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巡る世界のいつかの空  作者: 桜咲 香恋
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迫りくる宵闇

あの恐ろしい出来事に見舞われた後、目の前に突然現れた彼女に状況の説明を請われたので、俺はまだ思考が安定しないまま学院からの経緯を話した。







『すみません…あの、助けてもらって。』





俺は少しずつ落ち着きを取り戻しながら、そう言って彼女に頭を下げた。







『いや礼には及ばない…君も突然のことで驚いただろう。…そうだ…今日は学院の寮には帰らないのか』




ふと彼女が俺の手にしている学院の制服をちらりと見て言った。






『あぁ、あの…荷物をまとめるためにいったん家に帰るところだったんです』






まぁ、こんなことになるなら家に帰るのではなかったのかもしれないが…。



と、その時、





『そうか…しかし、また先ほどの奴らの仲間が襲撃してくる可能性がある……良かったら荷物をまとめて私の部屋にこないか』




彼女は腕組みをしながらそう当たり前のようにそう、すました顔で言い放った。





『え…いや…』







彼女の先ほどの戦いをみて驚くほどの腕前の剣士であることは俺も何となくは理解ができたし、次に襲われたら俺はおそらく死ぬだろう。




助けてくれたということから悪い人ではないようにも伺えるし、それに彼女が着ている制服は聖ファストル魔術学院のものであるからおそらくは貴族のお嬢様なんだろう。しかしちょっと待て、いい人悪い人以前に彼女は女性だ。こんな出逢って間もない男の俺を自分の部屋に招き入れようなんて…。そもそも、彼女が俺を守らねばならない理由はどこにもないはずだ。人が良すぎるというか、無防備すぎるというか…。






そんなことをもやもやと考えていると、目の前の彼女が困った顔をして首を傾げた。






『すまない…、急にこのようなことを言って怪しむのも無理はないな…、私はシュラビーレ。君と同じ聖ファストル魔術学院に通う2年生だ。』



彼女は2年生…ということは俺の先輩にあたる。







『…すみません、自己紹介がまだでした。俺はユウリスっていいます。訳あって聖ファストル魔術学院に入学することになりました…。』




俺は昼間ルーナの言っていた通り一応家名は名乗らなかった。その理由は未だによくわからないが。






『そうか。宜しくな。…よし、それではユウリス。私の提案はいかがかな?』



『え、いや…』




ふと腕を組んでふっと微笑むシュラビーレ先輩。この人は一体…どんなお人好しなのだろうか。




俺は改めて先程あった出来事を思い出す。あの時襲って来た奴らの仲間がまた襲ってくる可能性はないとはいえない…。仮にもし襲われたら…俺には為すすべもないだろう。ここは彼女の世話になるのが最善かもしれない。俺は姿勢を改めて彼女に言った。




『今日だけ世話になっても…構いませんか』



俺は本当にこれでよかったのかという気持ちを含めながら彼女を見る。すると、




『勿論だ、では行こうか』




彼女はふっと優しく微笑むと一言そう言って身を翻した。




俺達は再び学院へと向かった。







ーーーーーーーーーーーーーー





『狭くて悪いが、自由に使ってくれ』







俺は今聖ファストル魔術学院のシュラビーレ先輩の寮部屋に来ていた。彼女は狭いと言ったが、全くそのようなことはない。シンプルであるが上品な部屋だった。







『なにからなにまですみません…』






そう言って彼女の方をみた時、






ーおいおいおい!なにやってんだこの人!





彼女が返り血で染まったブラウスのボタンを外していた。俺は咄嗟に目をそむける。彼女は想像以上に無防備らしい。







『いや、気にするな…ここにいれば奴らも追って来れないだろう。…そうだ君はベッドを使ってくれ』






『そんな、俺は床で構いません』




彼女の方に向き直るとブラウスは綺麗なものに代わっており、穢れのない真っ白なブレザーを羽織って入口の方へ歩いていた。








『私はこれからやることがあるんだ、君はゆっくり休んでいてくれ……では、おやすみ』





『え、あ、はい!』


バタン…







そう言って彼女は出て行ってしまった。こんな時間からなにをしに行ったんだろう…。





俺は疑問に思ったが、さすがに色々あって疲れていたのでそっとソファに腰掛けた。








ー本当にこれからどうなってしまうんだろうか…。




何もかもが急展開すぎて俺の思考回路は現在、ショートしていた。






俺は今日の事を思い出し数秒後、そっと重たい瞳を閉じた。




ーーーーーーーーーー







その頃…。シュラビーレは寮を出て学院の敷地内を歩いていた。しばらくすると門の前までたどり着き、彼女はそこで人影を捉える。





すると、



『お仕事、お疲れ様です』




突如聞こえてきたのは悪戯っぽい声音。





『お前もな』






シュラビーレはそれに対して下さい溜息混じりに言う。






『これから後始末にでも行くんですか? 』






『悪い言い方をするな、調べものだ』







『そう言えばあのイケメン君、貴女の部屋に匿ったんですね…俺、妬いちゃうなぁ…』






『私をからかっているのか』


シュラビーレがキッと睨む。






『はいはい、ごめんなさい、では…』





そう言って影は薄笑いを残し、青い光の粒子に包まれて消えてしまったのであった。

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