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アルタナ外伝  ―朱に染まる―  作者: 夢見無終(ムッシュ)
朱に染まる――。
110/124

39.

 夕食を終えて一服していたところに飛び込んできたアケミの剣幕に、ウェルバーはしばらく目を見開いて固まってしまっていた。

「なっ、なんだ!?」

「バレーナが……帰還した討伐隊が危ない…!」

「ええ!? あ、でも――」

「バラリウスは!?」

「そのゲンベルト隊長が、一昨日の昼間に出て行ったぞ。グロニアに向かって……あれは、討伐隊を追ったのか?」

「は!?」

 アケミには理解できなかった。バラリウスが護衛に向かったのなら、ひとまずは安心だ。だが、この計ったようなタイミング……バラリウスが動くきっかけは何だったのだ? 護衛に向かったのなら、どこから情報を得た?

「そういえばお前あてに伝言も預かっている」

「何!?」

「後ろは任せる、と」

「『後ろ』……!?? どういう意味…!? あたしにここの指揮をとれと!?」

「いや……それは無いだろ、さすがに。ゲンベルト隊が抜けても十分な戦力が揃いつつある。包囲網も狭まってきているし、俺ももう普通に兵長……ここは大隊から派遣されてきた中隊長たちの指揮下に入っているからな。お前個人にやってもらうことはもう……帰ってもいいと思うけどなぁ。まして女王陛下が心配っていうんじゃ、そっちに行ったほうがいいんじゃないか? 中隊長が行ったなら問題ないと思うがな」

「……だが、バラリウスはあたしに任せる、と…」

「確かに言ったが、具体的なことは俺も知らんし、わからん」

「………」

 立ったまましばらく考え……アケミはくるりと踵を返した。

「どこへ行く?」

「戻ります。借りた隊をそのまま置いていけないですし、一日以上前にバラリウスが発っているなら今からじゃ追いつけない。それに………あたしは囮になれるかもしれない」

「?」

 ウェルバーが首を傾げるとアケミは振り返って苦笑いした。

「目立ちやすいって自覚はあるんですよ」




 急ぎ廃村に戻ったアケミは、収集した物証とともに兵達をウェルバーの元に帰す。残ったシロモリ隊の三人は全く事態を把握できていない。

「あの……逃走した敵の追撃はしないんです…か?」

「あ?」

「あ、いえ…」

 エイナの質問を封殺するようにアケミが睨みをきかす。

「状況が変わった。盗賊団の掃討作戦をしていたゲンベルト隊が離れた。だから借りていた兵はウェルバー兵長の元へ帰還させ、減った戦力に充てる」

「あの……俺たちは…?」

 「帰りたい」と思いっきり顔に書いてあるギャランを見て、アケミは不敵な笑みを浮かべる」

「あたしらはまたビンク領に戻る」

「「へ?」」

 エイナとギャランはきょとんとしていたが、ノーマンだけは落ち着いている。当初の予定に戻っただけだ。

「いいか、よく聞け。先日の廃村での遭遇戦で、敵から今後の行動を示唆……というより、予告する発言を受けた。抽象的な内容ではあったが、おそらく王女殿下を狙うつもりで間違いないだろう」

「えぇ!? じゃあ――」

「黙って聞け」

 ギャランの頭をアケミの拳が小突く。

「狙い目はおそらく街と街の間―――どちらに逃げ込み、応援を呼ぶか迷うポイントだ。しかし残存する敵はおそらく少ない。バレーナ達を襲うのはせいぜい多くても二百といったところだろう。怪我人も多いようだが、討伐隊は四百。加えてバラリウスの隊も向かったらしい、まず敵の手はバレーナには届かない。だが、だ――――ここで横から倍の敵が現れたらどうだ? 帰還中は体力的にも辛いが、精神的なダメージが最も大きい。気持ちの上では戦い終わっているからな。お前たちも砦からグロニアに帰るときに引き返せなんて言われたらうんざりするだろう?」

「…そこまでが敵の作戦だった?」

 ノーマンが挙手して発言する。アケミは首を振った。

「いや、攻め方を変えたというべきだろう。敵の戦力は限られているし、奴らにとってここは敵地だ。確実なチャンスをモノにするに越したことはない。奴らにとってはおそらく最後の手だろうと思う」

