物語その1
今日も窓の外で聞こえる銃撃音。止まない銃撃音。醜い争い。私は前から思う。なんとかならないものか……、と。しかし、非常に残念なことに私はどこにでもいる、一介の魔法使い。この国や、今回の戦い相手の国の王に訴える権力など、微塵もない。
魔界歴六百十四年。今から四年ほど前からこの戦争は続いている。双子の王子の継承者争いという、実によくある話だ。おかげで、発展しかけていたこの国は、戦いのために成長をいったん止めざるを得なくなった。木造の古い家が並ぶ町。私が大好きな町。いずれこの町も戦いに巻き込まれてしまうのだろうか。
「やっほー、アラスター。お邪魔するよー」
戦争だというのにこの呑気なしゃべり方は。ドアに目を向けると、予想通り眩しいオレンジ色の髪の毛の細身の女性、ジルがいた。魔法使いらしくローブをはおっているものの、この国の暗黙のルールである、女性は長いワンピースを着る事、というのをことごとく破っている斬新な格好をしているのは、彼女が私と同じくすこし変わった思考の持ち主だからであろう。因みに、ジルが今日来ているのはショートパンツ、というものらしい。なんじゃそりゃ? という感じだが。
「……今日もきたのか、ジル」
「なによアラスター。駄目なの?」
駄目ではない。なんたってジルは、変わった考えをする私を唯一否定もせず、肯定もしない、良き理解者なのだ。それは、この長く続く戦争についても変わらなかった。