第十五話 女装はテンプレ展開
作戦当日。
夕日を浴びながら、四人は安道の屋敷へ向かって、歩いている。
「なんで、僕がこんなことを……」
宵時は、女物の着物を着せられ、化粧までされていた。
彼はぐったりとした様子で、肩を落としている。
「まあまあ。似合ってるから、大丈夫ですよ」
同じく女物の着物を着た真也が、慰めにならない言葉をかける。
すると、宵時はぎろりと真也を睨みつけた。
どこか恨みがましい視線を向けられる。
「んふふっ、二人とも可愛いよ!」
白羽がくすくすと笑う。
「白羽さんは、別人みたいだな」
「クラスメイトに会ったときのためにね。変装しておかないと」
白羽はクラスメイトに見つかる可能性を考えて、顔立ちや雰囲気を変える変装をしていた。
そうしてしばらく歩いていると、やがて夜の帳が下り、月がその姿を現した。
「お前たち、そろそろ屋敷に着くぞ」
雀和の声に、顔を上げる。
遠くの方に、月明かりに照らされた、黒塗りの巨大な屋敷が見えた。
「由美子、真子、十子。何かあれば、すぐに俺に知らせろ。分かったな?」
「「はい」」
真也と白羽は声を揃えて返事をする。
「チッ」
宵時は舌打ちをして、地面を見つめがら歩く。
「宵時さん、嫌そうなのに作戦には参加するんですね」
「ふんっ、僕には僕の目的があるからな」
そう言って、宵時は顔をしかめた。
少し迷いのある目を真也に向ける。
だが、直ぐに視線を逸らした。
「無駄口は慎め。そろそろ他の忍びたちにも聞こえる距離だ」
雀和が厳しい声を出す。
「すみません」
謝罪をして、前を歩く雀和の背中を見た。
彼の金色の三つ編みが揺れている。
意外と頼りになる人なんだな。
太郎さんが強すぎるだけで、この人もちゃんと強いんだろう。
太郎の影響で忘れられがちだが、雀和は蒼炎派の第一炎部隊隊長を務めている。
彼はちゃんと、優秀な忍なのだ。
門の前まで来ると、雀和は堂々と名乗った。
「第一炎部隊の雀和鳴介だ。新しい女中見習いを連れてきた」
門番の忍が二人、互いに顔を見合わせる。
そして無言のまま門を開いた。
「行くぞ」
真也たちは雀和の後ろをついていく。
門をくぐると、広い庭が広がっていた。
屋敷の中では揃いの青い装束の忍たちが静かに行き交い、張り詰めた空気が漂っている。
本当に忍者の屋敷なんだな……。
内心で息を呑んでいると、屋敷の玄関口に一人の中年女性が立っていた。
「女中統括役の泉と申します」
桃色の着物に身を包んだ女性は、丁寧に頭を下げる。
「女中見習いたちだ。あとは頼んだ」
雀和はそれだけ言うと、振り返ることもなく去っていった。
「では、こちらへ」
泉の後ろについていく。
廊下をいくつか曲がり、案内されたのは女中見習い用の部屋だった。
「ここが、あなた方が生活する部屋になります。明日から仕事が割り振られますので、心して務めるようにしてください」
「「よろしくお願いします」」
白羽と真也は、きちんと頭を下げた。
だが、宵時だけは腕を組んだまま立っていた。
「十子さん、頭をさげてください!!」
「断る」
すっかり不機嫌になった宵時が、苛立たしげに白羽を睨む。
「あわわ、すみません! 本当にすみません!」
白羽は慌てて泉に頭を下げる。
しかし、彼女は穏やかに微笑むだけだった。
「構いませんよ。では、失礼いたします」
特に気にした様子もなく、そのまま部屋を後にする。
「十子さん、何してるんですか」
「その名前で呼ぶな。斬るぞっ!」
真也が名前を呼ぶと、宵時の赤い目が鋭く光った。
「まあまあ、落ち着きなよ」
白羽が宵時をなだめる。
彼は鼻を鳴らして、顔を背けた。
