ポイント監視委員会
不定期です。
何とか完結できますように。
「規定ポイントを超過した。ごくろうさん」
男はそう冷たく放つ。
「ちょっと待ってください!お願いします!妻も子供もいるんです!・・・ここで消える訳にはいかないんです・・・お願いします・・・もうしませんから・・・お願いします・・・」
「駄目だ。お前がこの世界にいることが大きな迷惑なのだ。早く消えろ」
「だからちょっと待ってくださいって!・・・たかが浮気でしょ?・・・それも一回で・・・あんまりじゃないですか・・・」
「知らん。それがお前と妻が婚約届けに記載したポイントの加算方法の詳細なのだ。こっちがどうこう口出すことではない」
「いやそれはそうですけどね?僕は納得してなかったんですよ実際。他のみんなは少なくても三回とか四回ですよ、多い奴なんて十回とかいう奴もいるんですよ?なのになんで僕だけ一回なんですか!・・・あんまりだよ・・・」
「・・・・・・言いたいことは言ったか?ならもう行け」
男はそう言うと奥の部屋に姿を消す。
「いやちょっと!ちょっと!待ってくださいって!もうしませんから!お願いしますって!ちょっと!ちょっと!・・・おい!おい!やめろー!やめろって!うわぁぁぁぁぁぁああーーー・・・・」
「・・・一回か・・・俺には無理だなそんな契約・・・」
部屋に入った男にチャラそうな風貌をした男が声をかける。
「そういう契約なんだ、しかたない」
「まあそりゃそうなんだろうけどよ・・・しかしまあ、お前もえらく冷たい落とし方するもんだな、え?」
「落とし方に冷たいもくそもあるか」
男はそうフッと鼻で笑うと自分のデスクにつく。
「さすが鉄の男だよナックル。心も体も」
「ルカこそ女王様とかなんとか言われてなかったか?」
「そうよ。女王様よ。嫌いじゃないわその異名」
「・・・異名って・・・」
「何よリュウ、あんたは何かないの?」
「ないよそんなの・・・あ、あるか・・・イケメン・・・イケメン・・・あ、違う・・・王子・・・王子・・プレイ・・・いや・・・」
「今考えるんじゃないわよ」
「・・・は・・はあ?・・・考えてねえよ!っていうかさ・・・聞いたかよルカ、さっきナックルが担当した奴、たった一回浮気しただけで落とされたんだよ、一回だよ?それも一夜を過ごしただけ」
「何よ。重罪じゃない」
「はあ?浮気ぐらい誰でもするっての!そんなんで落とされたらもう連日長蛇の列になるぞここ。もう人が溢れ過ぎて」
「そうなったら私が担当するわそのクズたち。一人一人強烈なビンタ入れてから落としてやるから」
「・・・いやいや・・・なあ?ナックル、正直厳しすぎねえか?たった一回だぜ?」
「厳しいか厳しくないかは相手次第だ。あの男の婚約届けを見たが浮気についてのことだけじゃなくほかにも細かく契約内容が記載されていた。ポイントの設定も様々だ。それだけ信用のない男なんだろう」
「婚約届けのポイント詳細は、その夫婦の信頼関係を表すって言うからね。数が多ければ多いほどそれだけ信頼関係が築けてないってこと。リュウ、あんたも気をつけなさいよ。まああんたが婚約届けを書くことなんて一生ないと思うけど」
「何言ってんだよ、ルカ、すぐだよすぐ!・・・まあしかし、この手の事案が来ると毎回思うんだけどよ、そんな細かく設定するんだったら結婚なんかしなきゃいいのに。ただでさえポイントが加算されてしまう行為なんてゴロゴロしてんのによ、何も自分から増やすことなんてねえじゃん」
「ばーか。増やしてでも、例えリスクを背負ってでも、それでも一緒になりたい!その気持ちが素晴らしいじゃない。まあ。遊び人のあんたには分からないわよ」
「・・・へー・・・分かんないわー・・・っていうかルカってそんなロマンチストな部分あったんだ・・・なんかちょっと・・・」
「なんかちょっと何よ?私だって結婚には憧れてるの。結婚したらこんな仕事さっさと辞めて生涯旦那さんと、子供の為に尽くすの」
「え?辞めんの?この仕事」
「当り前じゃない。こんな鬼みたいなこといつまでもやってられないわよ。毎日毎日人を叩き落してるのよ?友達にも言えないし、親にだって内緒にしてるわ。誰も得しないものこんな仕事。私達のことを世間はなんて言ってるか知ってる?地獄の門番よ?絶対になりたくない職業三年連続堂々の一位よ。この職業が出来たのがちょうど三年前なのに、出来たその年から一位を取り続けてるって、それも圧倒的に」
