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第十九話 反撃開始

宵時が真也の隣を走る。


「遅いな」


真也の足が遅いことに苛立った宵時は、彼を俵のように担ぎあげる。


「これはちょっと……」


「こちらの方が効率がいい」


不満げな真也を無視して、走り続ける。


やがて、開けた空間に出た。


廊下は橋のようになっており、左右どちらの景色もよく見える。

 

その時、凄まじい轟音が響いた。


「今のは?」


「向こうだ」


宵時は真也を担いだまま、橋の手すりから下を見る。


真也も、宵時の肩の上から覗き込む。


「太郎さんだ」


一番下の階で、太郎と安道が戦っていた。

 

安道の回し蹴りを太郎が両腕で受け止める。

 

しかし、彼はそのまま吹き飛ばされていった。


壁が抉れて、砂埃が舞う。


太郎が立ち上がろうとすると、安道が彼の顎を蹴り上げた。

 

「これは……」


真也の声が震える。


よく見ると、遠くの方で名城が倒れているのが見えた。


黒い髪の先から真っ赤な血がポタポタとこぼれ落ちている。


全身から流れ出た血が青い装束を濡らしていた。

 

「僕は加勢してくるぞ……」

 

宵時が真也を下ろす。

 

「待ってください」


咄嗟に彼を引き止める。


「戦う気がないなら、そこで震えていろ」


宵時は手を振り払い、走り出した。


「あっ……」


真也は自分の手を見つめた。


彼の手は震えていた。


両手で、自身の頬を叩く。

 

「行かないと……」


真也は長い橋を走り出す。


そして、エレベーターに乗りこんだ。


レバーを引くと、エレベーターは下へおりていく。

 

「情けない……」


何もできない無力感が押し寄せる。


「本当に情けないのう」


隣にはいつの間にか、ヤマコがいた。


彼女は腰に手を当てて、真顔でこちらを見ている。

 

「ヤマコ」


「だから、言ったではないか。後で後悔すると」

 

ヤマコはふうとため息をついて、呆れたように首を振る。


「ほれ、手を出してみよ」


言われるがままに手を差し出す。


ヤマコが乗せたのは、赤色の石だった。


「これは……」


「心宝石じゃ」


真也がヤマコを見ると、彼女は真剣な顔をしていた。


「ワシのとっておきじゃ。お主に貸してやる」


「でも、どうやって使えば……」


「怒れ。怒りの感情を使うのじゃ。一度使っておったじゃろう?」


ヤマコが腕を組んで、答える。


「俺に出来るのか……?」


エレベーターが下へ到着する。


真也は急いで、走る。

 

遠くで、太郎が膝をつく姿が見えた。


「…………」


あの太郎さんが、こんなにあっさりと……。


思わず安道の方へ顔を向けた瞬間、吹き飛ばされた宵時がこちらへ飛んできた。


二人は衝突し、地面に倒れる。


「いった……」


頭を地面に強く打ち付けられて、視界がぼやける。

 

「ぐっ……」


宵時が呻き声をあげた。

 

慌てて彼を抱える。


血が手にベッタリと付いた。


真也は自身の震える手を見る。


「はぁ……はぁ……」


呼吸が荒くなる。


体が震え始めた。


「宵時さん、太郎さん、名城さん……」


名前を呼びながら、真也は一人一人の姿を視界に入れていく。


「何をしておる。早く力を使え」


ヤマコが厳しい声で言い放つ。


「使えないんだよ!どうやって使えばいいんだ!」


「そんなもの、こう、バーっと使えばいいのじゃ!」


どうしたらいい。


どうすればいい。


「あらあら、もうおしまいですかね〜」


安道がこちらへ歩いてくる。


その時、白羽が刀を持って飛び出した。

 

「これでも喰らえ!!」


だが安道は振り向きもせず、その刀を片手で受け止めた。


「くっ!!」


圧倒的な力で掴まれ、刀を動かせない。


「そーれっ」


軽い声と共に、白羽は刀ごと投げ飛ばされた。


「ほれ、早くせねば全滅じゃぞ」


ヤマコが淡々と言う。

 

安道が近づいてくると、ヤマコは姿を消した。


「あら、震えていますね」


安道が刀に手をかけた。


ギラリと刀身が光る。


「安心してください。痛みは与えませんから」


殺されるっ!

 

襲い来るであろう衝撃を想像して、目を閉じた。


だが、安道の動きが止まる。


「あら?」


白羽が、腰にしがみついていた。


「白羽さんっ!?」


傷だらけの体で、安道を止めている。


額から血を流しており、赤い着物は所々破けていた。

 

真也は自分自身に問いかける。

 

このまま、何もしないのか?

動けるのに、俺は動かないのか?


体の震えが、引いていく。


また、失うのか?

俺のせいで、また誰かが死ぬのか?


その時、真也の中で、何かが急速に膨れ上がっていく。


あぁ、分かる。

これは怒りだ。

 

安道への怒りじゃない。

自分への怒りだ。


真也はポケットに入れていた心宝石を取り出す。


その怒りは業火だった。


暗闇の中に、小さな種火がポツンとある。


それは次第に、大きく燃え広がっていく。


怒り。


自身の体を焼き尽くす、激しい憤怒の炎。


彼の心が目覚めた瞬間だった。


「かはっ!!」

 

白羽が安道に蹴り飛ばされた。


地面の上を転がっていく。


彼女は起き上がろうとするが、腕が震えて起き上がれない。


「お嬢さん、先ずはあなたからです」

 

安道がトドメを刺そうと近づく。


真也の手の中で、心宝石が強い赤色の光を放つ。

 

心宝石は徐々に姿を消していった。


手を空にかざす。


弓を引くように腕を動かすと、何もなかった空間に、弓が現れる。


透き通った赤色の弓だ。


ゆっくりと弦を引く。


狙いを定める。

 

そして、

 

放つ。


矢は一直線に飛び、安道の心臓を貫いた。


一瞬、体をふらつかせた。

 

だが、それだけだった。

 

傷は何事もなかったかのように塞がっていく。


「あらあら……」


安道がにんまりと笑みを浮かべる。


「これは、面白いことになりそうですね」


真也はゆっくりと目を開いた。


その瞳は、真っ赤に染まっていた。


「俺の憤怒を受け止めてみろ」

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