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6.私まだギリギリ10代なんですけど!?

「わぁ、本当に私の要望通りになってる」


 昨日、私はジュニアに一つお願いをしていた。それは何を隠そう、ボートを改造して欲しいというものだった。まさか一晩で本当にやってしまうとは、魔法おそるべし。


 改造箇所は大きく分けて二つで、一つは2階の撤廃だ。ボートの屋根部分が綺麗に無くなっていて、客席から空が丸見えになっている。やっぱりナビゲートはお客様と向かいあって一人一人の表情を伺いながらやらないとダメだ。ましてや自分だけお客様の上部にいるなんて論外すぎるよ。


 そしてもう一つの改造点は──


「どうだい、ボートの出来は。君が言うとおりの仕様で一から作り直したんだよ」

「──っ!」 


 人は声で人を殺せる。ソースは私。

 背後から突然ドスのきいた声で刺された私は、一瞬心臓が停止した。私が老人なら確実にポックリいってる。


「ちょっともう、イグルーさん。背後からいきなり話かけないでくださいよ。死んだらどうしてくれるんですか」

「なに、君の世界では背後から話しかけると死ぬ可能性があるのか。肝に銘じておこう」


 うん、否定するの面倒だし都合が良いから、それでいいです。


「それで、何か用ですか?」

「用って、俺はお客さんをボートまで先導してきたのさ」


 ジュニアがくいっと顎を向けた先ではお客様らしき団体が次々とボートに乗っている最中だった。もうすぐ私のデビュー戦が始まるんだ。うぅ、胃がきりきりしてきた……。


「で、ボートの出来はどうなんだい?」

「あ、はい、とても良い感じだと思いますよ」

「それはよかった。でも2階はいいとして、あの舵には一体どういう意味があるの? 昨日も言ったけど、あのボートは俺の魔力で操作するから、あれをいくら回しても思い通りに動かすのは無理だよ」


 ジュニアの言う通り、木製のしっかりした造りのボートには、エンジンはおろかオールのような物すら一切見当たらなかった。本当に動力は魔力らしい。まぁ、私にはそんな事は関係ない。


「いいんです。あくまであれはパフォーマンス用なんですから。回せればそれでいいんですよ」

「ふーん……ならいいけど」


 そう、舵はナビゲーターにとってボート上で唯一の小道具なのだ。そして図解を見る限り、今回も強力な武器になってくれるはずだ。そうだ、一応確認してみよう。


「あのあの、これってやっぱりアレですよね」


 私が設計図のあるページを突きだして問いつめると、ジュニアは「んー? ああ、アレだよ」とあっさり肯定。よっしゃぁ、ビンゴ!

 もしかしたらこれはジュニアが私にくれたチャンスなのかもしれない。何だかんだいって、やっぱり優しいのかも。


「そういえば、君の年齢はいくつなんだ?」

「え? 19歳ですけど?」

「ふーん、思ったより年増なんだな」

「はぁ!? と、と、と……もごもご!」

「こら、大声出すんじゃない。客に聞こえるだろうが」


 年増って言った。シミ一つないツルツルお肌の乙女に向かって年増って言った。何なの、この人はいちいち私の好感度をマイナスに保たないと気が済まないの!?   

 てか苦しい、息できないんですけど。


「むーむーむー!」

「おっと、すまない」

「ぷはぁ──ぜぇぜぇ……もう、いったい何なんですか。失礼極まりないこと言った上に口と鼻塞いで殺そうとするなんて最低よ、このロリコン」


 必死でジュニアの腕をタップすると、私の呼吸を阻止していた大きな手は素早く退いた。息を整えながらちらっとボートの方を覗いてみると、お客様達は誰一人こちらに振り向くことなく静かに席に座っている。


「誰がロリコンだ。大声出そうとするのが悪いんだろ。そんな事よりも君はそうだな……7歳だ。19歳はさすがに客の印象が悪い」

「な、7歳ですって!? たしかに私はよく童顔っていわれますけど、さすがにそれは無理があるでしょ。もしフォローのつもりで言ってるならデリカシー無いにも程があります。また年増って言ったし!」


 そもそも7歳にナビゲートさせてる方が印象悪いっての!


「あーもう、何でもいいからそういう事にしておいてくれ。とにかくもう出航だから行った行った!」

「ちょ、ちょっと押さないでください。まだ話はおわってない……」


 ジュニアが強引に私の背中を押してボートまで連れていこうとしたその時、建物のドアが勢いよく開いてそこから一人の女性がこちらに走り寄ってきた。手には赤ん坊を抱き抱えている。建物の中からアルバリオンがこっそりこちらを見ている事から察するに、急いでいたこの女性は受付を通さずに直接こちらに押し掛けてきたと思われる。


「あの、すみません。まだ乗れるでしょうか?」

「えっと、一席空いてはいますが、あそこは本来客席じゃないので少し座り心地が悪いですがよろしいですか?」


 ジュニアがボートの状況を確認しながら答えた。たしかにボートの最後尾には一席だけ空きがあったが、客席がロビーと同じタンポポの椅子なのに対して、それだけは木製のごく普通な椅子だった。たぶんジュニアが随伴するときに座る補助席といったところかしら。


「はい、それで全然構いません。それであの……この子なんですが……」


 女性が後ろめたそうに赤ん坊に目をやると、ジュニアが「その子でしたら、私がお預かりしましょう」と、赤ん坊に手をさしのべて爽やかイケメン笑顔で言った。だめだめ、貴方がそういう良い顔すればするほど生じるギャップによって声の破壊力が増すのよ。案の上、赤ん坊は身の危険を感じたのか全力で泣きはじめてしまった。


「イグルーさん、この子には一緒にボートに乗ってもらいましょう」

「いや、しかし、他のお客の迷惑に……」

「だからといって、こんな殺人鬼みたいな声の人に赤ん坊をまかせてたら泣きすぎて干からびてミイラになっちゃいますよ。さぁ、お母さん。まもなく出発なのでお子様を抱いたままボートにお乗りください」

「え、本当にいいんでしょうか……」


 困惑する女性を、いいのいいのと、無理矢理ボートに搭乗させる。その頃にはもう赤ん坊は泣きやんでいたが、ジュニアの方は私の発言がかなりショックだったようで「殺人鬼……干からびる……」と、うわ言のように何度も繰り返しながら立ち尽くしている。ふん、人を年増呼ばわりした罰ですよーっだ。

 さて、ついにこの時が来たんだ。あんな最低男は放っておいて、今は自分のやるべき事に集中するんだ。私は意を決してボートの先頭に立った。


 ……何これ。

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