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第三十一話 救済と死

「……い。お……い。お……」


微睡む意識の中で、誰かの声が聞こえる。

 

「おいっ!起きんか!」


「やま……こ……」


真也は舌足らずにヤマコの名前を呼び、眠たい目を擦る。


「ここ……は?」


「命光組の組所じゃ」


「俺は攫われたのか」


「うむ。気絶させられておったな」


真也が立ち上がろうと足を動かすと、じゃらりと鎖の音が鳴る。


辺りを見渡す。

 

狭い和室に、右足首に付けられた鎖。


監禁されたのか……。

この鎖、どうにか出来ないか。


真也が足首の鎖を触ると、じゃらじゃらと音が鳴る。


「嫌な気配じゃ」


ヤマコはそう言って姿を消した。


ヤマコが消えた瞬間、襖が開いた。


「こんにちは!お久しぶりですね、浜野くん!」


誰もが振り返る美貌の少女。


クラスで一番人気だった藍葉凛(あいば りん)


「『愛情の宝者』」


「はい!その通りです!」


「なんで君が、こんなことを……」


藍葉はくるりと背中を向ける。


「浜野くんを、あの部屋へお願いします」


藍葉が後ろを振り返る。


そこにいたのは、雨伝だった。


「よっ!昨日会ったが、覚えてるか?」


「命光組の雨伝静(うでん しずか)さん」


「おー。覚えてたか。鎖を外すぞ」


雨伝は真也の足の鎖を外すと、腕を掴んで立たせた。


「じゃあ、行くか」


彼は真也の腕を引っ張りながら歩く。


しばらく進んで、大きな襖の前にたどり着いた。


「入ってみろ」


軽く背中を押された。


襖を開けると、中にはクラスメイト達がいた。


全員、虚ろな目をして倒れている。


知らない人達も、何人か混ざっている。


その異様な空間に、思わず息を飲んだ。


「こ、れは……一体……」


「実験です!」


藍葉が平然と答える。


「実験?」


「はい!私の能力は、相手の精神を操作することです」

「それで、どこまで操れるのか実験をしていたら、こんなことになっちゃいました!」


藍葉はニコニコと微笑んでいる。


「実験の結果、私は相手の思考、意志、記憶を操れることが分かりました!」


真也が藍葉を睨む。


「こんなことをして、どうするつもりだ」


藍葉が穏やかな笑みを浮かべる。


「私の目標は、人類の思考と意志の完全な喪失です」


「意味がわからない……」


真也は困惑して、眉を下げた。

 

藍葉は優しげな笑みを浮かべている。


「私の目的は、全人類の救済です」

「全ての人から思考と意志を奪う。そうすれば、誰も傷つかずに生きられます」


彼女の目は慈愛に満ちていた。


「そんなこと、死ぬことと変わらないだろ」


真也は嫌悪感をむき出しにして、藍葉を睨みつけた。


藍葉はただ微笑む。

 

まるで幼い子供が駄々をこねるのを、宥めるように、笑いかける。


「大丈夫です。いずれあなたも救ってみせます」

「あなたにこの部屋を見せたのは、安心してもらうためです」


藍葉は憐れむような目を向ける。

 

「心宝石に選ばれてしまった哀れな人。よほど強い感情を持っていたのですね。辛かったですよね」


その声は本気で真也を心配していた。


「もう大丈夫ですから。安心してお部屋へ戻ってください」


藍葉は、にっこりと微笑んだ。

 

真也は懐に手を入れて、心宝石を探す。


「もしかして、これを探していますか?」


藍葉が、赤色の心宝石を手で摘んでいる。


「坂下くんが持っていた、負の心宝石ですよね?」

「使われると困るので、私が持っておきます」


真也は周りを見渡す。


前には宝者の藍葉、後ろには命光組の雨伝。


心宝石は奪われていて、戦えない。


どう考えても、不利な状況だった。


藍葉が懐から瓶を出した。


緑色の粒、失昏薬が入った瓶だ。


「これを飲んでもらうのを、忘れていました」


雨伝が真也の脇に腕を回して、羽交い締めにする。


「ほら、飲んでください」


「離せっ!」


薬を飲まさせれそうになった、その時、


「待ってください」


ヤマコの声が聞こえた。


勢いよく声のした方を向く。


「ヤマコ……?」


そこにいたのは、ヤマコにそっくりな少女だった。


だが、よく見ると目の色や服の色が、ヤマコと正反対だった。


少女の目の色は緑色で、服の色は赤色だった。


「ミコトちゃん。どうしてここに?」


「愉悦さんに言われたんです」

「コホンっ!」

「『彼を壊すのは少し待ってください』とのことです」


ミコトと呼ばれた少女の言葉に、藍葉が眉をひそめる。


「あの人の命令なら、仕方ありませんね」

「浜野くんを、元の部屋に帰してください」


藍葉の命令に、雨伝が軽く返事をする。


「はいよ。お姫さま」


雨伝に右腕を引っ張られる。


「…………」


真也は大人しく、雨伝に連れられていく。


「抵抗しないのか?」


「無謀な真似はしません」


「賢明な判断だな」


雨伝は感心したように笑いかける。


「大人しくしていれば、悪いようにはしないさ」


「薬を使おうとしたのに?」


横目で、彼を見る。


雨伝は首の後ろに手を回して、爽やかな笑みを浮かべた。


「ははっ!確かにな。だが、心配しなくても、もうすぐ助けがくる」


「…………」


「あの義心組の子。宵時くんか?あの子は絶対に来るだろうな」


雨伝が突然立ち止まった。


不敵な笑みを浮かべている。


真也が怪訝な目で雨伝を見ていると、彼は小さく呟いた。


「ほら、やっぱり来てる」

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