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第四話 怪しいお姉様

失昏薬の話を聞いてから、三日が経った。


真也は失昏薬の話に一切触れず、関わろうとしなかった。


「真也!なぜ失昏薬の話を宵時に聞かんのじゃ」


「いや、関わりたくない」


迷いなく言い放つ真也に、ヤマコは唖然とした。


「そこは『俺が解決してみせる』とか、言うものじゃろうが!」


「いや、俺はそんな物語の主人公みたいな柄じゃない」


真也は畳の上に寝転がって言い放つ。


ヤマコは呆れた顔をする。


「心宝石が関わっていたとしてもか?」


真也が顔だけをヤマコに向ける。


「どういうことだ?」


「三日前に、木の下に座り込んでいた男がおったじゃろう?あの男から心宝石の気配がしたのじゃ」


真也は無表情でヤマコを見つめる。


「心宝石には特別な力がある。その力を使えば、失昏薬のような薬を作ることもできるじゃろうな」

「どうするのじゃ?」


ヤマコは意地悪な笑みを浮かべている。


真也の頭に父親の顔が浮かぶ。


帰らなければ……。


その言葉が、胸の奥で響いた。

 

「はぁ、宵時さんに聞きに行くか」


真也は気だるげに起き上がった。


その姿を見て、ヤマコは満足げに笑みを浮かべた。


「よく言ったぞ!それでこそ、主人公じゃ!」


「俺は主人公にはなれない」


真也はどこか暗い顔をした。

 

脳裏に青い瞳の少女がよぎる。

 

真也の瞳には、過去への深い後悔が浮かんでいた。

 

真也は襖を開けて、部屋から出る。


真也とヤマコが話しながら歩いていると、月狼がいつもの縁側に座っていた。


生気のない瞳が、庭を見つめている。


「ふむ。変わったやつじゃのう」

「こやつの瞳からは生命力が感じられぬ」


ヤマコが月狼の顔を覗き込んだ。


「おーい、聞いておるのか」


月狼の頬を指でつつく。


「おい、その辺に――」


ヤマコを止めようとした瞬間、月狼の体が倒れた。


彼はそのまま動かない。


ヤマコはしまったという顔で、口元に両手を当てる。

 

「ヤマコ……遂に人を殺したか」


真也の言葉にヤマコが焦る。


「遂にってどういうことじゃ!!」


慌てて月狼から距離をとった。

 

「こやつが勝手に倒れたのじゃ!!」

「ワシは何もしておらぬ〜!」

 

ヤマコは首を振って、必死に否定する。


騒いでいると、水華が廊下の向こうから歩いてきた。


「ワシが殺したわけじゃないぞ!!」


「あらまあ。こんな所で寝たら風邪をひくわよ」


水華はそっと壊れ物に触れるように、月狼を抱き起こす。


「驚かせて、ごめんなさいね」

「寝てるだけだから、大丈夫よ」


彼女は優しく微笑む。


ヤマコは、安堵の息を漏らした。


「なんじゃ、紛らわしいのう。行くぞ、真也」


「ああ、うん」

 

二人は歩き出す。


その背中を水華は冷ややかな目で見つめていた。


「全く、本当に紛らわしいやつじゃ」


「もう、手遅れかもしれないな」


真也の声は、諦め混じりの響きを帯びていた。


ヤマコは、不思議そうに首をかしげた。

 

「何の話じゃ?」


「なんでもない」


もし、月狼くんが薬を使っているなら、あの様子では手遅れだろうな。


真也の胸が締め付けられる。


まだ中学生くらいなのに……。


真也は複雑な気持ちのまま、義心組の組所にたどり着く。


組所の前には、守衛が二人いた。


「何者だ」


黒い和服に義心組の獅子のバッジを付けた男性が、厳しい声で問いかける。


宵時十夜(よいどき とおや)さんの知人です」

浜野真也(はまの しんや)といいます」


守衛の一人が、組所の中へ確認に向かう。


やがて、宵時が現れた。


「何の用だ」


「例の薬の件で、大事な話があります」


声をひそめて、話した。


宵時の眉間にしわが寄った。


「ついてこい」


宵時は短く言い放つと、歩き出す。


ついて行くと、たどり着いたのは豹間の部屋だった。


宵時が襖を開く。


「失礼します」


真也は豹間の前に座って、姿勢を正した。

 

