表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/36

第十二話 泣き虫な里長さま

「ヤマコ、お前は留守番しててくれ」

 

「なぜじゃ!!」


ヤマコに留守番を言い渡すと、彼女は目を見開いた。


「だって、お前がいると目立つだろ」

 

「うーむ……」

 

「それに今のお前は力が弱くなってるらしいし……」

 

「なにっ!ワシが弱いと言いたいのか!?」


真也は以前起きた水華の事件を思い出す。


あの時のヤマコの傷ついた姿。


思い出す度に、彼の胸は痛む。


「…………」

 

「ぐぬぬ、不敬なヤツめ……もう知らぬ!」


ヤマコはパッと姿を消した。


「瞬間移動もできるのか……」


ポツリと呟くと、彼女は再び姿を現した。


「後悔しても遅いぞ!」


ムスッとした顔で睨みつけて、また去っていった。

 

「と、いうわけで、ヤマコは置いてきた」

 

「そっか。浜野くんは、ヤマコちゃんが心配だったんだね」


白羽が微笑ましいものを見るような目で、こちらに顔を向けてきた。

 

真也は誤魔化すように言い放つ。


「あいつは見た目が幼いし、力もなさそうだからな」


その時、強い風が吹いて、木の葉が舞った。


真也たち四人は林の中を歩いていた。


木々のざわめきが聞こえてくる。


「どういうつもりか知らんが、夕生。貴様は死ぬぞ」


雀和が顔も向けずに、太郎へ言い放つ。


「今の拙者は、ただの太郎でござるよ」


太郎はいつもの調子で答える。


雀和は深いため息をついた。


「はぁ……」


チラリと横目で彼を見る。


「貴様は……その妙な喋り方といい、名前といい」


少し言葉を止める。


そして、ぽつりと呟いた。


「本当に変わってしまったのだな」


その声は、どこか寂しそうだった。


「雀和さんは太郎さんと、どういう関係なんですか?」


真也が質問すると、雀和は一瞬迷う素振りを見せて、口を開いた。


「仇だ……」


「仇?」


雀和の言葉に真也が聞き返す。


「なんでもない」


太郎の方を見ると、彼は無表情で歩いている。


これは過去になんかあるパターンだな。


それ以上は深く聞く気にもならず、真也は黙った。


しばらく歩き、雀和が突然立ち止まった。


真也たちも足を止める。


雀和はまっすぐ前を向き、声を張り上げた。


「蒼炎派、第一炎部隊隊長!」

雀和鳴介(じゃくわ めいすけ)だ!」


空気が張りつめる。


無数の気配が、こちらを見ている気がした。


「抜け忍、宝村夕生及びその仲間を捕らえた!里長様へお目通り願う!」


その声が林に響いた瞬間、どこからともなく、一人の忍が現れた。


顔を面布で覆った、青い装束の忍だ。


「了承する、ついてこい」


忍の後ろについて歩き出す。


林を抜けると、忍びの里が見えた。


真ん中に幅の広い道がある。


右側に黒と赤の建物が、左側に黒と青の建物がある。


赤と青の建物群は、真ん中の道で隔たれて、綺麗に別かれている。


「わ、なにこれ……」


白羽が驚きの声をあげる。


「すごいね、浜野くん」


「そうだな」


小声で囁く白羽に、小さく頷いた。

 

「…………」


ふと、太郎を見ると、仄暗い顔をしている。


やっぱり、何かあるんだろうな。


建物群を分ける真ん中の広い道を歩き、いちばん大きな屋敷へたどり着く。


忍の里とは思えないほど、立派な屋敷だった。


廊下を進み、奥の部屋へ連れていかれる。


襖が開かれると、部屋には一人の男が座っていた。


雑に切られたような黒髪は、肩のあたりまで伸びている。

 

青い和服の胸元が大きく開かれ、鍛え上げられた肉体が晒されていた。


鋭いその瞳は、青く光っている。


思わず息を呑んだ。


空気が重い。


まるで巨大な獣と向き合っているようだった。


名城(なしろ)様」


雀和が跪く(ひざまずく)


「抜け忍、宝村夕生(ほむら ゆうせい)及びその仲間を連れて参りました」


雀和は深く頭を下げる。


男は静かに口を開いた。


「雀和以外の者は下がれ」


その一言で、気配が消えた。


周囲にいた忍たちが、一瞬で姿を消したのだ。


完全な静寂と共に、男が目を閉じる。


そして次の瞬間、目にも止まらぬ速さで、太郎に飛びついた。


「うわあああああああああああ!!!」


「「「えっ!?」」」


男は太郎にしがみついて、泣き始めた。


太郎の表情は虚無だった。

目が死んでいる。

 

「怖かったよおおおおお!!」

「なんで抜け忍になるんだよ!!」


男は太郎の黒い和服を掴んで揺さぶる。


太郎は目を背けていた。

 

