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1.Q:目が覚めると知らない場所だったらどうする? A:開き直る

 ……やだ。


 やだやだやだやだやだやだ、絶対にイヤだ!


 何でお友達とお別れしなくちゃいけないの?

 

 出向って何?


 それが全部悪いの?


 いやだよ……お父さんもお母さんも嫌いだ。


 出向はもっと嫌いだ!


 出向……しゅっこう……出航?


「──そうよ、出航よ!」


 ハッと目が覚めると、私は床に仰向けで寝転がっていた。

 久しぶりに小学生の時に親の仕事の関係で引っ越しした時の夢見たなぁ。いやぁ、あの時は本当によく泣きましたわ。


 ……んん、夢?

 …………もしかして寝ちゃってた!? 

 ちょっと待ってよ、私のデビュー戦は一体どうなって──  


「え、ここどこ?」


 飛び起きて周りを見渡した私は、あまりの事におもわず口から疑問がぽろっとこぼれた。

 

 私は現在、間違いなくボートに乗っていて、それはほとんど流れのない水面を気持ちよさそうに泳いでいる。でも、このボートは私がさっきまで乗っていた物じゃない。だって、私の相棒には2階などという設備は存在しないのだから。


 私が今いる場所は水面との距離からして明らかに2階、もしくは3階に間違いないと思う。

 とはいっても、平らな床の周りに手すりが設置されているだけの簡単なものなので、私の知らない間に横田さんが勝手に取り付けた可能性はあるけど……。

 うん、割とどうでもいいかな。ボートがどうとかどうでもいいの。そんな事より一体ここはどこなのよ。

 

 門をくぐればそこは未開の地風のアトラクション会場だったはずなのに、ここは……なんていうかその……メンヘラじゃなくて……メルヘン……そうだ、メルヘンチックよ。ここが湖なのか川なのか池なのか何なのか正直わからない。ただ一つだけいえるのは、両岸にファンタジーというよりは童話や御伽噺で出てくるような可愛らしい世界が広がっているという事だ。


 たしかジャック・オ・ランタンっていったかな。ハロウィンでよく見る顔付きカボチャが淡い綺麗な光を放ちながら宙に浮いている。

 しかも一つではなく複数……屋外だからピアノ線等で天井から吊すのは不可能だし、一体どういう仕掛けなのだろうか。

 

 それだけじゃなく、他にも陸地には自身に実っていた木の実でお手玉している木がいくつも生えているし、ボートの進行方向には、イルカの形をした水の塊が何匹も飛び跳ねてアーチを作っている。

 他にもメルヘンチックな箇所がありすぎて一つずつ挙げていたらキリがない。とにかくこれだけは言える。ここはドゥリームクルーズじゃない。

 

 あ、そうだ、一つだけ可能性があるじゃない。ドゥリームランドに存在するもう一つのボート搭乗型アトラクション『メルヘンボート』だ。

 私はそういうのはあまり趣味じゃないから乗った事ないけど、あまりのメルヘンチックさに男子が発狂するほどらしい。

 正に今の周りの状況にピッタリだけど、たしかあれは建物内のアトラクションだったはずだけど……きっと屋外に出るポイントがあるのだろう。


 なるほど、間違えたんだ。

 ナビゲーターデビューに舞い上がった私は、間違えてメルヘンボートのナビゲーターになってしまったのよ。

 ……ないない、さすがにそれはない。もし本当にそんな間違いしたら天然女子萌えな男子でもドン引きよ。そもそもメルヘンボートにはナビゲーターいないし。


「あのー、今どういう状況なんですか。説明してください」

「おい案内の人! ちゃんと仕事してくれ!」


 ほらほら、下からナビゲーターに苦情言ってるのが聞こえてきてるよ。よってメルヘンボートという可能性はなくなったわけで、私は超ド級の天然女では無いのです!

 ……なんで私は威張ってるのだろうか。何の解決にもなってないじゃないのよ。


「上にいるんだろ? 何とか言えよ!」


 そうだそうだ、ここがどこか答えなさい!

 ……ん? 上ってもしかしてここの事?

 周りには誰も見当たらないけど……もしかしてナビゲーターって私?

 こんな意味不明な場所をナビしろっていうの!?

 ちょ、ちょっと待って。急にそんな事言われても、心の準備と情報がですね……。

 

「乗客の皆様、ご迷惑をおかけしました。不慮の事故により一時的に案内ができない状況でしたが、只今よりナビゲートを再開させていただきます」


 なんだ、ちゃんと他にナビゲーターいるじゃない。もう、心臓が止まるかと思ったよ。

 それにしても、なんだか優等生で面白味がないナビだなぁ。

 だめよ、事故した時は誠意を見せながらも笑いを取ることでお客様の不安を吹き飛ばしてあげないと。この声の人はテーマパークなめてるのかな。

 でもこの声ってどこかで聞き覚えが……。


「船の周りに浮遊しておりますカボチャ型のランタンは、風の精霊から精製しました風石に雷光の粉を適量振りかける事で淡い光を放っています」


 あ、私だ。これ私の声にそっくりなんだ──


「この際に注意する点は、風石に防護の法を施すのを忘れない事と、粉をかけすぎない事です。特に粉の量は間違えると、とんでもないことになってしまいますので絶対に分量だけは──」


 う、嘘でしょ。私の口が勝手に動いてる!?

