第八話 心宝石の秘密
真也はヤマコに駆け寄った。
「ヤマコ!大丈夫か!?」
「お主も少しは反応が良くなったな」
「ケホッ、ケホッ、」
傷だらけのヤマコをそっと抱き上げる。
「なんとか、水華さんを倒せたみたいですね」
月宮に支えられながら、甘喰が歩いてきた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、まあ」
甘喰は目を伏せて返事をする。
「ふん、ふん!」
「『水華さんを縄で縛るから、甘喰を頼む』と仰っています」
月宮の言葉を甘喰が翻訳する。
「あ、はい。分かりました」
甘喰の腕を肩に回し、その体を支える。
月宮は水華を縄で縛り、歩き出した。
その後ろについて行く。
「真也くん。あの藍葉という少女には気をつけた方がいいわよ」
水華が突然話しかけてきた。
「急になんですか」
水華は首を後ろに向けて一言だけ告げる。
「全人類の救済」
クスッと笑う。
「それが彼女の目的らしいわ」
真也は意味が分からず、困惑する。
組所に戻ると、すぐに豹間に呼び出される。
「今回は二人ともご苦労だったね」
「特に浜野くん、君には感謝と謝罪をしなければならない」
「謝罪?」
聞き返すと、豹間は困ったように眉をさげた。
「私は水華さんが蛇目団と繋がっていることに気づいていた」
「そして、彼女が君を狙うだろうということも」
「その上で、蛇目団の拠点を探すために泳がせていた」
豹間が真っ直ぐにこちらを見つめる。
「君を危険な目に遭わせてしまって、すまなかった」
「いえ、気にしてません」
真也の言葉に豹間はニコリと笑った。
だが、すぐに真剣な顔に戻る。
豹間は宵時の方を見て、話し始めた。
「今回、蛇目団を壊滅させることはできた」
「だが、薬を製造していたという少女は捕まえられなかった」
「そうだね?」
豹間の言葉に、宵時が頷く。
「はい、そうです」
「今後も失昏薬の調査を続けるしかないか」
豹間は眉を寄せ、顔を険しくした。
「そうだ、ヤマコさんは医務室にいるよ。様子を見に行くといい」
真也は頷くと、医務室へ向かった。
「おお、来おったか!」
「元気そうだな」
思っていたよりも、元気そうなヤマコの姿にホッとする。
「なんじゃ、相変わらず反応が薄いのう」
包帯を巻かれた姿は痛々しいが、ヤマコの声は明るい。
「それにしても、お主に『憤怒の宝者』の才能があったとはのう」
「なんだそれは」
真也の問いにヤマコは答える。
「宝者とは、心宝石を使う者たちのことじゃ」
「心宝石は二種類あるのじゃ。正の心宝石と負の心宝石」
ヤマコは指を二本立てる。
「正の心宝石は愉悦、愛情、興奮。負の心宝石は憤怒、悲哀、憎悪」
「これらの中の、どれか一つの強い感情を持った人間に、心宝石は力を与えるのじゃ」
ヤマコは腕を組んで唸る。
「うーむ。まさかお主が憤怒に目覚めるとは、予想外じゃのう」
しばらく唸ったあと、急に怒り出した。
「それにしてもじゃ!!」
「問題はお主の心じゃ!なぜ、そんなに感情を押し殺すのじゃ!」
ヤマコはグイッと顔を近づけた。
「お主に触れた時に分かった。お主は誰よりも強い感情を持っておる」
「それなのにじゃ!お主は自分で心に鍵をかけて、閉じ込めておる」
ヤマコは首を激しく振る。
「もったいない!もったいないぞ!」
「それほどの感情を持っておれば、お主は誰にも負けない宝者になれるというのに……」
真也の頭に少女の顔が浮かぶ。
目を伏せて、ため息をついた。
「俺にも色々と事情がある」
真也の言葉に、ヤマコは一瞬だけ黙り込んだ。
「じゃが、真也よ。この先、心宝石を探すのであれば、必ずその眠っている感情を呼び起こさなければならぬぞ」
ヤマコの真剣な眼差しが突き刺さる。
「俺には出来ない……」
真也は小さく呟く。
その声は苦しみに満ちていた。




