第十七話 牢屋行き
ついに夜が来た。
真也たちは数人の女中たちに紛れ、料理を運ぶことになった。
部屋の中にいたのは、浅田秀也と坂下侑真だった。
真也は顔をなるべく下に向けたまま、料理を運んでいく。
真面目で優等生だった坂下と、悪名高い浅田。
二人の関係性が気になった。
「それにしてもよぉ」
「異世界に来て、まさかこんないい暮らしができるとはなぁ。最初ここに来た時は、人生終わりだと思ったぜ」
浅田が坂下に話しかける。
赤いウルフカットの髪に、黒い瞳。
品性の感じられない、笑みを浮かべている。
「それもこれも、全部お前のおかげだなぁ。坂下」
浅田は笑いながら、坂下の肩に手を置いた。
坂下は何も答えない。
黒髪に黒い瞳の平凡な顔立ち。
彼は無言で、料理を口に運んでいる。
真也は忍たちに料理を運んでいきながら、少しずつ二人の席に近づいていく。
「あの“心宝石”とかいうやつ、そんなに価値があるのか?」
その言葉に手が止まる。
目の前にいる忍が、訝しげな目を向けている。
不味い。
怪しまれた。
真也はニコリと忍に微笑みかける。
「ん?おい、そこの」
突然、浅田の声が飛んできた。
「ちょっとこっち来いよ」
……バレたか?
冷や汗を流しながら、屈んだ状態から立ち上がる。
浅田の方を見ると、こちらへ歩いてきていた。
どうする。
逃げるか?
いや、この距離では逃げられないな。
真也は顔を下に向けて、焦る。
だが、浅田は真也の横を通り過ぎた。
「お前」
浅田は宵時の前で立ち止まる。
「結構可愛い顔してんな。新入りか?」
ヤバい!
俺の正体がバレるより、もっとヤバいことになった!
「気安く触るな」
宵時は浅田の手を叩き落とした。
「ふーん。気が強いな。悪くねぇ」
浅田は下品な笑みを浮かべる。
その瞬間、宵時の機嫌がさらに悪くなった。
「あ、あの、すみません!」
急いで二人の間に入る。
「私たちはまだ見習いでして……仕事がありますので、失礼いたします」
「は?誰だよお前」
浅田が真也の顔を見る。
「つーか、その顔……なんか見覚えあるな」
浅田が顔を近づけてきた。
咄嗟に、真也は顔を背けた。
次の瞬間、襖が開く音がした。
室内の空気が、一瞬で引き締まる。
入ってきたのは、安道だった。
「おっ、栞ちゃーん。おっせぇよ」
浅田が手を振る。
「すみません」
真也と安道の目が合う。
彼女の目が、キュッと楽しげに細まる。
「少し……雀を殺すのに手間取りまして……」
「雀? なんだそりゃ?」
雀……?
真也の脳裏に、ある名前が浮かぶ。
『雀和鳴介』
安道の口が三日月を描く。
不気味な笑みに、全身が粟立つ。
真也は素早く宵時の腕を掴んで、走り出す。
「宵時さん。今すぐここから離れましょう」
「おい、どういうつもりだ。腕を離せ」
安道が静かな声で告げる。
「あの二人を捕らえなさい」
すると、忍達が一斉に立ち上がる。
宵時が真也の手を振り払う。
そして、飛びかかってきた忍の腹に、鋭い蹴りを叩き込む。
宵時は宙に浮いた忍の腰から、刀を抜き取る。
次の瞬間、血が舞った。
一振りで忍たちが吹き飛んでいく。
あまりにも速い動きに、真也は目を白黒させていた。
「行くぞ」
宵時は真也の腕を掴んだ。
二人は廊下へ飛び出し、そのまま庭へ向かって走る。
庭の塀を飛び越えようとした、その時、
「待ちなさい」
後ろから声が響く。
「動けば、この子が死にますよ」
振り返ると、白羽が泉に捕らえられていた。
「二人とも……ごめん……」
真也が宵時を見ると、彼は眉を顰めていた。
そして、手に持っていた刀を地面に捨てた。
「ふふっ」
楽しそうな声が響く。
ゆったりとした動きで、安道が歩いてくる。
「面白いものが見れました」
「さて……どうしましょうか」
安道は首を傾ける。
月明かりで、紺色の瞳が怪しく光る。
「全員、蒼岩牢に連れていきなさい」
その声は、どこか楽しげだった。




