先生、好きです。
「有麻、この前の小テスト頑張ったな。クラスで一位の点数だ!!おめでとう、先生も嬉しいぞ!」
「ありがとうございます。」
私、有麻 瑞穂《ありま みずほ》は叶わない恋をする中3女子。
超がつくほどのバカ。
でも、国語だけは妙に成績がいいっていう。
それは、ある人に見てもらいたいから_____
◆放課後
「有麻ッ!!!!授業中に寝るな、って何回言ったらわかるんだ!!」
「すいませんでした。(棒読み)」
「...おい、もうちょっと反省してるフりでもしたらどうだ。」
昔から私は、ひねくれていた。
特に、好きな人の前では。
「先生って、彼女いるんですか?」
「話題を変えるんじゃないッ!!」
「生徒の質問に答えないなんて、先生ひどいですよ。」
「プライバシーという言葉を知ってるか有麻?」
ひねくれていた、というよりも、
好きな人に構って欲しくてわざとからかっていた、という方が的確だろう。
「あ、もしかして先生彼女いるんですか!」
「...俺に彼女はいない。というか、つい最近別れたんだよ。」
「そうなんですか...なんか、すいません...。」
「いや、気にするなwというか有麻、お前はどうなんだ?」
「先生、プライバシー侵害ですよw」
「人のことを言えないだろうw」
そう。
いつもこうやって、私は好きな人と放課後に会話をしていた。
不器用にしか伝えられないこの想いは、いつか届くんだろうか...。
そもそも、伝えてしまっても大丈夫なのか。
「私にも先生と一緒で彼氏いましたよwまぁ、結構前に別れちゃったんですけど...。」
「もしかしてその彼氏って、森村のことか?」
森村。森村 大祐《もりむら だいすけ》。
それは、私の元カレの名だった。
中2の5月から中3の7月まで付き合っていた、クラスの男子。
私は彼のことが好きで、彼も私のことが好きだった。
そこらへんにいる、ごく普通のカップルだった。
私の気持ちが、変化しないまでは_______
あれは、中3の7月の放課後。
私が大祐を「話がある」と、家に呼び出したあの日。
「ごめん大祐。別れよ...。」
「急に何言ってんだよ、瑞穂。」
「好きな人が、できたの...。」
「…?!」
「ごめん!!大祐のこと、大好きだよ。でも、その人がどうしても頭から離れない...。」
「誰だよ、そいつ。」
「...っ...言えない...。」
「教えてくれたら、別れるよ。でも、何も教えてもらえないまま別れるなんて、無理だ。」
「...小山先生だよ。」
「小山先生って、あの国語担当の?」
「うん...。」
「そっか...教えてくれてありがとな。人に言ったりしないから安心しろ。瑞穂の恋、応援するよ。」
「大祐...ありがとう...ごめんね...。」
「瑞穂。最後に一つ、お願いがある。ほんとに悪いと思ってんなら、俺のお願い聞いて。」
「何?」
「...キス...していいか?最後の、キスでいいから」
「...うん...。」
そう言って、私は目を閉じた。
今私が生きてる中で、最後にキスをした相手は大祐だ。
でも、今私が好きなのは大祐じゃない。
それは当たり前のことなのに、なんだか変な感じ。
大祐は今でも私のことを思ってくれていて、でも応援してくれている。
だけど私は、大祐のところに戻るつもりはない...。
先生にフられたとしても。
大祐ではない、ほかの誰かを好きになる。
「あ、瑞穂!!やっと見つけた。」
「あぁ、佑ちゃんか」
「か、ってなんだよwあ、そうそう、さっきから美谷がお前のこと呼んでる。」
「知奈が?ありがとう佑ちゃんw」
「あぁw」
佑ちゃん、っていうのは私の幼馴染の足立 佑樹《アダチ ユウキ》。
よくわかんない人だけど、まぁいい人かな。
佑ちゃんは、何となく特別な存在。
この頃の私は、その“特別な存在”の本当の意味に気付いていなかった____
佑ちゃんに、告白されるまでは。
「佑ちゃん、話って何?」
「...あのさ...俺、お前のこと好きだ。」
「え?」
「俺と、付き合ってくれ。」
「...ご、ごめん佑ちゃん。私、佑ちゃんとは付き合えない…。」
「そ、そっか...な、何かごめんな、急に呼び出して告ったりして。その...よかったら、これからも幼馴染としていてほしい。」
「うん。当たり前だよ!」
この時私は、うまく笑えていただろうか。
困った顔をすると佑ちゃんをさらに傷つけてしまうし、無表情でも同じことだ。
だから私には、笑うこと以外考えられなかった。
笑って、佑ちゃんを傷つけなかっただろうか?