「とりあえず今日はもう休もう?明日から仕事も始まるんだし」
白羽はそう言って、布団の準備を始めた。
真也も手伝いながら、ふと天井を見上げる。
一応、潜入はできたが……。
このメンバーで、大丈夫だろうか。
不安を抱えながらも布団の準備を終え、真也たちは眠りにつくことになった。
そうして、夜が更けたころ、浅い眠りから起こされる。
「おい、起きろ」
宵時が小声で真也を起こす。
「どうしました?」
「泉とかいう女中が来ているぞ」
宵時の言葉に体を起こし、部屋の入口を見る。
そこには、泉がニコニコと微笑みながら立っていた。
「白羽さんも起こそう……」
真也は白羽を起こすと、泉の方へ向かって正座する。
「えーっと、何か御用でしょうか」
「浜野真也様、白羽由美様、宵時十夜様。改めまして、私は元宝村家の忍である泉和葉でございます。」
白羽はまだ理解できていないようで首をかしげている。
「えっと……」
「つまり、太郎様の元部下でございます」
「なるほど!味方ってことですね!」
白羽はようやく合点がいったようで、泉に笑顔を向ける
「簡単に信用しすぎだ」
「俺たちの名前を出したってことは、この人はこちらの作戦を把握してるってことです」
「もし、敵なら俺たちはもう捕まっているでしょう」
宵時は気を緩めることなく、泉を射抜くように見据えていた。
彼女は宵時の視線に怯むことなく、平然とした顔で話を続ける。
「その通りでございます。これから、私は皆様を陰ながら支援いたします」
「敵の屋敷に味方がいるのは心強いね!」
宵時とは逆に、白羽は少し安心した様子だった。
「皆様の目的はもちろん、存じております。この屋敷には現在、異世界から来たと噂されている方が二名おられます」
「お一人は浅田秀也様、もう一人の方は坂下侑真様です」
泉の言葉に白羽が目を見開く。
「浅田と坂下くんが……」
「知り合いか?」
宵時が尋ねると、複雑な顔で頷く。
「うん、二人とも知り合い。坂下くんは真面目で大人しい人で浅田は……」
言葉を詰まらせる。
「金持ちのクズだよ」
吐き捨てるように、言い放つ。
彼女は唇を噛んで、俯いた。
「意外だな。貴様もそんな顔ができるのか」
宵時が少し驚く。
意外そうに、彼女を見つめた。
「色々と、あったから……」
白羽の手は震えていた。
彼女はどこか悔しげな顔をしている。
泉は三人の様子を観察しながら、話し始めた。
「皆様、私の役目は皆様を支援することです。有事の際には是非、私を呼んでくださいませ」
丁寧に頭をさげて、ニコリと笑いかける。
「そして具体的な支援の方ですが、浅田様は週に何度か大部屋を使って宴会を開かれます」
笑みが消え、真剣な面持ちになった。
「その際に皆様には女中見習いとして、お食事などを運ぶお仕事をお任せしたいと思っております」
「なるほど。そのための女中の変装でもあったのか」
真也は顎に手を当てて考える。
浅田は女好きなことで、有名だ。
この屋敷でも、その噂は広がっているだろう。
浅田の目に留まり、気に入られれば情報も手に入る。
そのためには女の姿の方が有利だ。
上手く考えられているな。
「ですが、入ってきたばかりの新入りに、そのような重要な仕事を突然任せるのは不自然です」
「皆様にはしばらくここで生活していただき、信頼を積み重ねていただくことになります」
「まあ、当然の判断ですね」
「頑張ります!」
「…………」
三者三様の反応を見せる姿に泉は満足げに頷いた。
「それでは、良い夜を」
綺麗な礼をして、泉は去っていった。
「明日から頑張ろうね」
「まあ、バレないように頑張ろう」
こうして、三人は今度こそ眠りにつくのだった。




