第十八話 坂下の思惑
三人が連れてこられたのは、安道の屋敷から数キロ先にある巨大な地下空間だった。
エレベーターのようなもので、どんどんと下へおりていく。
やがて、牢屋が並んだ場所へ連れていかれた。
忍に連れられた牢屋の中には雀和がいた。
傷だらけだが、生きている。
「雀和さんっ!」
牢屋の中へ入れられた白羽が、雀和に駆け寄る。
「お前たちも捕まったのか……」
「ゴホッ」
雀和が咳き込む。
真也は血に濡れた雀和の姿を直視できずにいた。
「ここは蒼岩牢。安道が作らせた巨大なな地下空間だ。逃げ出すのは、難しいな」
「どうしよう……」
四人の間に重い沈黙が流れる。
やがて、面布をつけた忍が二人現れた。
「おい、そこの赤い目の女。こっちに来い」
忍の一人が呼びつけたのは宵時だった。
「宵時さんに何する気ですか!?」
白羽が咄嗟に宵時を庇うように立った。
もう一人の忍も牢屋の中へ入ってくる。
「お前はこちらだ」
忍は真也の腕を掴んだ。
「ちょっと!!」
白羽が声を上げる。
だが、真也はそのまま引きずられて、連れていかれてしまった。
連れて行かれたのは、青い襖の部屋だった。
忍に促されて中へ入ると、そこには坂下がいた。
「久しぶりだね、浜野くん」
「久しぶり、坂下くん」
真也は緊張した面持ちで立ち尽くす。
すると坂下が、静かに手招きした。
「もっとこっちにおいでよ。話がしたいんだ」
近づくと、坂下は無表情のまま話し始めた。
「心宝石について、君はどのくらい知っているのかな」
「まあ、色々と」
坂下はちらりと真也を一瞥した。
「負の心宝石を盗んだ犯人を、僕は知っているよ」
彼は淡々と説明していく。
「あの人は『愉悦の宝者』。楽しいことが大好きな人」
「あの人は強いよ。すごく強い。僕なんかじゃ、逆立ちしたって勝てないだろうね」
静かな落ち着いた声で、話を続ける。
「でも、君なら勝てる。だって君は特別だから」
光のない黒い瞳が、こちらを見ていてる。
「一緒に戦おう。僕の力があれば、君はあの人に勝てるよ」
坂下の言葉に、真也は思考を巡らせる。
「あの人って誰のことだ?」
「それはまだ言えない」
彼はニコリと微笑む。
その笑みはどこか歪だ。
「ねえ、僕たちは相性がいいよ。二人であの人を倒そう。大丈夫、君ならきっと覚醒できるよ」
「さっきから何を言ってるんだ」
真也が眉をひそめる。
突如、轟音と共に襖が吹き飛んだ。
「宵時さんっ!」
襖を蹴飛ばして入ってきたのは宵時だった。
その体には無数の血が付いている。
真也は声を震わせながら問いかける。
「宵時さん、その血は……」
「全部返り血だ」
駆け寄ると、宵時は冷静に言葉を返す。
ふと見ると、坂下の姿が消えていた。
「逃げられたか……」
「宵時さん、何があったんですか?」
宵時は不機嫌そうに答える。
「浅田とかいう男に呼び出された。僕を女だと勘違いして、やたらと体に触れてきたから、殴って気絶させてきた」
鼻を鳴らし、顔の血を拭う。
「途中で襲いかかってきた奴らは始末した」
「…………」
真也は宵時の血から顔を背ける。
その目には、恐れと不安が混じっていた。
宵時は周囲を見渡す。
「それより、あの女はどうした?」
「白羽さんのことですか?」
「牢にはいなかったぞ」
宵時の言葉を聞いて、真也は顔を青ざめさせた。
「早く探さないとっ!」
二人は部屋から飛び出して、走り出した。




