表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/36

第十三話 作戦会議は踊る

「率直に言うと、今の拙者たちでは安道には勝てぬ」


「敵の数はどのくらいですか?」


真也の問いに、太郎は重々しく告げる。


「安道と安道についている蒼炎派の忍がおよそ百名ほどでござる」


「百人も!?」


白羽が驚きの声をあげる。


「今の安道はもはや人ではない。俺と太郎の二人がかりでも倒せるか分からん」

「勝ち目の薄い戦いに参加する忍はいない。俺たちについてくる奴はいないだろうな」


名城が腕を組みながら言った。


さらっと言ってるけど、それやばくね?


真也は内心で冷や汗をかいていた。

 

「忍は情では動かぬものでござる。無感情に、無慈悲に……そういう風になるように育てられておる」


太郎が静かな声で告げた。


悲しみを宿した黒い瞳が、静かに下を向いた。


「綾彦が例外なのでござるよ」


その声は重く、切なさを帯びていた。

 

「それで、どうやってその安道派の忍者たちを倒すの?」


白羽が尋ねると、太郎はゆっくりと答えた。


「まずは心宝石とやらを見つける必要がある。そのために、由美殿と真也殿には、安道の屋敷へ潜入してもらうでござる」


「…………」


真也は考えた。


屋敷に潜入か。

忍者として潜入するのはまず無理。

となると、


「潜入任務か〜。でも、どうやって潜入するの?」


白羽が若干ワクワクしたように聞くと、太郎はにこやかに言った。


「女中として潜入してもらいたい。由美殿は変装を、真也殿には女装をしてもらうでござる」


やっぱりな。

 

「変装は忍の得意分野でござる。他人を変装させるのも簡単なのでござるよ」


太郎の言葉に真也は遠い目をする。


女装か。

ちょっと嫌だな。

 

「そんな急に屋敷に潜入できるものなの?」


「安心するでござる。心強い味方がいるでござるよ」


そう言って、太郎は未だに項垂れている雀和へ視線を向けた。


「綾彦、頼む」


「分かった」


名城は立ち上がり、床に崩れ落ちている雀和の元へ歩いていく。


そして、小さく蹲る(うずくまる)雀和の前にかがんだ。


そっと肩に手を置くと、優しく話しかける。


「雀和、頼みがある。お前にしか頼めないことだ」


「名城様……」


今にも泣きそうな顔で、雀和が名城を見上げる。


「雀和。お前は優秀な忍びだ。俺の頼みが聞けるな?」


「名城様っ!」


名城が目を見開く、その瞳に輝きが戻っていく。


「お前が必要なんだ」


「名城様っ!!」

 