「失昏薬について、重要な話があるそうです」


宵時がこちらに顔を向ける。


「話せ」


豹間と目が合った。


彼はにっこりと微笑んだ。


「えっと、失昏薬の製造に俺の知人が関わっているかもしれません」


「ふむ、根拠は?」


「心宝石じゃ!」


ヤマコが元気よく手をあげた。


「ワシの心臓である心宝石には特別な力がある!」


彼女は立ち上がり、腰に手をあてて胸を張る。


「聞いて驚くがよい!」

「ワシは風を司る神、ヤマカゼノミコトじゃ!」


その場に沈黙が流れた。


真也は額に手をあてて、俯く。


ため息を堪える。

 

豹間は見定めるように、ヤマコを見つめていた。


やがて、口を開く。


「なるほど。心宝石というのが、今回の事件に大きく関わっているんだね」


「えっ、信じてくれるんですか?」


真也は少し驚く。


豹間は自身の目元に手をあてる。


「ああ。私の異能力は、目が合った相手の嘘を見抜ける」

「君たちが嘘をついていないことは分かるよ」


短い茶髪を指で耳にかける。

 

彼の目は、穏やかな色をしていた。


「反応が薄いぞ!ワシはヤマカゼノミコトじゃぞ!」


「その名前は聞き覚えがないんだ。すまないね」


豹間が困ったように、眉をさげる。


「お互いに情報を提供し合おうか」


彼の顔が真剣なものに変わった。


「十夜。彼らに失昏薬について、話してあげてくれるかい?」


「はい」


宵時が短く返答する。


初めて会った時とは違い、落ち着いた雰囲気を放っている。


「俺たち義心組は、二年前からこの事件を追っている。失昏薬は、思考能力や記憶力を奪う危険な薬物だ」

「薬の効果は日に日に強くなってきている」


赤い瞳が伏せられる。

 

膝の上の拳に力がこもる。


「早くこの事件を解決しなければならない」


彼はどこか焦っているように見えた。


宵時を横目に見ながら、豹間に質問する。


「何か犯人の手がかりはないんですか?」


「薬の販売を行っているのは、蛇目団(じゃのめだん)という組織だよ」


豹間は重々しく答える。

 

「我々は蛇目団の幹部を三ヶ月ほど前に捕らえた」

「その男は、異世界から来た者と蛇目団の団長が、重要な取り引きをしたと言っていた」


少し後ろめたそうに真也を見つめる。

 

「君を監視していたのは、蛇目団と関わりがあると思ったからだ」


ヤマコが明るい笑みを見せる。


「ならば、その蛇目団とやらを潰せば良いのじゃな!」


豹間はため息をつくと、顔を悔しげに歪める。


「そう簡単な話ではない。半年前から蛇目団は急激に力をつけた」

「幹部の一人を捕らえるのにも、長い時間を要した」


ゆっくりと目を閉じる。


「拠点を突き止めるには、どれほどの時間が必要になることか……」


その場に重い沈黙が流れた。

 

宵時を見ると、思い詰めたような顔をしている。


真也はふと、月狼を思い出した。


「そういえば、月狼くんって、」


「月狼は昔から、あの性格だ」


真也の言葉を、宵時は遮る。


彼は冷たい目でこちらを睨んでいる。

 

だが、その目はどこか不安そうにも見える。


「月狼は昔から、少しのんびりとした性格の子でね」


豹間が困ったように微笑む。


「今日はここまでにしよう。帰って情報を整理するといい」


豹間の言葉に頷くと、立ち上がって宵時とともに部屋を出た。


真也たちが去ったのを見て、豹間は静かに呟く。


「浜野くんを見張ってくれ」


天井から、気配が一つ消えた。

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