アメジストの天使
『…っ……』
突然の感覚についていけなかった俺は立位をたもてなくなって、見知らぬ芝生の上に転がっていた。
『くっ……なにが起こっ………て………っ』
ふいに顔をあげた時…俺は目の前に広がった景色に息をのんだ。
どこまでも続く青空の下、様々な色に彩られた花々がいっぱいに広がる丘があり、いつもは遠くに見える白璧の王城がすぐ間近に見下ろしていた。
俺はゆっくりと立ち上がると丘を歩いた。
しばらく歩いていると桃色の花びらが暖かな風にのって空間を舞いはじめる。丘の一番見晴らしのよさそうな場所に桜の木が静かに佇んでいた。俺は花びらが舞い散るその空間で甘い香りに誘われるように丘を歩いた。
一際目立った桜の木の下までたどり着く……そして間もなく、俺は息を飲んだ。
淡い虹色の空間に、ひとりの少女がいた。
透き通ったアメジスト色のシルクのような髪と宝石のような瞳…、白い雪のような肌に桜色の唇…。
それはまるで天使のような…、美しく儚げで…。
ドクン…
ドクン…
しばらく俺のなかの時が止まったのち、彼女の宝石のような瞳が俺を見つめた。
『…貴方は…』
俺は彼女を見つめたまま、うまく言葉を紡ぐことができない。
『……、俺は…』
『珍しいわ…こんなところに人がくるなんて』
『あぁ…そ…そうなのか』
ぎこちないやりとりの後、彼女は呆然と立ち尽くす俺を上から下まで見直して、あぁ…という顔をすると制服を優雅に翻し、足先の向きを変えた。
『…案内するわ、迷子さん…』
これが彼女との出逢い。
俺の人生の歯車が音を立て始めた瞬間だった。