名城の言葉に雀和は勢いよく立ち上がった。


「この雀和鳴介(じゃくわ めいすけ)、名城様のご命令とあらば、全力で遂行いたします!!」


名城は満足そうに頷いた。


「これで安道の屋敷に潜入できるでござるな」


「なるほどな。里長の名城さんの力で屋敷に入れてもらって、蒼炎派の雀和さんに屋敷での調査を手伝ってもらうのか」


真也が感心したように呟いた。


それにしても、やってることが若干えげつない気がする。


「屋敷ではくれぐれも無理はしないように。何かあれば直ぐに鳴介を頼るでござる」


「分かってる。絶対に心宝石の情報を入手するからね!」


由美は力強く胸を叩いた。


穏やかに微笑んでいた太郎だったが、ふと表情を引き締めた。


名城も姿勢を正す。


「里長様、不審な者を捕らえました」


部屋の外から声が響く。


「入れ」


名城が短く答える。


布面をつけた忍が連れてきたのは、縄で縛られて口布を付けられた一人の少年だった。


真也は目を見開いた。


見覚えのある顔。


少年は、宵時十夜(よいどき とおや)だった。


「この者はいかが致しましょうか」


「こちらで処分する。下がれ」


名城の命令で、忍は静かに去っていった。


襖が閉まると同時に、真也は宵時に近づく。


「宵時さん、どうしてここにいるんですか?」


口布を外すと、宵時は苛立たしげに顔をしかめた。


「ふんっ。答えるつもりはない」


「ふむ、知り合いでござるか」


太郎が口元に手を当てる。


「ちょうどいい。彼にも潜入してもらおう」


「は?何の話だ?」


宵時は意味が分からないという顔で、太郎を見る。


「いや、流石にそれは無理があるのでは?」


宵時さんの性格的に無理だろ。

女装とかさせたら、絶対にキレると思う。


真也の言葉に、太郎がニコリと笑みを見せる。

 

「そこの少年は、それなりの実力がある様子。頼れる仲間は多い方が良いでござるよ」


「おい、だから何の話だ」


宵時が苛立った声を出す。


警戒した様子で、太郎と真也を見る。


すると、白羽がにこにこと笑いながら、話に加わった。


「顔も綺麗だし、女装にも向いてそうね」


「は?女装?」


宵時の表情が凍りつく。


信じられないといった様子だ。

 

「では、作戦会議は以上でござる」


混乱する宵時を置き去りにして、作戦会議は終了した。


各々に部屋が割り振られ、解散することになった。


「白羽殿、少しいいか」


白羽に声をかけたのは、名城だった。


「あ、はい」


白羽が一瞬だけ、不安そうに真也を見た。


まあ、この人、見た目は怖いしな。


「俺もついて行っていいですか?」


「ああ、構わん」


真也の言葉に名城は頷く。


廊下を歩き、真也たちは屋敷の一室に入った。

 

「話したいのは、太郎のことだ」


「太郎さんのこと、ですか?」


名城は昔を思い出すように、語り始める。


俯いた際に黒い髪が肩から滑り落ちていく。


「抜け忍になる前の太郎は、いつも心を殺していた。里の長として、任務のためならば、自らの心と他人の心を簡単に殺した」

「俺はあいつが、ずっと恐ろしかった」


名城の言葉に白羽は膝の上の拳をギュッと握りしめる。


彼女は悔しげに、顔を歪ませた。


「太郎さんは……確かに、最初に会った時は怖かったです。でも、人を傷つけて何も思わないような悪人ではないと思います」


白羽は真っ直ぐに名城を見つめた。


その瞳には、太郎への揺るぎない信頼が宿っていた。

 

「俺も、そう思います。怖いと思う時もありましたけど、性根は優しいんだと思います」


真也は太郎を思い出す。


あの人は俺が白羽さんと会う時は、いつも彼女を守る位置に立っていた。

それに太郎さんが白羽さんを見る目は、まるで幼い妹を見るような、優しい目だった。


名城はふっと笑う。


「そうか。俺は、面と向かって言葉を交わすまでは、奴を冷酷で恐ろしいやつだと思っていたよ」


後悔が滲む声で呟く。


そして、白羽の方を向くと、切なげな顔を見せた。

 

「白羽殿は……心が綺麗な人だな」

 

名城は姿勢を正し、白羽に頭を下げた。


「白羽殿、感謝する」

 

「えっ!何してるんですか」


白羽は困惑し、あわてふためく。

 

「あいつがなぜ抜け忍になったのか、なぜあのように心を殺していたのかは分からない」

「だが、あいつが人の心を取り戻せたのは、あなたのお陰だ。それだけは分かる」


名城は顔を上げて、白羽の顔を見つめる。


真剣な光を宿した青い瞳が、白羽を見ていた。

 

「だから、感謝する」


白羽は困ったように微笑んだ。

 

「私はまだ、太郎さんのことをよく知らないです。あの人の過去も、あの人が背負っているものも、何も知らない」

「でも今、少しでも太郎さんが楽になれているなら、あのとき出会えて良かったなって思います」


名城が優しく微笑む。

どこか嬉しそうな顔だった。


「太郎と出会ったのが、あなたで良かった」

「これからも、よろしく頼む」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