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第九話 幻の元彼 一 *お裁き四日前
朝っぱらから、橋の周りを這い回っている青きゴキブリ。
「てーへんだ!」
そのゴキブリ、駆けてきた男に
「こっちこそ、てーへんだのてーへんだ、や!」
だが、相手も譲らない。
「こっちの方が、てーへんだのてーへんだのてーへんだ、ですって!」
ガキの喧嘩か!
「ほな、言うけどな……冷奴姐さんが、どこ探してもおらんのや!」
「じゃあ、あっしも言いますが」
喜助が、大きく息を吸って
「その姐さんが、奉行所に捕まってるんです!」
*コーネル・ウールリッチ「幻の女」への、ほんの1%のオマージュ