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8.デビュー戦  VSガリ勉集団 ②

 笑いのキーワードは猫ちゃんだ。設計図の図解が出現する順番通りに記載されていたとすると、一つ目は可愛らしい猫ちゃんがモモンガみたいに全身をのぺーっと広げるというものだったはず。詳細はわからなかったけど、きっとあれは空飛ぶ猫ちゃんに違いない。

 どうナビするかはもう頭の中に浮かんである。さぁ、いつでも来なさい。


 私は誰よりも先に猫ちゃんを発見すべく、周囲を注意深く見渡し続けた。 

 もちろんその間もナビゲートをするのを忘れない。


 お洒落なコートを着込んで不格好なモデル歩きをしている西洋甲冑に、「まずはその鎧を脱ぐところから始めなさい!」とツッコミを入れる。

 炭酸飲料らしきものをグビグビと飲み干してゲップをしているガイコツを見かけて、「酸性の飲み物は骨が溶ける危険性がありますので、良いガイコツの皆さんは絶対に真似しないでくださーい」と、注意を促してみる。ちなみにガイコツだから飲み物が上から下にだだ漏れだけど、ありがちすぎるのでそれはツッコまない。

 等々、小ネタをはさんではお客様にスルーされるを繰り返すこと数分、ついにそれは姿を現した。


「見てください、あんな所に可愛らしい猫ちゃんがいますよ」


 なぜか一軒の家の壁から横に伸びている棒。その上に艶やかな茶色い毛並みの猫ちゃんがチョコンと座っていて、パッチリ眼でこちらを見ている。

 そのあまりの可愛さからか、ガリ勉君達が猫ちゃんに対して一斉に熱い視線をおくり始めた。

 

 うん、認める。猫ちゃん、アンタは私の100倍可愛いよ。しかも可愛いだけじゃなくて、すごい能力まで持ってるの。さぁ見せてやるのよ、あなたが華麗に空を飛ぶところをね。


「ふふふ、どうやら皆様、この猫ちゃんの可愛さにメロメロのようですね。でもこの子は可愛いだけではなくて、実はすごい能力を持っているのです」


 ナビをしながらジッと様子を伺っていると、急に猫ちゃんの目つきがキリっとなり、こちらを威嚇するような体勢を取って──来る!


「さぁ、とくと御覧あれ、猫ちゃんが体を大きく広げて大空へと羽ばたいて……いかないんかい!」


 ハッ、思わず素でツッコミを入れてしまった。

 だって、猫ちゃんが飛ばないんだもん。飛ばない猫はただの、


「どうやら屋根だったようですね……」


 だ。


 図解通り、猫ちゃんは自分の体をビヨーンと伸ばして絨毯のように広げたわけだけど、そこからが全くの予想外だった。

 前足でしっかりと棒に掴まり、後ろ足を後方にもう一本設置されている棒にかける。するとどうだろう、猫ちゃんの簡易屋根の出来上がりだ。その下ではテーブル越しに向かい合ったガイコツカップルが優雅に紅茶を飲んでいる。もちろんだだ漏れだ。


「なんと猫ちゃんは携帯型の簡易的な屋根だったのです。これはすごい便利で、生き物なので持ち運ばなくても勝手に歩いてついてきてくれるのです。ただ、猫ちゃんが掴まるための2本の棒なんてそう都合良くあるはずがないので、皆さん頑張って探してくださいねー」


 悪い笑みを浮かべてお客様に大袈裟に手を振るが、反応は当然のごとくない。

 そうよ、私の言うとおりじゃない。便利だと思って作ったのだろうけど実はかなり不便な上に、何より猫ちゃんが可哀想だ。手足がプルプルしちゃってるし、今日は晴れだからいいけど、雨が降ったらせっかくの綺麗な茶色の毛が台無しだ。動物虐待もいいところよ。あ、それも言っておこう。


「えー皆様、先ほどは可愛い猫ちゃんを屋根にするという非道極まりない行為をお見せしたことを心から謝罪したします。イグルーさんには私からきつく言っておきますので、どうか動物愛護団体に連絡するのだけは……どうぞどうぞ!」


 よし、往年の人気お笑いトリオの鉄板ギャグのごとく華麗な手の平返しが決まったわ。

 完全に読みが外れたわりには、うまくリカバリーできたと思う。なのに、あんなに猫ちゃんに興味を持っていたくせに最後尾の女性が苦笑している以外は誰一人として反応しようとせず、また熱心にメモを取り始めている。この人達は私のナビが耳へ侵入するのを器用にピンポイントで弾いてるのではないだろうか。私ってナビゲーターとしてセンスないのかなぁ……。


 いや違う。センスがないのは猫を屋根にしようと考えたジュニアの方だ。あそこは普通飛ばすでしょう。それにファンタジーとか言いつつ可愛い動物使ってる時点でメルヘンチック寄りだっての。

 そうだ、悪いのはジュニアだ。私のナビは全く悪くないんだ。レッツ、ポジティブシンキングよ。


 下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる。いくらジュニアと私のセンスに食い違いがあるとしても、一つぐらいは合致するはずだ。その時がくるまで、私は耐えてみせる。耐えて耐えて耐えまくって、一発逆転の笑いの大花火を打ち上げてやる。


 しかし、そんな私の意気込みも虚しく、私とジュニアのセンスはまったくマッチングすることなく、ボートは無情にも進んでいくのだった。

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