「なぁ大祐-。」
「ん?」
「俺さ、瑞穂に告った。」
「で?」
「予想通り、フられた。予想はしてたけどさ-結構くるな、心に。」
「佑樹...お前なら、たぶん瑞穂を振り向かせることができるよ。」
「何言ってんだよ大祐w俺なんかに、んなことできねぇよ。」
「瑞穂には、好きな奴がいる。それは俺でもなくて、佑樹でもなくて。あいつは、苦しい苦しい恋をしてる。お前ならさ、その苦しんでる瑞穂を助けられると思うぜ?」
「なんだそれwまぁ、大祐がそう言うなら、そうなのかもな。」
「応援してるからよ、諦めたりすんなよw」
「おうwありがとな、大祐」
私は、ひねくれている。
特に好きな人の前では。
そんな私が、好きな人に告白しようとしていた。
だって、今日が最後だから。
先生に告白できるのは、今日しかないから。
今進まなかったら、私は一生前に進めない。
いつもと同じように、先生に国語を教えてもらっている日のこと。
今日こそは、と心に決めていた。
先生は違う学校に転勤することになった。
だから、先生に勉強を教えてもらうのは、今日が最後。
「先生。」
「ん?」
「先生は、好きな人いますか?」
「またその質問かw プライバシー侵害だ、って言っただろwそんなことより勉強に集中しろ有麻w」
「この質問に答えてくれたら、集中します。」
「お前はどこまでひねくれてるんだ...まぁ、好きな人はいるけどな。」
「それって、別れた先生の彼女のことですか?」
「率直に聞くな-w有麻の言うとおりだけどな、俺の好きな人wそういう有麻は好きな人いるのか?」
来た。
先生なら、絶対こう聞き返してくると思った。
「私は...いますよ、好きな人。叶わないってわかってる、苦しい恋。」
言え!
今言わないと、絶対後悔するから...。
「先生、好きです。」
「え?」
「7月から、ずっと好きでした。」
「有麻、お前何言って...。」
「付き合って、なんて言わないです。でも、伝えたかったです。今まで勉強教えてくれてありがとうございました。先生がいたから、がんばれた。大好きです...。」
私は告白してから、すぐに荷物を抱えて教室を飛び出した。
先生の顔も見れないまま、泣きながら廊下を走っていった。
先生に何か言われる前に。
ドンッ。
「痛っ...ご、ごめんなさい!あ、大祐。」
「瑞穂か...大丈夫か?ってなんでお前泣いて...。」
「おい有麻っ!!」
先生に名前を呼ばれて、私は立ち上がろとした。
先生の顔を、見たくなかったから。
先生に何か言われるのが怖かったから。
でも、立ち上がれなかった。
足がすくんで、立ち上がれない。
そんな時、体が宙に浮いた。
「へッ!?」
「じっとしてろ瑞穂。
何が起こってんのか詳しくはわかんね-けど、なんとなくはわかった。」
大祐は、私をお姫様抱っこしたまま、廊下を走り出した。
何も言わず、何も聞かずに。
そしてたどり着いた先は、大祐の家だった。
「ハァッ...さすがに...ハァッ...ここなら先生も...追ってこね-だろ。」
「大祐、ありがとう」
「なぁ瑞穂。俺はあんまり言えないけど、お前の元カレとして、言わせてもらな。瑞穂が今、一番幸せになれる道はどれだ?」
「え?」
「このまま先生を想い続けんのか、大祐を選ぶか、俺のところに戻ってくるか。俺は、お前に幸せになって欲しいんだよ。」
「大祐...」
「今、誰に会いたいって想ってる?」
目を閉じて、そっと自分の心に問いかけてみる。
大祐に言われた言葉を。
「佑ちゃん...。」
「...。」
「え、あ、あれ...?なんで...佑ちゃん...。」
「それが瑞穂の答えなんだろ。
今のお前には、たぶん佑樹が必要なんだと思う。
お前にとって、佑樹が誰よりも必要な人物のはずだ。」
先生に会えなくて、辛い想いをしたとき。
先生が違う女子と楽しそうに話してるところを見たとき。
先生の授業がない日。
苦しい時は、いつも佑ちゃんが心の中にいた...。
だけどそれは、幼馴染として、って想ってた。
私は...佑ちゃんが...好き?
「あれ、瑞穂じゃん。」
「な、なんで佑ちゃんここにいるの?!」
「や、俺の家、すぐそこだし。」
そういえば、佑ちゃんの家は大祐の家の近所だった。
会いたくない時に、会ってしまった。
「んじゃ俺は今から塾だから。瑞穂、想ってることは、すぐにでも伝えな。今がチャンスなんじゃね-の?」
「大祐、ありがとう。」
「おうwじゃあなw」
「瑞穂、どうしたんだ?」
「あのね、佑ちゃん。私、もう佑ちゃんとは幼馴染でいられない。」
「は?な、なんで…?」
「好き。私、佑ちゃんが好き。」
「急に何言ってんだよ瑞穂。第一お前には好きな人が...。」
「ごめんね、気付かなくって。私、心の奥にはいつも佑ちゃんがいたのに、他の人のことばっかり考えてた。自分の本当の気持ちに、気付かなかった。佑ちゃん。ううん、佑樹。私は、佑樹が好きです。私と…付き合ってください。」
「...俺も瑞穂が好き。俺なんかで良かったら。」
顔を真っ赤にしてそう告げた私たちは、そっと唇を重ね合わせた。
これで、現時点で私が最後にキスをした相手は佑樹になった。
好きな人が最後にキスをした相手。
そして、これからも。
ありがとう大祐。
ありがとう先生。
ありがとう、佑ちゃん...。
みんな、大好きです。
不自然なところが多々あったとは思いますが、読んでいただきありがとうございました。