも……じゃあ、アケミさんがよかったら私のベッドで寝ませんか。ちょっと狭いですけど…」
「―――あのさ、」
「はい?」
立ち上がり、ランの前に立つ。ランは女にしては背が高いほうだが、それでもあたしとは十センチくらい差がある。見下ろすと、ランは息を詰まらせる。
「あたしさ―――女でもいけるんだよね」
「え…?」
すぐには意味を捉えられなかったらしい。数秒沈黙したランは、少し困ったような顔で薄く笑顔を浮かべる。
「もう、変な冗談言わないでくださいよ。私、びっくりして―――」
「冗談にするか本気にするかは、ラン次第だよ」
すっと指先で、耳たぶを撫でる。「ひゃ…」と小さく声を上げて身を震わせたランは目を丸くし………やがて燭台のわずかな光でもわかるほど顔は赤くなる…。
「あっ…あ、おっ…おやすみなさい…!」
「うん、おやすみ」
ランが飛び出して静けさを取り戻した納屋で、一人溜息を吐く。
この辺りはまだ知らないようだが、いずれ自分のことが伝われば「そういえばあの時…」となって迷惑をかけてしまう。自分としても本当に女の人が好きなのかどうかわからないが……とにかく余計なことに巻き込まないに限る。しかし最近、女たらしの才能ばかり伸びている気がする…。
「………ライラさん、どうしてるかな……」
ポツリと一人つぶやき、立てかけている長刀に手を伸ばす。
キン…と高い音を鳴らし、刀身が現れる。スルスルと抜き出された刃は、小さな火に照らされて妖しく波紋を浮かび上がらせる。もう手の震えはなくなったが、一つ深呼吸する……。
ロイ=ローが本来の槍で、あたしがこの長刀だったなら、勝負の行方は違っていただろうか……
……………いや?
「もしかして………そういうことなのか…!?」
刀を立てて切先を見つめる。闇を切り裂けそうなほどに、鋭い……。
今週は作業が滞りがち……というか、寝不足気味です。急に暑くなったせいか変に寝汗かいて目が覚めます。で、翌日は鼻水が止まらなくなるという……風邪の前兆じゃん! 気をつけましょう…。
今週末はBB戦士でスペリオルドラゴンが出ますね。SDガンダム外伝って、今見ると壮大なストーリーになってますね。分裂して転生して合体して……ファンタジーとして十分通用しますよね。設定資料集を買い逃してしまったんですがどうにか手に入らないもんスかねぇ。