「でも……まだ数百もの敵がいるとは思えません。国境は厳重に警備されているはずですし、潜伏する場所ももはやないのでは……」

 ノーマンと同じように挙手したエイナが質問する。

「…最初からすでにエレステル内にいたならどうだ? 気づかないし、気づけない」

「え……どこに?」

 二人を真似してギャランが挙手するがアケミは小突く。「何で!?」と文句を言うギャランをアケミは無視。エイナも知らんぷりだ。

「だからビンク領に向かう。未だ証拠はないが、モルゾート=ビンクが奴らに物資や基地まで提供していたのは間違いない。なら、まだ盗賊団を囲っていてもおかしくはない。たとえば私兵として雇っていれば、全く不自然じゃない。むしろ一番可能性が高い……屋敷の中に入れられるからな。貴族が私兵を持つこと自体は問題ではないし、傭兵も多いからイチイチ出自を確認することもない。最も自然な形だといえる。だから奴らの切り札はビンク領から出てくるはずだ。あたしたちはそれを見張り、動けないように牽制する」

「で、でも……」

 ギャランが再三口を挟み、アケミは「何だ?」と聞きながら見えるように拳を握る。

「ほら、言ってみろ」

「け、牽制するのが目的なら、この人数じゃ効果無いんじゃ……」

 アケミは拳を握った手を振り上げるも、身構えるギャランの前でぴたりと止めた。

「……それは正論だが、間違いだ。出たら出たでいいんだよ、ビンクと奴らに繋がりがあることが証明されるだろう?」

「証明されても、奴らが王女様の元まで行ったら意味ないですよ!」

「誰が行かせると言った」

「だって、たった四人じゃ止められ――――……あっ」

 その時、ギャランは思い出した。アケミが以前に話していたことを。つまり、アケミは最初から……

「――わかりきったことを聞くな」

 ギャランが油断したところをアケミはまた小突いた。



 しかし―――。

 バラリウスは何かしらの確信を得て出た。護衛するつもりなら最初から討伐隊に随行すればいいはず、そうしなかった理由があるのだろう。問題はタイミング……バラリウスが合流する前に事が起こった場合、ブラックダガーが対応できるかどうかだが……。

 ここに来てアケミは、この戦いが始まってからバレーナやミオと一度も顔を合わせていないことを後悔していた。










 ―――その声は、明け方の静かな林に響き渡った。

「敵襲―――!!!」

 声の主はミオだ。その前に気配を察知していたソウカはすでに敵より先に矢を放ち、一人仕留めている。しかし討伐隊の他の面々の動きは鈍かった。

 明け方は、まさに絶妙のタイミングだった。夜の見張りが気の緩む時間帯であり、松明などの照明が必要となくなり発見されにくくなる時間帯、なおかつ標的を見定めるための明るさがある時間帯――――襲撃にかけては、エレステル正規軍でも舌を巻くほどの狡猾さを持って攻めて来るのである。

 さらに討伐軍の足が遅いことも影響している。負傷者の影響でスムーズに進行できず、安全な立地でのキャンプができていない。見通しの悪さは敵の容易な接近を招くことになる。事実、ソウカは気配に気付いても、矢を射ることができたのは五十メートルまで近づかれてからだ。これでもかなりの離れ業だが、敵が突撃したならば二十秒とかからない距離、決して遠くはない。そのわずかな間に戦闘態勢を取れたのは、討伐隊全体の三割にも満たなかった。

「ブラックダガーはバレーナ様の元へ集合!」

 あらかじめ非常時の段取りは決めてある。バレーナを守護し、避難するのが第一。テントの中からバレーナ、そして親衛隊のレビィと衣装担当のドナリエも出てくる。他のブラックダガーのメンバーも方々から集まってくる。ここまでは予定通りだったのだが―――

「―――負傷者の救助を最優先にしろ!!」

 予定外の命令を出したのは他ならぬバレーナだった!

「バレーナ様、いけません! 御身の無事を一番にお考え下さい!」

 レビィが強く諌めるが、バレーナはもう剣を取っている。

「彼らは私のために傷ついているのだぞ! 見放すことはできん! 奴らを一掃するぞ!!」

 黒剣を引き抜き、襲来する敵に向かって一人駆け出すバレーナ! ミオたちも追って応戦を開始する。討伐隊とて、何の予防策もしていなかったわけではない。簡易柵の設置は敵のスムーズな侵攻をある程度阻害し、一斉攻撃の事態だけは避けている。それに奇襲の怖さはもう味わっている。段取りや役割も意思疎通が成されている。練度の高いブラックダガーは、劣勢とはいえ水際で敵を食い止めていたのだが―――

 ドスッ――…!

「バレーナ様っ!?」

 飛来した矢が、猛然と黒剣を振るうバレーナを射抜いてしまった―――。





 更新です。歯が痛いです。虫歯かなぁ…。


 アケミがバレーナたちと顔を合わせていれば――果たしてどうなったのか? それはわかりませんが、少なくとも違う結果だったはずです。そうならなかったのは、元を辿ればウラノがアケミを引き離したから……。そう、ここに来てウラノの呪いが効いてきたのです。

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