「・・・まあなりたくわないわな・・・その通り人を地獄に送っている職業だから。でもよ、このポイント制度が導入された今、このポイント監視委員会って職業こそが、唯一の勝ち組なんじゃねえか?他はだって、どれだけ金を稼ごうが、どれだけ偉くなろうがポイントが規定数を超えた段階で即落ちなんだからよ」
「・・・・・・でも規定を超えなければいいだけでしょ?」
「まあ確かにそうだけど、どの家庭がどんな設定をしてるか分かんないぞ?そんなことでっていうようなものだってこれから沢山出てくるよ。ぶっちゃけこのポイント制度だって王の気まぐれだし」
「気まぐれではないだろ」
「え?」
急にそれまで黙っていたナックルが割って入る。
「気まぐれではない。この乱れきった世の中、ありふれた人間の数々、誰がどんなことをし、どこで生き、どこで息絶えるのか、そんなことを全て王室で把握するのは不可能だ。この制度を導入するまで我が国は、隣国のどの国よりも、荒み、乱れ、腐りきっていた。ひとえに王室のせいとは言えないが、どれだけ諸国から注意を受けようと、警告を受けようと、それをすベて受け流していたのは事実。それが三年前、前ユーリス王亡き後、新たに即位したグランリー王の国を思う熱いお気持ちが生んだこの制度は、ありふれた人々の生活を全て国が管理するのではなく、第一段階として、その家庭、家庭にルールを自ら設定させ、その家庭ごとに小さな法治国家を作り、それを破った者はポイントが加算されていく。規定されたポイント超えた者はその家庭とは強制的に縁を切られ、ここに連れて来られる。我々はその者が破った内容を確認し、王の権限のもと・・・」
「地獄に落とす・・・だろ?・・・分かったよお前のその愛国精神は・・・もう聞き飽きたっての・・・」
「前から思ってたんだけどさ、ナックルっていつも王室がとか、王が、とか言うけどさ、そんなに上に興味がるの?」
「興味?」
少しイラっとしたような様子のナックルにルカは慌てる。
「興味っていうかさ・・・そう!愛国心!・・・国をすごい愛してるんだなあって思って・・・ほら、普通あんまり言わないじゃん?っていうか気にしてないじゃん?王室がどうとか、ねえ」
「それこそが普通じゃない。むしろ俺が普通だ。国民がそうやってあまりにも、王や王室の存在を無視し、いや、違うな。むしろまるでこの国の飾りのようにそこにぶら下がっているものとして扱ってきたからこそ、この国は堕落したんだ。王の、王室の存在意義を誰も理解しようとせず、お金を持ってるからとか、暇そうにしてるからとか、とってつけたかのような理屈を並べては王室を目の敵にせんとする輩まで出てきた。そんなことをするならばと、グランリー王は自分の存在意義を国民に植え付けるとともに、ならば自らが、自らの力で生きてみよとポイント制度を導入した」
「でもよ、正直無責任じゃねえか?ちょっとルールを破ったくらいで、さっきの奴だってよ、かわいそうじゃねえか浮気しただけで地獄行きって・・・俺ならもうちょっと定めるけどな、それこそ俺たちが、これは地獄行きにふさわしいとか、ふさわしくないって決めるとかさ、ポイント超過したからって全員地獄に落とすってのは・・・」
「地獄地獄っていうが」
「え?」
「実情を知らない者たちが勝手に地獄と言っているだけで実際は地獄などではない」
「地獄だろあんなの、だって溢れてんだぜ?ポイント超過した奴で。犯罪者とかの概念が無いせいで、人を殺しまくった奴もいれば、とんでもなく金をだまし取った奴だっている。人を人と思わない奴もいれば、怪力を振り回せば何とでもなると思ってる馬鹿もいる。そんな中によ、ちょっと浮気しただけで放り込まれるって地獄同然だろ」
「勘違いするな。あそこは刑務所じゃない」
「刑務所みたいなもんだよ。刑期も懲役もない」
「再生だ」
「あ?」
「人間として、再生する。文字通り地下から這い上がってくる。その為の場所だあそこは・・・・・・アンダーグラウンドという場所は」