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巡る世界のいつかの空  作者: 桜咲 香恋
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詠われた旋律

翌日、俺はカーテンの隙間からこぼれる眩い光によって目を覚ました。睡たい目を擦って部屋の中見渡したがシュラビーレさんの姿はなかった。そのままテーブルの上の時計に視線を移すとすでに11時を過ぎており、初日からそうそう寝坊していることに気がつく。俺は真新しい制服に身を包むと軽く部屋を整えてから図書室へと向かうことにした。




図書室の中へ入ると今が授業中のせいか人の気配はなかった。俺は天井へとのびる螺旋階段を登って最上階フロアを目指した。



軽く息を切らして最上階に着くと、フロアから微かに音が聞こえてきた。俺はそれに引き寄せられるようにおそるおそる近づく。小窓が開いているのか、棚の間を心地よい風が通り抜けていた。




『…あ』



そして俺がそこで見たのは、暖かな太陽光に照らされ、栗色の髪の毛を春風に揺らす美しい青年だった。テーブルの上には古ぼけた本が置かれ、そこからは青白い光が放たれている。彼はそれを見つめながらなにかの旋律を詠っていた。





その幻想的な空間に目を奪われた、それは一瞬。その直後、突如として自分の背後に人の気配を感じ、はっとする。





『さぼり?』




耳元で甘い声がきこえる。




『…っ…!?』



瞬時に振り返るとそこには今目の前に居たはずの青年が立っていた。俺はびっくりして咄嗟に声をだす。




『いや…あの…、すみません。邪魔するつもりは』




『邪魔なんかじゃないよ…って、あれ?』



そう言うと彼が俺の顔を見つめて急ににやりと笑った。



『…あぁ…君が昨日の…』




『え…』





『ねぇ君名前は?俺は二年のレイト』




『俺は一年の…ユウリスっていいます』



すると彼は、そう…覚えておくよと意味深かつ意地悪そうに微笑む。そして机の上の本を折りたたみながら再び口を開いた。




『そうだ、ユウリス…うぅん、ユウ君?悪いんだけど、俺がここにいたことは誰にも』




そう彼が呟いた瞬間だった。




―ダダダダダッ





『レイトッ!!』



『あ』




物凄いスピードで誰かが来たと思ったらそれは昨晩を俺を助けてくれた恩人…シュラビーレ先輩だった。



『シュラビーレ先輩!』



『ん?ユウリスじゃないか。昨晩はよく眠れたか?部屋に戻ったらいなかったが…ここに来ていたか』





『すみません、あの、昨晩はお世話になりました』




『礼には及ばん。それよりも…』



そういうとシュラビーレ先輩はレイト先輩を睨む。



『お顔が怖いですよ』



レイト先輩がにっこりと笑う。




『お前はなぜいつも授業にでない』



『授業つまんないんです』



『お前…』



『姉上だっていつもいないじゃないですか』




―え……



『私にはきちんとした理由がある』




ーえ、いま…





『あの、すみません』




『…?どうした』



俺は2人の会話に割ってはいる。



『あの二人は姉弟なんですか』



『あぁ、母親は違うがな』



二人を見比べると腹違いなこともあるのか髪の色も違うし、あまり似てはいないが、瞳の色は同じ翡翠色だった。





するとその時、




―ダダダダダッ




『シュラ!貴女に伝言!』





そう言って走ってくるのは昨日知り合ったルーナであった。



『ルーナか。どうした』



『“あの方“が貴女にお話があるっておっしゃっていたわ……ん?あら…?ユウリスじゃない』



彼女は俺の存在に気がつくとアメジスト色の瞳をきらきらと輝かせた。




『ルーナ…シュラビーレ先輩と知り合いなのか?』



『えぇ、知り合いもなにも。幼なじみよ』




するとレイト先輩が口をはさむ。




『ルーナ、小さい頃はとても素直で可愛いかったんだよ』




『じゃぁ…今は違うってことかしら?』




『今は美人なのに、毒舌…』




『貴方は昔から変わらないわね、このシスコン男』




そういってルーナは髪をかきあげてレイト先輩を横目で見る。

この学院に来て初めて出来た知り合いが皆顔見知りとは…なんとも偶然であった。





『あの…では、シュラビーレ先輩とレイト先輩は二年生で…』




『ルーナは一年生だから…君と同じだね』



『宜しくね…ユウリス』




そう言って彼女の微笑んだ顔は天使のごとく愛らしくて、思わずドキリとする。




すると、シュラビーレ先輩が階段の方へと足先を変えた。




『では、私は用事があるので失礼するよ』




『あ、俺も行きます姉上…!じゃぁねユウ君』




そう言って去るシュラビーレ先輩のあとをレイト先輩も追う。



そうして取り残された俺達だったが、図書室の時計をみると完全にお昼休憩の時間だったので、俺も歩き出す。




『俺も昼を食いにいくから…。じゃぁまたな、ルーナ。昨日はありがとう。』



そう言って踵を返すと、




『ちょ…ちょっと…待って…!』




突然、ブレザーの裾をきゅっとつままれた。




『どうした…』




『あ、あの…い…』



『…?』



『…一緒に、お昼食べよ…』



そう言って伏し目がちに呟く彼女の頬は淡い桃色に染まっていた。俺はその姿を見てなぜかぎゅっと胸が締め付けられた…そう、なぜか切なくそして、とても愛おしいような、そんな感覚。




こうして俺は彼らに出逢って、

そして、物語を紡ぎ始めた。

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