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第六話 緑家殺人事件 一
「なな。たまには、わいの誘いに乗ってくれてもええんちゃいます?」
まるで正確に時を刻む時計の如く、毎日必ず同じ時刻に橋のたもとで相手を口説く同心だ。
「でもさ、旦那には上方に残した可愛い奥方がおられるんでしょ?」
そう、破近は単身赴任の最中なのである。
「はああ? 可愛い? もうね、姐さんの足元どころか、土踏まずにも及びまへんわ!」
「またまた、そんなこと言っちゃって」
この時、これまた時計の如き男がやってきた。
*ヴァン・ダイン「グリーン家殺人事件」への、ほんの1%のオマージュ