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桜下奇譚  作者: 森 彩子
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九話

 その頃痛む腹に手を当てながら桜花は唸っていた。

一応知識としては知っていたが、まさか自分の身にも起こるとは思わなかった。

混乱する桜花を芙蓉は「桜花様が健康に育っている何よりの証拠です」と宥めてくれたが、桜花は急激に変化していく自分の身体に戸惑いを覚えて、布団の中で身体を丸める。

これが来たということはもう桜花が子供を産める何よりの証拠で、私はもう子供ではなくなってしまったのか。それではもう雄飛と一緒には寝られなくなってしまうのではないか。ただでさえ最近は一緒に身体をくっつけあって寝るということはなくなっていたけど、それでも隣に横になって寝るまで傍にいることは許されていた。でもこれが始ってしまってからには、それも許されなくなってしまうのだろうか。

「……何が、おめでとうよ」

頭がガチガチな芙蓉がまずそれを許さないだろう。

ただでさえ、最近は女性なのだからもう少し落ち着きと恥じらいをもちなさいとうるさいのだから。

桜花は今朝自分に始まったばかりのそれを、明日にでも終わらないかと馬鹿げたことを願いながら更に唸る。

私はこのままでいいのに。ずっとずっと、これまで通り雄飛の傍に入れたら、それで。

身体の変化が恐ろしいと思いながら、桜花は熱っぽく歪む瞳を固く閉じた。



目を閉じてから少し時間がたってしまったらしい。いつの間にか眠りについてしまっていた桜花が瞳を開けると、すぐ傍に芙蓉の姿があった。桜花が目覚めたことに気付くと芙蓉は柔らかく微笑みかけてくる。

「体調はどうですか?」

「だいぶ、よくなった」

「そう、それはよかったです。朝よりだいぶ顔色がよくなりましたね」

桜花が頬に手を当てながらそうかしらと首をかしげると、芙蓉はしっかりと頷く。

「今朝は顔が真っ白で、何か悪い病気なのでは心配になるくらいでしたもの。いつものように頬の色も戻って安心しました」

胸をなでおろす芙蓉の姿に、彼女も人間の女の子を育てるのはきっと初めての経験だから、色々と思うところがあるのだろうなと安易に想像できた。

桜花は脇に座る芙蓉を見つめながら、布団で隠れた口元をもごもごと動かす。

「………芙蓉、ありがとう」

布団越しだったために不明慮だった言葉だったが、芙蓉のよく聞こえる耳にはちゃんと届いていたらしい。芙蓉はその妖艶な容貌には合わない、やけに幼い笑顔を返しながら明るく口を開いた。

「そうそう、桜花様。雄飛様がお祝いをするって言っていましたわよ」



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