 そっくりなんかじゃなくて、このナビは私の口が勝手にやっているんだ……。


「続きまして、両側の陸地でお手玉をしているセラヌンの木ですが、これは種に悪戯悪魔ロッキンの魂を憑依させて植える事で作る事ができます。憑依させる方法ですが──」


 ダメだ。どんなに口を塞いでも、おもいきって右手の指を全部口に突っ込んでも、私の口は言葉を発し続けている。


「このイルカ達は水の精霊を操るホムンクルスに行動制御の法を用いる事で──」


 止まらない。私の口から理解不能かつ面白くない厨二病的発言が、蛇口が壊れた水道の水のごとくじゃぼじゃぼと放出され続けている。

 ナビゲーターとしてこれほどの拷問があるだろうか。もうどうすればいいかわからない。理解力の限界を遙かに越える出来事の連続に直面した私は──よし、こうなったら楽しもう! という結論に至った。


 だって何したって止まらない物は仕方ないもの。折角、勝手に説明してくれているんだから目の前に広がる不思議な世界を楽しまないと損ってもんよ。

 現実逃避バンザーイ! あははのはー、らりるいらー、おっぺけぺっけっきょー。


「右側をご覧ください。あの土のゴーレムは従来の入魂製法とは異なり、新型の魔導封入器を用いて憑依魂を入れ替える事によって多彩な動きをさせる事に成功しました。現在は先程のセラヌンの木と同様でロッキンの魂を──」


 何あれ、ごつごつした土饅頭がダンスを踊ってるよ。

 フラダンスといえばやっぱりセクシーな腰振りよね。なのにあのデブっちょ君丸々しすぎて腰がないよ。ミスチョイスすぎてまじウケる。


「あちらに見えますニワトリは体内に埋め込んだ凝縮マナにより生殖器を活性化させ──」


 おー精がでますなぁ。

 あのニワトリちゃん、お尻から猛スピードで卵をぽんぽん出して山積みにしてるよ。でもちょっとやりすぎじゃないかしら。あの子完全に下痢ピーだよ、お腹ゆるゆるだよ。ちょっとあの卵は食べたくないなぁ……。


「このオーロラは肉眼では視認できない何百本という魔線により発光マナを誘導することで実現しております。つい先日方法論が確立されたハコォーブ法によってこれまでより超効率的に──」


 これは……綺麗!

 オーロラだよ、生オーロラ!

 しかもただのオーロラじゃなくて、風でなびきながら次々と色を変えていくのがすごい幻想的でうっとりしちゃう。いいなぁ、部屋のカーテンにしたい。家具のニ○リに売ってないかな……。


「今までの魔技術では不可能とされていたゴーレムの指の細かい動きですが、今回私が新開発した微少ホムンクルス伝達装置を使うことで──」


 うっひゃあ! これはまたチャレンジャーですなぁ!

 氷でできたゴツゴツした2本の腕が太い指で器用にアヤトリをしてる。しかも糸がボゥボゥと燃えてちょっとした火事になってる。だめだめ、溶けちゃう溶けちゃう!

 もの凄い過酷なダイエットを見てしまった。あの子は女子の鏡ね。絶対見習いたくないけど。


 それ以降もボートは進み、私に見たことのない不思議な物を見せ続けてくれた。

 ここがどこだか知らないけど、我がドゥリームクルーズはアトラクションのクオリティで完全にここより劣っています……正直完敗だと思う。


 それでも私はドゥリームクルーズの方が好きだし、何回でも乗りたいと思う。身内びいきとかじゃなく、本当に心からそう思っている。ここにはアトラクションを輝かせる重要なアレが無いからだ。

 それはさておき、こうしてみるとメルヘンチックってのも悪くないわね。今度、可愛らしいフリフリのお洋服にでもチャレンジしてみようかしら。


「さて、この船旅も最後となりました。前方より今回のメインが登場します。少々揺れますのでご注意ください」


 ──どひぇええええええ、化け物だあああああ!

 突然目の前の水が爆発したかと思ったら、そこから巨大な生物が出現した。トカゲを何十倍にもした風貌で、頭に猛々しい角を生やして、背中に雄々しい翼を生やしている。これは俗にいうドラゴンというやつではないでしょうか。


 え、え、何か大きく息吸ってますけど。


「これが今回のメインである海竜リヴァルイアです。このサイズの竜の精製には繊細な魔調合を何日にもかけて行う必要があります。しかも今回はなんとブレスを吐かせる事に成功しました。それでは今より実演を──」


 ブレスの実演!? 

 私の口は何を冷静な口調でとんでもない事言ってんの…………きたあああああああ!?

 

 海竜リヴァ何ちゃらは口から激しい水流をこちらめがけて吐き出した。

 直撃する直前でボートは急カーブをして紙一重でそれを避けた。その直後、ボートを取り囲むように水面からいくつもの水柱が噴き出しては消えていく。

 

 そんな怒濤の展開に怯えて必死に手すりにつかまりながらガタガタと震えている間も、私の口は延々と意味不明な説明を垂れ流していた。

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