第二十六話 再会
薄暗い牢の中で、坂下は体を縛られて、座っていた。
格子越しに、彼と目が合う。
その目が、楽しげに細まった。
「来たんだね、浜野くん」
「何の用だ」
真也は短く問いかける。
彼の体には大小、様々な傷がある。
いや、体だけでなく、顔にも傷がある。
その姿は痛々しく、話すだけでも辛そうに見えた。
真也の隣には書物を持った男が立っている。
その目は冷たく、事務的に二人のやり取りを書物に記録している。
「ふふっ、ああ、痛いなぁ。傷が痛いや」
「何故、笑っていられるんだ」
真也の問いに、坂下は不気味に笑う。
「痛いのは気持ちがいい」
「痛みが好きなのか?」
「ふふっ、痛いのも、痛くするのもの好きだよ。自分の血を見るのも、相手の苦痛に歪む顔も好き。おかしいかな?」
その言葉に、真也は坂下の能力を思い出す。
『自分より上だと思った人間の能力を底上げする』
『一度でも見下した相手には使えない』
ああ、なるほど。
この人の能力の意味が分かった気がする。
格上の相手には傷つけられたい、格下の相手は傷つけたい。
そういう感情から、この人の能力は生まれたんだな。
「宝者について、知りたい?」
坂下が小首を傾げて、真也に話しかける。
「あの黒髪のポニーテールの男の子、宵時くんだっけ?彼が知りたい情報も教えてあげるよ」
「条件は?」
「特にないよ」
坂下はくすくすと笑う。
「あの人はきっと、この状況も楽しんでいるんだろうな」
「愉悦の心宝石を持つ者」
「楽しいことが大好きなあの人は、僕が話してもきっと怒らない」
考え込む真也に坂下は話し続ける。
「気をつけた方がいいよ。あの人は僕よりずっと強いから」
「ああ、でも。今の君たちでは、『愛情』の彼女にも勝てないね」
「次の君たちの相手、失昏薬を作っている彼女」
坂下の言葉に、真也の隣にいる男がピクリと反応する。
一瞬だけ手を止めたが、再び記録を続ける。
「彼女は強いよ。とっても強い」
「彼女の愛には圧力がある。海のように深い彼女の愛で、君たちは押しつぶされちゃうかもね」
「その人は何処にいる」
坂下は目を閉じて、体をゆらゆらと揺らす。
「隣の星光領に行きなよ。そこで何か分かるかもね」
「はい、もう終わり。ヒントはたくさん渡したよ」
「続きは自分たちで、ね?」
結局、坂下は黙ってしまい、その後は何の情報も得られなかった。
「星光領、か」
「あそこは少し、厄介だな」
ふうとため息をつくと、宵時は額に手を当てて廊下を歩く。
真也と宵時は報告のためのに、豹間の部屋へ向かっていた。
「俺は星光領に行って、情報を集めます」
「僕も連れて行け」
真也の言葉に、宵時は短く告げる。
突然、宵時は体を真也に近づける。
低い声で、耳元で囁いた。
「義心組はお前を疑っている」
宵時は何事もなかったかのように、真也から少し離れて歩く。
「分かりました」
すれ違う人達の視線が痛い。
なるほど、宵時さんの言う通り、まだ疑いは晴れていないか。
むしろ、坂下の影響で、以前より疑いの目が強くなっている。
無言で二人が歩いていると、前方から二人組が歩いてくる。
「おやおや。奇遇ですね〜?」
「甘喰か……」
宵時が小声で呟く。
現れたのは月宮と甘喰だった。
「辛気臭い顔をして、どうしたんです?」
「狼牙さんの『次』に強い、あなたに悩み事なんてあるんですか?」
甘喰は小馬鹿にしたように、笑みを浮かべている。
「はぁ。去年の剣道大会で負けたことを、まだ気にしているのか?」
宵時の言葉に、甘喰が顔をしかめた。
「うるさいですよ」
その顔には、焦燥感が見える。
「ふんっ!ふんっ!」
月宮が真也の両手を握る。
「え、えっと、」
「ふんっ、ふん!」
困惑していると、甘喰が月宮の言葉を翻訳する。
「『俺は君を信じている。分かりくいが、君の目には優しさが隠れている』と仰っています」
「え、ああ、ありがとうございます」
甘喰は軽く目を押さえる。
どこか辛そうな顔をしていた。
「狼牙さんは、心が綺麗すぎるんです」
彼はこちらをキッと睨みつけてきた。
「狼牙さんを裏切らないでくださいよ!」
そう言って、真也の横を通り過ぎる。
月宮も軽く手を振って、甘喰について行った。
宵時は小さくため息をつく。
「早く豹間さんの所へ向かうぞ」