「お前のせいで俺が里長にさせられただろうが!!」


「馬鹿夕生!!」


「…………」


真也たちは完全に固まっていた。


「え、あ、あの……名城様?」


雀和が恐る恐る声をかける。


完全に動揺していた。


瞳がゆらゆらと揺れている。


男の肩を掴もうとしたのか、行き場のない両手を中途半端に上げている。


「馬鹿!馬鹿!馬鹿!」

「夕生の馬鹿野郎!!」


周囲がドン引きする中、太郎は落ち着いたままだった。


「お主は相変わらずでござるなぁ、綾彦」


太郎は虚無の表情のまま、ぽんぽんと大きな背中を叩く。


そして雀和に顔を向けた。


「よく見るでござる」

「お主の尊敬している里長、名城綾彦(なしろ あやひこ)は」


少し間を置いて、楽しげに笑う。


「泣き虫な男でござるよ」


「……」


雀和は無言になった。


そして、その場に膝から崩れ落ちた。


小さく蹲る(うずくまる)姿に、真也は少し同情する。


「……俺の……憧れが……」


雀和は静かに呟いた。


「夕生〜!!」

 

未だに、太郎にしがみついている名城に、真也は静かに困惑していた。


ギャップが凄いな。

萌えとかじゃなくて、怖いんだが。


「これはどういうことなんですか?」


「この男は味方ということでござる」


太郎はうっとおしくなってきたのか、名城の肩を掴んで距離をとろうとしている。


「このように泣き虫だが、戦闘では頼りになる男でござるよ」


まあ、さっきまでは確かに強そうだったな。

忍者って、実はみんなこういう感じなのか?


真也の中の忍者のイメージが壊れつつあった。

 

一方、白羽は遠い目をしていた。


「あ〜、どこかの誰かさんが頭に浮かぶわ〜」


真也はチラリと太郎の方を見た。


「拙者はここまで酷くはないでござる」


太郎がむすっとした顔で、怒ったように顔を背ける。


そのとき、泣いていた名城が、ばっと顔を上げた。


目はまだ赤いが、表情は真剣だった。


「夕生……いや、今は太郎だったか」


名城はそっと太郎の肩を離す。

腕を組み、深刻な表情になった。


「事態はかなりややこしいことになっている」

 

「綾彦よ」


太郎の声も真剣なものに変わる。


「まずはここにいる者たちに、このホムラの里について話してやってくれぬか」


「ああ、分かった」


名城は立ち上がり、全員の顔が見える距離に座り直した。


「このホムラの里は、二つの派閥に分かれている」

 

「派閥?」

 

真也が聞き返す。


名城は指を二本、立てた。


「朱炎派と蒼炎派だ」


名城は静かに続ける。


「両派には昔から力関係があった」

「朱炎派は蒼炎派よりも優れている。蒼炎派に生まれた者は、上の役職にはつけないと言われるほどにな」


少し声が低くなる。


「だが三年前、そのときの里長だった太郎が、抜け忍となった。その後、朱炎派の有力な里長候補の忍たちが、次々と暗殺された」

「その結果、蒼炎派本家の俺が里長になった」


名城の目が鋭くなる。


「今のホムラの里は、二つの派閥が激しく争いあっている情報だ」


そこで真也が手を上げた。


「その話と心宝石って、関係あるんですか?」


太郎が眉をひそめて、答える。


「朱炎派の忍を暗殺し、綾彦を里長にした者」

「蒼炎派の忍、安道栞(あんどう しおり)

「その者が心宝石を持っている可能性があるのでござる」


太郎は目を瞑り、話を続ける。


「さらに、安道栞の屋敷には怪しい者が出入りしているらしい」

「その者は……別の世界から来たという噂があるでござる」

 

真也は太郎の言葉に考え込む。


そのとき、名城が不思議そうに尋ねた。


「太郎、なぜそんなことまで知っている?」


太郎はニヤリと笑った。


「ホムラの里には、未だ拙者を慕う者が少なくないのでござるよ」


「さすがだな」


名城は感心したように、柔らかい表情で頷いた。


「仲がいいんですね」


「ただの腐れ縁でござる」


真也の言葉に、太郎はゆっくりと首を振る。


「基本的に蒼炎派は朱炎派を嫌う者が多いのだが、俺は太郎を信頼している。こいつは俺の親友だ」


名城が胸を張って言うと、太郎は胡散臭げな顔になる。


「たまたまお主の泣いている姿を見つけてしまったのが、拙者だっただけでござる」


「だが、お前は誰にも言いふらさなかった。そうだろう?」


「はぁ……」


太郎は重いため息をついた。


「抜け忍になったのも、理由があるのだろう?」

「俺はお前を信じている」


二人の視線が交わる。

名城の瞳には、太郎への信頼が滲んでいる。


「感謝する……」


太郎は眩しいものを見るように、目を細めた。


そして一度両手をパンッと叩くと、真剣な顔に戻った。


「さて、ここからは作戦会議の時間でござる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